そもそも、何が彼女をここまで駆り立てたのか？
まずは、彼女が心の底へしまい込んでしまっている話からしていこう。
まず第一に語らなければならないのは、彼女の幼少期についてだろう。
彼女は元々、望まれた子ではない。ある使用人との間に生まれた子であった。
彼女の父親は、彼女のことを徹底的に周りから隠した。
彼女を地下の書斎に閉じ込め、使用人すら誰一人として近づかせなかった。
周りから隠されていることと、母親譲りの美貌もあり、彼女は父親に欲をぶつけられる日々を送っていた。
しかし、そんな生活に転機が訪れる。そう、彼女がオーヴァードとして覚醒したのだ。
そうなってしまうと、UGNに関わっている彼らは報告しないわけにもいかない。そうして、彼女は初めて陽の光を浴びたのだ。
UGNに引き渡された彼女は、"グングニル"黒須左京と出会う。
彼との出会いは、彼女にとって大きなものだった。
長い幽閉生活の支えとなった神話、及び英雄譚。そこに出てきた武器のコードネームを持ち、ある種の英雄性も兼ね備えている彼に、彼女は惚れ込んだのかもしれない。
彼女はT市支部にお世話になる事となった。
地下で嬲られていたばかりだった彼女は、人として不足していたものが多く、黒須左京などと関わりながらそれらを学んでいった。
そうしてようやく人として最低限の情緒が育まれた頃。あの事件が起こった。
事件を発端として、狂っていく彼を隣で見ていた彼女は、UGNへの不信感、黒須左京への心配と憐憫。そして、彼が狂っていく様子に対する興奮を強く感じてしまった。
それはなぜか？答えは単純だ。その方が物語として魅力的に思えるからである。
──彼女は既に狂っていたのだろう。
もはや、彼女の目は周りの人間を物語の一節としか認識出来ていない。
例えどんな相手であっても、彼らがどれだけ悲惨な末路を辿っても。
彼女に対しては、輝かしい英雄譚の１頁としてしか関われない。
そんな彼女ではあるが、唯一酒に酔っている時に限り、しっかりと他者を見つめることが出来る。
もしかしたら、いつもの散々な生活は、彼女なりの抵抗なのかもしれない。