墨家はセーリアのあまり裕福ではないところの片隅にひっそりと暮らしていた。
安い大衆食堂で大した稼ぎにもならない炒飯を作る両親と、なぜ顔と名前が一致しているのかわからないくらい多数の弟妹とともに、蓮花は細々とした幸せを享受していた。
別にこの暮らしでも構わないけど、私が大きくなったら絶対にもっといい暮らしをさせてやるのに。
大仰にもそんな野心を抱きながら、今日も一番年下の弟が遊びの延長で負った怪我を癒やして、片手間に鞠をついて遊んでいた。
蓮花はほんのちょっとしか信仰心がないのに、不思議と怪我を癒やしたりすることが得意だった。
両親は祈りが届きやすい生まれなのだろうと笑って、あまり気に留めてないようだった。

蓮花はとても真面目に家を手伝い、弟妹にもよく好かれていたが、なんとなく自分も周りの弟妹もみな拾い子であることを理解していた。
それでもそれは大した問題ではなかった。だってみなが好きで、また好かれていたのだから。
蓮花はその事実だけで十分だった。
大人になったらこのボロ食堂を豪華にしてやるんだ、こんな風に！
弟妹達とそんなことを嘯きながら地面に棒きれで改修計画を綴るのが楽しくて仕方がなかった。
料理だって一生懸命練習した。作った料理で両親が唸ったのを聞いて、得意げに鼻を鳴らしたのがつい最近の出来事のようだった。

蓮花が15の誕生日。この日は少しだけ特別で、ひとりで少し大きな市場に買い物をしに来ていた。
好きなものを買いなさい、と手渡された子供の小遣いにしては少し大きな額の入った財布を大事そうに抱えながら歩き回った。
そうして普段は買えないような甘味を片手に、大きな買い物袋を重たそうに持ちながら帰路につく。

普段は出迎えてくれる筈の弟妹が一人もいなかった。
玄関口で誰か知らない人の話し声がする。
…両親の声も混じっているのが聞こえて、不安になりながらそこへ向かう。
不思議な香が焚かれているのが、余計に焦燥を駆り立てた。
そこにいたのは3人。見たこともない煌びやかな服を纏った小柄な男と、両親。
蓮花は最初は対話をしているのが両親と気付かなかった。それくらい無機質な顔をしていたから。
恐ろしくて、足がすくむ。
しかし、その奥に弟妹達が折り重なるように倒れ伏しているのを見て、恐怖を振り切り駆け出した。

振り返った誰かと両親は驚いた顔をした後に、いつものように笑いかけた。
「おや、もう帰ってきてしまったのか。」
「市場はどうだった？おもしろかったろう。」
ただ一人、見知らぬ男だけがしかめっ面をして、むっつりと口を開く。
「…これは…ヒューリンとピクシーのまざりものか？黒い蓮にしては熟しすぎている。なぜこうなるまで置いていた。」
それを聞いた瞬間、両親の顔から笑顔が抜け落ちた。どこか無機物的な質感のある表情で、
「そうですか。こちらはもう枯れていますか。」
そうもごもごと言ったかと思うと、家の奥に消えていく。
その隙に弟妹達に駆け寄ると、先ほど嗅いだ香の匂いが噎せ返るほどきつくなる。
息はしているようだったが、みな焦点の合わない目をぼうと彷徨わせていた。

「…蓮花、おまえはもう十分大人になったから、これからは旅をしなさい。」
背後から父親のような、そうでないような声が聞こえる。
「旅とは厳しく難しいもの。それでもおまえが無事でいることを父も母も祈っていますからね。」
そういって有無を言わさずに大きなカバンと、餞別だと料理用の大鍋を手渡される。
もしかしたら今日そうなるかもしれない、と思っていたものの、あまりにも状況が異質過ぎた。
これがたくさんの弟妹に囲まれて、明るい部屋で大好きな団子と一緒に渡されていたのなら。
きっと涙を流しながら「必ず立派になって帰ってくるからね」なんて言って。泣きじゃくる弟妹の涙を拭ってやって。
けれど、弟妹は虚ろな顔で床に沈み、部屋にはそろそろ気持ちが悪くなってくるほどに香の匂いが濃く焚き込められていて。

「さあ、行きなさい。」
「さあ、さあ。」
両親だと思っていたものが恐ろしくて仕方がない。足が震えて力が入らない。
ふと小柄な男が口を開いた。
「優しいな。殺しはしないのが我々の信条。ただ、殺し以外はなんだってできるというのに。」
それを聞いた瞬間に冷えた頭に急に血が巡った。ここにずっといるのはまずいと本能が告げる。
バッグと鍋をひったくると、家の外に駆け出す。違法建築と法律ギリギリのやり取りだらけのこの街を縫うように走り続ける。
逃げ出す直前に、やたらと下卑た男の笑いだけが耳にこびりついた。

