男が語るに、自分の生まれた家は冒険で財を成した一代貴族だったのだという
比較駅裕福で生きるに困ることはなかったが、それは長くは続かなかった
彼は、物心ついた頃の一部の記憶がないのだ
それは彼の家が滅びた時のことだ、自身の意識を取り戻した時にはもう全てが燃えていたという
その直後に羽振りのいいごろつき共が現れたのだという。答えはそういう事なのだろう

戦う事が不得手であった男は知を身に付け、戦場を変えた
自身の持てる技を以て名を上げるために
それが自身を守り、居場所を守るための一番の策だと信じひたむきに

曲を奏で、歌と共に過去を語る姿に人は惹かれ涙を流す者もいた
彼は素晴らしい人だと称賛する者もいた

そんな声を聴きながら、歌うその男の目は妖しく嗤っていた
その歌が嘘か誠かを知るのはその男だけだった

有為/隔意
・種族柄もあり色々要領よくこなしてくれるそれは大いに助かっている
しかし自由すぎる...少々私が過去の印象に囚われているかな？

懐旧/厭気
・久々に姿を見れば様相の変化が酷い
聞き分けは良くなったが、終わりに近づき過ぎている。最期まで利用させてもらう

親近感/不安
・お金はもう少し計画的に使った方がいいよ
まぁ楽しそうだし仕事もしっかりしてくれてるから好ましくはあるがね

信頼/恐怖
・必要に応じて立ち回りを変える動きには大いに関心する
まともに話ができるが、少々...いや明らかに他者に情を向けているソレは危うい

感服/無関心
・こちらもまた久々に見ればツノが成長期なようで
終わり寸前、早々に壊れて欲しくはないがね。まだ使える

好奇心/脅威
・相も変わらず不明瞭な男だが、ギルド側であることは確かだ
事を争うつもりはないが私の目的に際し少々面倒だ

本日、ようやく悪徳の都へ到達した
護衛達は少々乱暴な所はあったが気のいい連中だった、労いに報酬とは別に共に食事でもと思っていたが事情が変わった
道端に転がっていた死体から闇ギルドの手掛かりを得たのだ
なんと幸運な事だ、たかが紙切れ一枚だがそのお陰で早々に一つ目の目的を達成したのだから
手掛かりを読み解き館へと、その奥へと進む。そこには既に数人が通されており、どうやら私が最後だったようだ
現れた男は依頼を告げる、奪われた物を取り返せと、愚者に恐怖を刻めと
私は戦いはさっぱりだが連中は腕は立つらしい、実に都合がいい。戦闘は連中に任せてしまおう。私はそれ以外で役割を果たせばいい。

せっかくだ、仲良くしようじゃないか
険悪な関係よりその方が円滑に進む、道具はお互いに補完し合うモノだ。この都に来たからにはマトモに死ねないのだ、その瞬間まで目的の為に協力し合おう(使い潰そう)じゃないか

この都に来た日からの地道な活動がやっと実りつつある
ここまで泥臭く顔を売ったのは何年振りだろうか
犯罪都市故か物理的な力の無い芸能関係の者は他都市より少ない、と言うよりもその傾向に偏りが有ると言ったところか。私としては都合がいい事ではあるのだが
少し大き目の酒場や娯楽施設に呼ばれて演奏をする機会が増えてきたのだ、技能を身に付けて正解だ。この調子で名が広まれば権力者に接触するチャンスがより多くなる

そんな中で依頼のあった闘技場へ向かえばなんだアレは、なぜ彼女達が闘技場に立っているのだ？
態々そんな目立つ事をしなくとも君達なら金を稼げるだろうに……
理解が追い付かなかったがそれがまた少々愉快で、曲を奏でる指先に力が入ったのもまた事実だ
お陰で依頼人も満足してくれたし賭けで一儲だ、彼女らはとてもいい働きをしてくれた

その後間もなく闘技場を後にしたが、あれだけ揃って居たのだ、何か調査の一環だったのだろう
形だけでも上手くいく事を祈っておこう
次の行き先は…×××の邸宅だったな
ここからだぞ、私は

久方ぶりにあの部屋に行けば似つかわしくない風があった
こんなところで見るとは思わなかった、実に整った身なりだ。
その恰好は少なくとも新市街側の人間だろうによく闇ギルドまで辿り着けたものだ。

話を聞けば遺跡の盗掘品を回収して欲しいと言う。
それを持っているのは盗賊ギルドとも違う小物の集まりのようだ、拾ったものを高額で売り飛ばして荒稼ぎしているとか
金さえあれば今からでも手に入れれそうだが、欲している者が来たなら更に値を吊り上げるだろうな
であるならばこうして奪取を依頼した方が結果安価で済む
気に入った、だから彼女らが何か言う前に主導で話を進めて依頼を受ける事とした
雰囲気的にも誰も断るような様子はなかったが、それなら手早く済ませた方がいいだろう

小物共の組織は魔物を調伏し使役しているという
確かに脅威だがこちらにもライダーが居る、優秀なスカウト達も先行して仕掛けに行った
私は連中に関して調べ計画を万全のにするとしよう...もしかするとそれすら必要ないかも知れぬが

そして翌日我々は屋敷へ強襲をかけた
改めて分かったが、こちらのスカウトたちは非常に優秀だ
罠の解除もさることながら夜襲にて数人を始末していた
そのお陰もあり警邏連中は難なく突破することが出来たのだから
倉庫にあった宝箱には罠があったがこちらもタカが知れているものだ
適当な遺物も回収が出来て儲けものだ、これから所持者が居なくなるのだから私たちが貰っても問題ないのだから
それよりも個人的にはその部屋で見つけた取引の帳簿の方が有用だった、活用させてもらおう

