白磁のような肌に金髪碧眼が映える、野生味の溢れる美女。
全身の至る場所から蒼炎を吹き出している。

弱肉強食がこの世の絶対のルールだと信じ、自身が絶対的強者となるために努力を惜しまない。

一人称は「俺」。普段から粗野な口調で話し、時々人を煽るような言い回しをする。

数多の魔器と秘伝を駆使して戦う。
その武技はシンプルでありながら捉えどころがない。踏み込みは直線的であるにも関わらず、鋒(きっさき)の行方が予測し難いのだ。
それは使い手である彼女がその強靭な体幹と足腰を最大限活かすことで、鋒の軌道に大きな縦の動きを生み出しているからである。
超低姿勢から放たれる強力な切り上げ、不意の跳躍から放たれる幹竹割(からたけわり)、全身の捻りを利用した特殊な軌道の袈裟斬り等々、理不尽なほどの初見殺しが相手を襲う。

とある町の人間の夫婦の元に生まれたが、全身から吹き出すマナの炎を恐れた両親に忌み子として恐れられ、生後間も無くしてアルデンヌの森に捨てれられてしまう。

周囲からは獣の息遣いが聞こえる恐ろしい闇の中、赤子は庇護者を求め泣き叫び続けた。
命の灯火が消えようとした時、偶々そこに街を追われたコボルドが通りかかった。そして、そのコボルドは衰弱した赤子と己の姿を重ね、自身の手で赤子を育てることにしたのだった。

二人の共同生活は決して豊かなものではなかった。育ての親であるコボルドはとても要領が悪く、食料の調達や子育ての面においてもその要領の悪さは遺憾無く発揮されたのだ。
ひもじい思いをしてばかりの生活の中で、幼いジークリンデがコボルドに辛く当たったことは一度や二度ではない。その度にコボルドはみっともなく泣きじゃくり許しを乞うのだった。
当初はそんなコボルドのことをよく思っていなかったジークリンデだったが、やがて自分の受けている愛情の大きさに気づき、徐々に親として受け入れていった。

そんな生活が続いたある日、森に住む盗賊の一派に棲家を襲われ、突如としてコボルドは命を落とした。
ジークリンデは咄嗟に仇を討とうと試みたが、大の大人相手には当然敵うはずもなく意識を刈り取られてしまう。
小汚いガキだが何かの役には立つだろうと盗賊のアジトに連行され、彼女は奴隷兼使い捨ての駒として過酷な環境に身を置くことになった。
やがて、盗賊の一員として窃盗や殺人を行う中で一つの気づきを得る。
「あいつも弱かったから死んだんだ。弱いままでいるのはバカのすることだ」
以降、弱肉強食こそがこの世の絶対のルールなのだと彼女は強く認識するようになった。

ある時、盗賊団が森の中を通る荷馬車の一団を襲った。
荷馬車の中には大昔の刀剣が詰め込まれており、期待以上の収穫に当初盗賊たちは舞い上がった。
しかし、よく見てみればそのどれもが鈍らで、普段彼らの佩いているものに比べても数段落ちるものばかりではないか。
これでは大した稼ぎにならないと判断した盗賊たちは、一団の中でも特に身なりのよかった学者を身代金目的で幽閉することにしたのだった。

「やはり盗賊なんてのは阿呆の集まりだな。まさかアレの価値に気づきもしないとはね。全く恐れ入ったよ」
ジークリンデが件の学者を監視していると、そんな独り言が聞こえてきた。
「あんな鈍らの何がいいってんだ。何の役にも立たねえだろ」
学者は大仰にため息を吐いた後にこう言った。
「あれをアクティベートすることさえできれば、君のお仲間が束になったところで100回は殺せるだろうさ」
驚きと同時にジークリンデの胸中に希望の火が灯る。
「...それは本当か？」
学者は一瞬驚きの表情を浮かべると、悪魔のような笑みを浮かべて提案した。
「やるかい？私たち二人で」