これからどうしようか、と路地裏で身体を休めていると、ふと残飯を漁る2匹の子犬を見つけた。
首輪をしているというのに、目つきが随分野性的だった。
「…おまえたちも私と同じように小屋を追い出されたのか？」
ただの気まぐれで干し肉を千切って渡す。すると元は随分と人懐っこい犬だったのか、手のひらに擦り寄って舐め始めた。
苦笑しながら独り言ちる。
「本当に、この街は人に優しいのか、厳しいのか…規則に煩いのか、見て見ぬふりばかりなのか…命が明日奪われるのか、それとも奪う身なのかもわからないな。」
「…このまま追い立てられたままで居てやるものか。『黒い蓮』…それがきっと手掛かりなんだ。」
「絶対に…探し出して見せる。旅は道連れだ。お前たちも連れて行ってあげる。行こう、ロイガー、ツァール。」
「…不服そうな顔しないでよ。なんとなく、双子って言ったらそれが思い浮かんだんだ。なんとなくだけど。」

セーリアの九龍城的なスラム街の孤児院的なところで育ったお姉ちゃん気質のエセチャイナ。
将来はこの貧乏食堂を大きくしてみんなに楽させてやるんだ！と料理の練習に励んでいたが、悲しいことにクトゥルフ的なアカン施設(次元回廊を渡ったチョー=チョー人が勢力を拡大したグループによって作られた実験施設)だったため、実験条件にそぐわない蓮花は追い出されてしまう。弟妹の自由と自らの出自、施設の正体を探るため、蓮花は「黒い蓮」を探す旅に出る。

名前

チョー=チョー人が栽培している黒い蓮、のなり損ないで墨蓮花。
墨は水で薄めて使うため、完全な黒にはなれない。≒墨家はエリンに存在しない「黒い蓮」を人工的に作成する実験施設。
ロイガーとツァールはチョー=チョー人が主に信仰している神です。
蓮花がなんでこれをふわっと思いついたかというと、両親があやすときに昔話の代わりに教えてくれたクトゥルフな神話を朧げに覚えているため。そんなもん子守歌にするな。

キャラシコンセプト

これとかこれとかこれみたいなシュブ=ニグラスが関係しているキャラクターシート。
そもそもチョー=チョー人が信仰しているロイガーとツァールはシュブ=ニグラスの子供なので…(こじつけ)
あと普通にシュブ=ニグラスを崇拝してるチョー=チョー人も存在する。
今回のコンセプトはTRPGの方でも大活躍！「アーティファクト」。
墨家はチョー=チョー人の興した新興宗教、「星歩会」の派生施設。
エリンにおける(本キャラシ内の)「星歩会」の目的は、様々な人種を交配したりキメラしたり混ぜちゃいけない物質を混ぜたりして本物の「黒い蓮」に近い生物を作ろう、蓮は植物で生き物だから、がんばれば人からも作成できるよね！というマッドなサイエンティストの発想を現実にすること。
その実験の中で「黒い蓮の可能性あり」と断じられたものが開花するまでの過程を墨家で過ごす。
つまり「生きた黒い蓮」の可能性の塊が墨家の子供たちである。
大きくなっても開花の見込みがない場合は「枯れた」として殺人以外の方法で処分しなくてはならない。
大概は13くらいで旅に出すが、蓮花は働き者だったので旅に出すのが惜しくなった両親が手元に置いていた。
なお、星歩会のポリシーは自分の手で殺さなければセーフなので臓器として売られた子供もいる。蓮花は幸運な方である。

スキルについて

ハーフブラッド(人工)ではあるが、フェイの混ぜ物なので神に信仰届けちからが強いため、アコライトがメインクラス。
本人もちょっと祈るとなんらかの奇跡が起きるから都合いいな～と思っているので適職かもしれない。
チューシについては両親への愛憎と弟妹への後悔と自分の夢が煮詰まったクラス。

二つ名について

メタ的につけているので別に本人が名乗っているわけではない。「黒い蓮」のことをやたら聞いてくるので、もしかしたらそれが疑似的に二つ名として広まったりはあるかもしれない。

アコライト：フルコースを使うのと金策でピューリファイ。
チューシ：ダムウェイター&コマンシャル。バーゲンマスタリーとパーペイヤーもしかして…いる！？(金がない)

重量15、移動力+10、同乗人数1
名前はまだない、声もない。蓮花がワンダのラクダに憧れて購入した駄載獣である。
早速とてつもない量の荷物を運ばされている。