組織を率いる者は臆病な者が相応しいとは言われているが、ここの頭は愚かなだけだった
確かにディノスは脅威だが、それまでだ
警戒をしていた者たちと連携をとっていればもしかしたら生き残れたかもしれないがそれも無し
自身の力を過信し、虎の子のディノスをすぐ傍に控えさせず孤立していた
せめてどちらかを行っていればよかったものを、先行したドクにより一瞬で瀕死まで追い込まれる始末
...デスクが邪魔していたのがとても惜しい、あの音が聞こえた瞬間をこの目で見たかったよ

ここまで書けば結果は知れているだろう
別段損害も無く目的の物は回収できた
意外だったことと言えばあの骨(スケルトン)が壊れることなく最後まで残っていたことぐらいか
アンデッドは脆い筈だが術師の腕なのか、使える道具が良質なのに越したことはない

依頼主の反応は淡泊ではあったが、成果は見せたのだ、縁はできた。
また何かあれば接触することもあるだろう。あわよくば南側にお呼ばれしたいところだが...
まぁ急ぎ過ぎても何も残らない、今後に備えて次の行動を起こそう
「ということで一曲どうだろうか?」

ギルドからの召集、何かと思い向かえば人を探して来いと言う
この場所で人攫いと言えば日常的な事だが、今回は冒険者が戻らぬのだと。面白い内容ではないが「○○を始末しろ」よほどらしい。
それにここは冒険者ギルド。表で働く者が居なくなれば裏で動く我々には不都合が出る、ならば受けぬ道理はないが…前金が良くなかった
前金が全員で3000Gと告げられ、数人の意気が削がれた。
3000Gといえばそれなりの金額だ、良くない反応だとは思いつつも彼女らを責める事は出来なかった、私も肩を落としてしまったからね

失踪者の足取りはすぐに調べが付いた
追えば一つの宿屋、お世辞にも過ごし易いと言えないその場所には一人老婆
泊まると告げると一部屋1000Gと言う
吹っかけ方が余りにあまりで笑ってしまった、誰かが指摘すれば50Gでいいと言う、それでも高い。ここが自室であれば笑い転げていただろうね。

面白かったので支払うこととした、幸い前金もあったしここで事を起こし、それに気付いた黒幕が姿を眩ましたら笑えない。ドクも達も支払う様だったため穏便に済ませることもできた。

部屋の中は外観同様で特に語ることもない、その気になれば壁も床も穴を開けれる程度の厚さだ
適当に時間を潰し、時刻が12時を過ぎた頃、強烈な衝撃に襲われ身動きが取れなくなる。
晴れて我々は囚われの身となった。

次に気がつけば4人仲良く檻の中、見せ物小屋の動物の気分だ
黒幕の女と誰かの会話が聞こえたと思えば外に居た3人がここに仕掛けて来たらしい、途中「無様ね」と聞こえていたが聞かなかったことしよう。

敵は低級魔神と人族の様なもの
光に弱かったりで大した脅威ではなかった、戦闘の殆どをネロの作った泥沼に沈んでいたのは面白い点だ
途中骸骨が擬態魔物に絡まれてたりしたが今回も壊れる事はなかった、何だアレ

蘇生ビジネスでも無かった今回、目的を知る為にヤツの残したものを調べて見れば背筋が凍った
アレは転生を行なっていたのだ、そして更なる研究の為強度のある個体を集めていた。冗談ではない、体を乗っ取られる事が起きれば蘇生を受けることすらできないではないか
少々この国を侮っていた、万が一を考え様々用意をしておかねば…保険はいくらあってもいい。目的を果たす前に朽ちる事を避けねばならない

その日、休む間もなく男は歌い続けていた
この国でも聖なる日は、他国と変わらないらしい
根っからの悪党共も、まだ擦り切れてない子供達もどこか浮ついた様子が窺える。

昨夜は遅くまで依頼をこなしていた為朝は省略。
日が頭上高くに昇る頃には催し物のある広場にて高らかに聖なる日の祝い歌を歌う、芸能芸術に関わる者はあちこち走り回っている。
こんな日は多少平和な様だね、子供の数も心なしが多い。私としても単独で通りを歩いても怖く無いので助かるよ。

日も傾き始めれば街の雰囲気はまた変わる
この時間からは大きい酒場でイベントがある。仕事に困らなくていい
この場にいるほとんどがクソ野郎だ、そんな連中でもこういう日は罪なき人々と同じように騒ぎたいらしい
まぁそういう連中はこういう場所でのマナーを弁えているから金払いが良い。
あまり大きな刃傷沙汰が起きなければ私としてはどちらもいいお客様だ、「メリーライフォスマス(毎度ありがとうございます)」良い聖夜を

夜の帳が下りれば知り合った金持ちの家に招かれ歌う
ここの家は何の商売をして...まぁ今夜ぐらいは探りはやめようか
個人宅はいい、周囲に気を張らなくていいからリラックスできる
夫婦は豪奢な食事をとり、子供達は遊びながら曲を口ずさむ
...この1回で日中の活動より実入りがいい。本当にいい夜だ

拠点に帰る頃にはすっかり日付も変わっていた
流石に疲れた、しかし不思議と満足感はある
今夜はゆっくり眠ることが出来そうだ。それでは良い夜を