巡想館に名前を登録してから何度か依頼を受けて、少しずつ冒険者というものに慣れてきた。元々勉強が得意ではなくて1人理解が遅れていた学園時代、それでも最低限の操霊術を身につけて外に出たものだから魔法以外の理解は遅れていた。
冒険者とは何か、魔物の恐ろしさ、協力することの重要さ、世界の広さ、その他あらゆる事は冒険者になってから実感として知った。

そんなある日のこと。
巡想館のカウンターで、あからさまに困ったような顔をしていた1人の男と出会った。なんだか放っておけなくて声をかけたら、名を【エックス】…どうやら正義のヒーローらしい…といい、人付き合い、特に女性との関わり方について分からなくなったようだった。

話してみると、エックスも色々なことが理解不足らしかった。成人しているはずなのに、まるで子どものようだ。エックスは子供の頃からずっと病気で伏せっていて、ようやく外の世界に出ることが出来たのだと嬉しそうに語ってくれた。

分からない者同士、気があった。
ムクロとエックスは2人で勉強を始めた。他の魔法体系のことは分からなかったから、エックスからは神聖魔法について教わった。どこか偏った学びだったかもしれないけれど、2人で得た学びは新たな発見になる。それが楽しくてエックスと学ぶ時間は日々の楽しみになった。

またしばらくして、カウンターで落胆している別の男をエックスと見掛ける。リカントの双剣士だと、出で立ちからすぐに分かった。声をかけると、報告のための書類を書いたのだが字が歪で読めないと言われたらしい。
横から眺めればなるほど、力強いが形が崩れて解読が必要そうな文字だった。

ならば一緒に練習しようと、そのリカント…【ルガロゥ】を勉強会に誘う。
ルガロゥは最初疑るような視線を向けていたが、ムクロとエックスがただ純粋な厚意で言っていることが伝わったらしく、訝しみながらも承諾した。魔法文字を描くのは複雑な魔法になるほど難しくなるから、苦手な文字を書く練習を誰かとできるのはとても嬉しかった。

ムクロと、エックスと、ルガロゥ。
欠点のある者同士が寄り合って、補うための下地を作っていく。
そのことにムクロは、とても温かい気持ちになった。1人心細い思いをしていたから、友達が出来たようで嬉しかった。学びを共有できる喜びに、日々が充足していった。

スケッチブックを開いて、絵の具を用意し絵筆につける。
決してお金が取れるレベルではないけれど、自分から見た仲間を形に残しておきたくて。
慣れない人物画を、ムクロは夜な夜な少しずつ進めているのだった。