燻っていた。気分が沈んでいるわけではない。傭兵として敵を討つことも、酒を飲んで馬鹿みたいに騒ぐことも嫌いではない。しかし、繰り返す日々の中で、何かが腹の底に澱み沈んでいった。ああ、苛々する。自分が何を欲しているかも分からず、そのことがまた彼女を苛立たせた。それをほんのひと時忘れるため、酒を煽り暴力を振るう。そのうちにもがくこともやめ、くだらない濁流に身を任せるままでいた。
　そんな彼女を変えたのは、ある男との出会いだった。名家の出でありながら、放浪の旅をしている変わった男だった。彼女は旅の護衛として雇われたのだ。馬鹿みたいな夢を少年のような目で語る男を、無情な現実を屍人のような目で眺める女は鼻で笑った。金持ちの道楽、ボロい仕事だと思ったものだ。
　しかし、男と過ごすうちに、その見方は変わる。共に過ごす日々は輝いていた。目標に向かって進む姿は気高く、自分はその眩しさから目を背けたかっただけだと知った。いろいろなことを教わった。自分の目でものを見ること、自分の頭でものを考えること、その上で成すべきと思ったことを為すこと。もともと彼女に学がなかったのは確かだが、それには知識だけではなく、人として大切なものも含まれていた。そしていつしか、護衛の対象でしかなかった男は、自分に並び立つまでになる。男は主であり、師であり、そして友であった。
　別れは突然だった。男といると自分も特別な人間のように思えた。それが一瞬にして致命的な失敗の原因だった。男は遺跡の調査中、彼女が作動させた罠の身代わりになったのだ。別れの際、男の発した最期の言葉は彼女には届かなかった。ただ、変わらぬ笑顔だけが彼女の脳裏に焼き付いている。
　彷徨い、たどり着いた実家で、彼女は再び燻っていた。昔は父が苦手だった。母はどうしてこんな軟弱な男をと思ってもいたが、今となってはわかる気がした。父は学者であり、父もまた夢を追う人であった。真実というものは、見つけてくれるのを待っているものだ。そんな父に言われた言葉が彼女を奮い立たせた。燻る炎は大火となって、彼女の原動力となっていた。それもそうだ。自分の目で物を見ずに、勝手に決めつけ、勝手に落ち込んでいるのが馬鹿らしくなった。こうしてシャルルは再び、放浪の旅に出た。今度は確かな目的を携えて。

自己紹介

「アタシはシャルル！ちょ〜っと危ない踊り子さ！」
「運動神経には自信があるぜ！頭を使うのは任せるよ。後は、山でも生きていける自信はある！気配を殺して……そう！狩りは得意だぜ！」
「ある人間を探して旅をしてんだ！まあ死んでるとは思うけどな！骨くらい拾ってやりたくてね……わりぃ！しんみりしたな！これからよろしく頼むぜ！」

5-4「古傷の」(携行時)

HPを回復する効果（休息による回復を含む）を受けた場合、その回復量が1点減少する。