彼女の故郷には美しい水晶がたくさんあった。その量はあまりにも膨大で、それゆえに貴重であるという認識はまるでなく……近所の河原で子供たちがその美しい石で水切りをする、などという光景すら日常だった。ある時、彼女の父がようやくその貴重さに気づいた。開放的な気風でありながら、純粋に距離によって外界と隔絶されていた彼女の故郷。そこに無造作に転がっていた石ころ、それは外の世界では「魔晶石」と呼ばれる貴重品だった。彼らは生まれつきマナを持たずに生まれてくるがゆえにその価値に気づかなかったのだ。彼女の父を筆頭に魔晶石の販路を開拓した彼らは瞬く間に大金持ちと――なってもよかったのだが、彼らにとって外貨を得ることはさほど重要ではなかった。外界から独立した社会に外貨が流入したところでそれ自体は何の価値も持たず、外貨はもっぱら物々交換を媒介するためだけに消費され……結果的に彼女の故郷には異国情緒漂う品物が多く持ち込まれた。そして彼女はある書物において、自身の将来の夢と運命的な出会いをする。
「魔法使い……かっこいい！！」
程なくして、そこら辺の石ころを使えば魔法が使えることに気づいた彼女はもう止まらない。前代未聞のグラスランナー魔術師を目指して里を飛び出した彼女は、途中で出会った旅の道連れと共に……なぜか、天地使いの学園へ流れ着く。
「魔法じゃないけどこれはこれで面白そう！」
グラスランナーらしい好奇心に突き動かされるままに入学を決めた彼女は、文字通り湯水のごとく魔晶石を使う姿から名家のお嬢様だと勘違いされ――周りからのイメージに引きずられてお嬢様口調に染められながらも――夢に向かって学園生活を楽しんでいるようだ。
「お父様、お母様！石ころがなくなりそうですわ！また送ってくださいまし～～～！！」