そのガルーダはとある蛮族領で生まれ、生後間もなく捨てられた。プライドの高いガルーダにとって生まれつき穢れの少ない出来損ないを我が子と認めるわけにはいかなかったのだろう。
そうしてこの出来損ないは奴隷として蛮族都市「オルダスカ」に売り飛ばされ、他の人族奴隷同様ボロ雑巾のように扱き使われることになった。

昼は重労働に従事し、夜は蛮族達の慰み者として扱われ、戦になれば矢避けのために最前線に送られる。いつ死んでもおかしくない環境だった。精神はどんどん疲弊していく。彼女はいつしか生きることを諦めていた。
死ぬために日常では危険な作業に進んで立候補し、戦場では真っ先に敵の群れに突っ込んだ。だがそれでも彼女は死ねなかった。何度繰り返しても。

そんな生活が続き、名無しであった彼女はいつしか「イセン」という名で呼ばれるようになった。蛮族語で「死に損ない」という意味だ。自分にピッタリだし悪くない名前だと思った。

地獄のような日々ではあったが少しだけ楽しみもあった。それは友人のバジリスクと遊ぶことだ。自分と同じような境遇のバジリスクで、彼女もまた穢れが生まれつき少なく出来損ないとして扱われていたようだ。根暗な子ではあったが、自分には心を開いてくれているようで2人でよく語り合ったのを覚えている。彼女は読書が好きなようで、よく読んだ本の話や彼女自身が考えた空想の話をしていた。それが何になるのだろう、と思って聞いていたが不思議と悪い気はしなかった。
ああ、特に印象的だったのはあれかな。彼女が珍しく明るい声色で話してた時があった。

「本によると外の世界には色んな魔剣があるみたい。もしかしたら穢れを増やしてちゃんとしたバルバロスにしてくれる魔剣や、人族に転生させる魔剣があるかもしれない。いつか2人で冒険して……そんな魔剣を見つけられるといいね。」

そんなこと万に一つも起こりえないだろう、と思った。……だがどうせ死ぬのを待つだけの日々だし、そんな希望に縋るのも悪くないかもしれない。

「じゃあ約束ね！いつか2人で一緒にこの街から逃げ出して魔剣探しの冒険に出よう！」

彼女と指切りをした。

ある日、冒険生活を夢見ながらいつものように過ごしていると街中が騒がしいことに気がついた。どうやら人族の冒険者が潜入していたようで、彼らは秘密裏に人族奴隷を解放していたらしい。蛮族達は奴隷を探し出そうと捜索隊を編成している。自分も駆り出されるだろうなぁと待機していると彼女が慌てて走ってきた。息を切らしながら彼女は「逃げるなら今しかない」と言った。
確かに人族奴隷がいなくなったこの街に残ったところで奴らの食糧になるのがオチだ。私達は2人で逃げ出すことにした。

奴らに見つからないことを祈りながら必死に走った。ただひたすらに走った。そうして気がつけば人族領まで到達していた。ここまでくれば追手はこないだろうが……。これからどうするか2人で話し合うことにした。

まずは放浪者として経験を積み、人族に認められるよう努力しよう。そしていつか冒険者になって2人で魔剣探しをしよう。それが2人が出した結論だった。
それと人族社会に来たのだから名前を新しくしようという話になった。折角だから以前彼女が読んでくれた絵本の登場人物の名前を借りることにしよう。今日から私の名前は「アリス」だ。

こうしてアリスは放浪者としての活動を始めた。現在は各地の村の困りごとを解決しながらいつか魔剣探しの冒険に出られるように経験を積む日々を送っている。

経歴表
2-6 本から大きな影響を受けたことがある
4-4 冒険に誘われたことがある
1-5 未だ叶わない夢がある

生まれた環境
15〜22 奴隷だった
奴隷として生きることを許された。魂の根底から、きみの尊厳は踏みにじられた。

ヴァグランツになった理由
14 探しているものがある

ドロシーが日記つけてるらしいしマネしよ。あんま昔のこと思い出すのも面倒だし直近のことだけ。