最近趣味のフィギュアづくりに精を出し過ぎてお金が無くなってしまったので、仕事を探しに冒険者ギルドに行った。
仕事を探しに行くときはいつもより遅い時間に家を出て、いつもより遅い時間のギルドで冒険者たちが請け負わなかった余った仕事を漁る…今日もいつも通りそんな思考回路で、なんとなくで選んだ巡る空鯨亭に足を踏み入れた。
…のだけど、そこにはなんとあのルアンシーさんが…いや、空鯨亭所属なのでいないわけないんだけど、よりにもよって自分がギルドに顔を出したタイミングで出会ってしまった。
いつもは遠目で眺めるだけだった、こっちを認知することなどなかったはずのあの高名なお方が、恐れ多くも憧れていた冒険者の一人が、今私の目の前にいて、あまつさえ私に話しかけている。
あまりの出来事に、そして久しぶりの他人との会話にあまりにテンパってしまい…とても、とても失礼な反応をしてしまった。
幸い、こっちのコミュ障を理解してくれたようで、失礼な態度は許してもらえたけど、今度は何と私を仕事のお供にと誘ってきた。
私みたいな弱小冒険者に何を期待しているのか…と悩んでいた矢先に、ちょうど魔動機文明時代の遺跡の攻略の依頼が緊急で舞い込んできた。どうやら空鯨亭を指名してきた依頼らしく、ルアンシーさんは一瞬悩みながらもやる気満々の様子。パニックになってて気づかなかったけど、その場にはあのイスティリアさんや、シャルローゼさんという冒険者さんも一緒にいた。
その場に居合わせた４人でこの依頼を受けようという流れになってしまい、こんな豪華なメンツの中に自分みたいなペーペーがいたら足を引っ張らないか、粗相をしないか、というかほんとにわたしも行かなきゃダメなのか、そんなことを考えながら、笑顔で手を差し伸べてくるルアンシーさんに、私はうなずくことしかできなかった。
道中は徒歩で、なんと片道10日の距離。往復20日のこの長旅を、憧れの冒険者と一緒に過ごすだなんて…と、緊張と疲労でヒィヒィ言っていた。ルアンシーさんはそんな私にも優しく気にかけてくれて、シャルローゼさんもたくさん話しかけてくれた…もちろんうれしさはあったけど、それ以上に申し訳なさがどんどんと膨らむばかりだった。
あ、イスティリアさんが連れていた動物…ヘンウェンさんと、カヴァスさん。すごくお利口さんで、可愛かったな。
遺跡の入り口はドワーフの仕事場の中にあって、私の正体がバレないかとてもヒヤヒヤした。結局バレずに事なきを得ることができたけど…やっぱりドワーフ相手は特に緊張する。
遺跡の中に入ると大量の魔動機が歓迎とばかりに襲い掛かってきた。幸い大した強さもなく戦闘はすぐ終わったけど、緊張は続くばかり。久々に使う魔動機術はスカるし、うっかり黒炎なんて出しちゃったら…実は蛮族なんだって、騙された…って、失望されるんじゃないか、ずっと怖くて仕方がなかった。
魔動機文明時代の遺跡なだけあって、中身は機械だらけ。特に人型を模したパーツが転がってて…ルーンフォークとも違う、あまり見たことないタイプ。でも大元は同じ魔道機技術だから何となく分かる。みんなに頼られて…齧ってた魔動技術の知識が役に立ってよかった。特にルアンシーさんは遺跡の機械の一つ一つに興味津々な様子で、意外と好奇心旺盛なんだなって、新しい一面を知れた気がする。
探索の途中、ベルと名乗る偉そうな男の人の声が聞こえてきて、要約すると試練を乗り越えたら遺跡のすべてを明け渡してもいいといわれた。真偽はともかく、私達の目的は遺跡の調査及び機能の停止。言葉の主がいる場所を目指していく。
続く部屋で襲ってきた機械もみんなが蹴散らしてくれて…最初はどうなることかと怖かったけど、途中からは不思議と何とかなるような気がしていた。
道中で色々と話して、ちょっと泣きそうになったりもして…でもなんとか最奥にたどり着くと、そこにいたのは思ったより大きな…限りなく人型に近い、魔動機。
何でも私たち人間をそのまま魔動機に改造して、自分と同じような存在を作りたいんだと、とんでもない提案をされた。
そんなの、死んでも嫌だ。ただでさえ友達も、心許せる相手もいないまま31歳にまでなって…これでもまだ寿命の10分の1にも満たってないのに、もっと長生きしろと。…ありえない。
皆も各々申し出を断っていて、結局戦うことに。でも、戦いの最初の方はまだ覚えてるんだけど、途中から何を言ってたか、何を考えてたか、あまり記憶が残っていない。
覚えてるのは、ルアンシーさんが撃たれて、苦しそうにうずくまる姿と…私が黒炎を解放しちゃったことだけ。
戦いの後、冷静になって、後始末をして、目的も果たして、帰る準備もして…ルアンシーさんが話しかけてきて。
ああ、結局自分がダークドワーフなのがバレちゃったなって…これから降り注ぐであろう冷たい視線が怖くて、泣きべそかきながらとにかく謝り続けた。
でもルアンシーさんはそんな私をやさしく宥めてくれて…と、友達になってほしいとまで…言われた。
断らなきゃ。ルアンシーさんの経歴に傷をつけちゃう。彼女にとってなんの利にもならない。むしろ後ろ指をさされちゃう。
頭では分かってたけど、でも…どうしようもなくうれしくて、涙が止まらなくて、差し出された手を、私は取った。
その後シャルローゼさんも一緒になって励ましてくれて、イスティリアさんもペットの皆さんも、なんだかんだ帰りの道中仲良くしてくれた。
今日一日だけで、私の人生全てが救われたような、報われたような気がした。

お父さん、お母さん。
私ね、生まれて初めて、友達が出来たよ。

忙しなくしている冒険者達を眺めていたら、ついつい昼頃までギルドに居座ってしまっていた。
ご飯を食べて家に戻ろうと思ってたら他の冒険者さんとバッタリ。メルヴィナさんという綺麗な方と、フロスさんというちっちゃくて元気な方、そしてリョウカさんというヤキュウという謎めいた戦法とそれに関わる謎の単語をよく発するとにかくよく分からない方。
メルヴィナさんとは会話の流れから食事を一緒にすることになった。彼女はセブレイ共和国から来たらしい。遠くの国から、こっちでも有名な冒険者の、パラテルルさんに用があって来たそう。
そんな世間話をしていたところ、ギルドの受付さんが張り出していた依頼を提げて、リョウカさんが話しかけて来た。
なにやらユーシズの地下に謎の魔物が出没しているという依頼が来ていたらしく、たまたま居合わせた流れで私もパーティに加わることに。
ユーシズまでは片道5日はかかる距離。前の依頼の時もそうだったけど、やっぱり冒険者稼業は移動時間が長くてとても疲れる…。
ユーシズ地下通路、その入り口付近で件の魔物について話を聞きつつ…リョウカさんが長いこと買い物をしていたみたいだけど、何を言ってたのか本当によく分からなかったので省略。