夜の街で。あるいは、裏路地の暗がりで。
“裏”の人間が弱者を虐げる時、闇から彼女は現れる。

アルビノの白い肌と赤い目を暗闇に隠し、時に血と幻影を操り戦うが、真に畏れるべきはその耳聡さ。
裏の世界で生きる者の弱味を彼女は熟知している。
哀れな被害者に聞こえぬよう二言三言囁くだけで、懺悔を始めた悪人もいたという。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―――いささか誇張を含む都市伝説

臨時UGNイリーガルとして遺産「パワーストーン」を追うR.A.V.E.N.s（Renegade Artifacts recoVery Earthwide Network's）の一員として活動していた。

つい先日まで飲み屋の軒下を転々としていたとは思えない量の荷物を何とか荷造りしながら、物思いにふける。
あの男子高校生3人組は今頃どうしているだろうか？
オーヴァードへの覚醒はしていないからきっと記憶処理されて日常へと戻ったのだろう。
秘密基地など作っていたが元々やっていたことは勉強合宿なあたり、根は善良で真面目な子たちなのだろう。
たまたま手に入れた大きな力によって一時歪んでしまっただけ。やはり迅速にあの宝石は回収しなくては。

荷物から手鏡が落ち、無意識に目で追いかける。
たまたま生まれ持った力を振りかざしてヒーローを気取る女の顔がよく映っていた。

「見捨てる」「見捨てられる」ことに対し強い忌避感情を覚える。「頼みごとを断らない」というポリシーも言い換えれば見捨てたくないということ。誰かを利用して使い捨てるような行為には強い憤りを覚えるが、唯一自分自身に対しては『役に立たなければ見捨てられるのも仕方がない』と受け入れてしまっている。
R.A.V.E.N.sの皆に対しては戦友としての信頼、父親に立ち向かうときに一緒にいてくれた感謝、自分の家の事情に巻き込んでしまった負い目を感じている。

乙斗ちゃんがマスターピースとの間にどのような決着を望むとしても、側で力になる。
私がお父様と向かい合った時、リーダーはそうしてくれたから。
予想外の真実、意外な展開を前にしても冷静でいなければならない。
能勢さんがそうしてくれていなければ、私はお兄様を拒絶していたから。

太陽に住む金烏(八咫烏)、箱の中の太陽を盗んで天に浮かべたアラスカ神話の鴉、太陽神アポロンの伝令を務めたかつて白かった鴉など、世界各地の神話で鴉と太陽は結び付けられてきた。
マスターピースとの決戦。6枚の銀翼を駆る乙斗ちゃん(リーダー)の姿は眩しくて、綺麗で……
ずっと彼女についていこう。彼女を先頭に飛翔する鴉の1羽に加わって、皆を照らしてより輝かせる太陽のようになりたい。
きっと、それが光を操る力を宿して生まれてきたことの意味。

ここのところ、自分の表情が柔らかくなってきた自覚がある。
きっと皆と一緒にいるお陰。因縁を皆と乗り越えてきたおかげ。

乙斗ちゃん。……お姉さんはまだ目を覚ましてないから、不安かもしれない。
でも大丈夫だよ。リーダーとしてみんなを導いて、救ってくれた貴方だから。貴方にだけひどいことなんてないよ。
迫る死の頸木から解き放たれたお姉さんと、絶対仲良くできるよ。

能勢さん。…正直、家族があんなことになってるなんて気づかなかった（ごめんなさい）。
影がある感じはしたけど年上の人だし、あんな風に落ち着きを持つまで苦労があったんだろうな、みたいな。
能勢さん本人の周りは特に盗聴の危険が大きいから何も言えなかった間、ずっと早く安心させてあげたいって思ってた。
本当に、よかった。お兄さん家族は何も知らないらしいけど、それでも直接会えたらいい。会ってあげてほしい。

千愛ちゃん。別世界から来た、っていうのは、いまいちイメージできない（それもあんなのがいる世界！）。
貴方がいた世界だから、悪いことばかりの世界ではきっとないんでしょう。
……千愛ちゃんだけは、家族との縁を取り戻せたわけじゃない。迷惑なのが来て帰っただけだ。
元の世界に家族はいたんだろうか？
独りぼっちでさみしいとは思わずにいてくれたら嬉しいな。


暖かなみんなと過ごした中で、私もみんなと一緒にいられるような、暖かさを貰えた……ような気がする。
少なくとも、戦いの為に情をあっけなく捨てて愛沢ちゃんの眉間に狙いをつけた裏路地の怪人は、いつの間にかすっかり薄れていた。




予感がする。
創星の宝石がもたらした戦いは、もう間もなく終わる。
それでも、同時に作られた絆と、取り戻したつながりは、、ずっと、、、これからも、、、、、、、、、、、、きっと――――――

いったんは解散、か。でも千愛ちゃんよく言ってくれたわ！愛してる！
再結成までは、、、、そうね、お兄様も正式にエージェントになってるんだし、そちらにいることにしようかしら。
……ん？そしたらお兄様…………先輩！？
乙斗ちゃんと能勢さんの所属支部ってちょうどこの辺よね…。……うーん、ダメ。お兄様だけ紅音本邸のある北海道に放り出して、問題があったらお兄様だけ仲間外れになっちゃう！


……日記を書く手が進まない。千愛ちゃんや能勢さんは慣れてそうよね。こういうの。日頃から習慣付けておけばよかった。慣れって偉大。

“創星の宝石”事件、私的な問題の範疇だけど気がかりな点は残っている。
“マスターピース”刺裂姫路に創星の宝石について教えたのはお父様だった。
お父様はあの宝石について、何を、どこまで、どこで知ったの？
あれを使って、姫路さんを利用して、何をするつもりだったの？
……知る術はない。知る必要さえもない。お父様は撃たれて死んだ。

みんながオーヴァード・レネゲイドという存在に否定的だったの、今ならちょっとわかる。
姫路さんを救いたいという家族の思いをここまで捻じ曲げて、悲劇をばらまいたのはレネゲイドなんだ。
もちろん悪いだけでもない。私がオーヴァードだったからこそ、みんなに出会えた。
日差しに灼かれて死ぬ定めだったはず(極度のアルビノ)の私が砂漠の国で外を出歩くことさえできるのも、この力のおかげ。
でも、、、、悲しい。今までみたいに前向きにとらえることは、できそうに、ない。


……この辺にしておこう。どうも煮詰まってネガティブになってきた。
なんだかんだ、いい方向に進んだことが多い。みんな笑顔で祝勝会までするようなハッピーエンド。明るい気持ちでいなきゃ嘘よね！




追記
朝イチで北海道までの移動ルートと支部の案内が完璧に準備されていた。
昨日珍しく休暇だったんじゃないんだろうか、あのおじ様。

誕生日：10月2日（守護天使の記念日）
他PCへの呼び方：乙斗ちゃん（平時）orリーダー（公式・戦闘時）、能勢さん、千愛ちゃん



……前々からうすうす感じてはいたけど、能勢さんと乙斗ちゃんの関係はなんだか特別。
特に能勢さんの方。彼の冷静さには心底助けられたけど、乙斗ちゃんのことに限ってそれが揺らいでる。
それが……うーん……ちょっと面白くない、だけでもない。まるでふわふわした幻影の私が何人もいる(マスヴィジョン)みたい。

本宅は北海道に存在。その他にもイギリス、アメリカ等世界各地に別邸が存在する。
前当主・紅音朱雀の死後、当主は空位となっており、緋彩と麻里の相談で運営している。
(仕来りの上では継承順位は緋彩が上位。資産家というより武門の一族であるため、養子であっても朱雀配下としての武勲がある緋彩の方が実子の麻里より優先される)
研究設備などはFHの研究員により破壊されており、何も知らないスタッフやハウスキーパーの雇用維持にちょっと頭が痛い。(データ上は使用人)