それからというもの、ジークリンデは基本的な読み書きに加え、魔器や呪印についての知識を学者から学んだ。
それと並行して蔵から持ち出した魔器の調整を共に行い、いくつかの簡単な呪印の効果を再現することに成功した。
「これで一通りの準備は済んだろう。最初は単なる暇つぶしのつもりだったんだが、なかなかどうして楽しめたよ」
「ああ、これなら間違いなくあいつらの息の根を止められる。あんたに教えてもらえて色々な強さがあることにも気づけた。今まであんがとな」
「なあに、事が上手くいけば私も助かるからね。当然協力はするさ。街に戻ったら、真っ先に私を見捨てた連中の面をぶん殴ってやりたいよ」
「あんたもいい性格してるよな。全く」
ジークリンデはこれまでの日々を思い返す。
力をつけた。打てるだけの手も打った。きっと上手くいくはずだ。彼女は己にそう言い聞かせたのだった。

炎に包まれ崩れ落ちていく盗賊の根城を背に一人の少女が泣きじゃくっていた。
「どうして...どうしてこうなんだよ！！」
作戦はつつがなく進行し、盗賊のほとんどを殲滅することに成功した。
しかし、どこかに隠れていた最後の一人がジークリンデの背後を突き、それを庇った学者は致命傷を負ったのだ。
「ただ運が悪かっただけだよ。こんなものさ」
「違う！俺にもっと力があれば！」
「そうかもしれないね。でも、ただ闇雲に力を求めれば人の道を外れてしまうぞ」
「...？」
「わかってないって顔だな...
これが最後のレッスンだ。君は外の世界を見て回れ。いいな？」
「今そんなこと言われてもわかんねえよ！」
「いいな？」
「うぐっ...」
尚も真剣な眼差しを向けられ、ジークリンデは遂に観念した。
「わかったよ！やってやるよ！」
「それなら安心だな」
学者は徐に目を閉じると、少女の膝の上で息絶えた。

ジークリンデは外の世界を見て回った。
人の世界を見て気づいたのは、何かを生み出す存在がいて初めて豊かな生活が手に入るということだった。
今までのように力に任せて他人から奪い続ければ、その果てに残るのは枯れ果てた大地のみだろう。
そこに思い至り、漸く師の言葉の意味を掴みかけてきた。

「この街で見るもんは見た。そろそろ次の街に向かうとするか」
こうして彼女は新たな街へと足を進めるのだった。

果たして遍く命に守る価値はあるのか。
テンペリナが炎に包まれたあの日から、ジークリンデは絶えず自問し続けている。

恵まれない環境の中でも力強く生き抜いていた孤児院の子供たち、自分たちの世話を焼いてくれていた裏でメノウを手にかけたロペ、上澄みをすくうだけすくった挙句に逃げおおせたクソエルフども、そして皆をクソだと言い放って死んでいったスー。どれも同じ命であることに変わりはない。しかし、それらがどれも同じ価値であるとは到底思えない。
そこに疑問を投げかけたのは、彼女が助けるに値しないと断じた者たちにでさえ手を差し伸べ続けた一人の男の在様だ。何故彼奴は誰彼構わず救おうとするのか、それがどうしてもわからない。
この疑問は、命の尊さに心及びつつあった彼女にとって、とても大きなものとなった。

また、スーが街を燃やそうと画策していることに気づいた時のことだ。本気でそんなことをする奴があるかと鼻で笑った自分に対し、彼奴はどこまでも本気でそれを止めようと奔走していた。結果として街は燃え、孤児院の子供たちの帰る場所までもが失われた。何故彼奴を信じようとしなかったのか。そして子供たちのためにもっとできることがあったはずだ。あの日から後悔し続けてやまない。

それらを振り切るかのようにジークリンデは戦場で剣を振い続けた。数多の命のぶつかり合う戦場の中にこそ、自身の抱く疑問や後悔の念に対する答えがあると信じてのことだった。
そして、彼女は強くなった。戦場で出会った強者たちの技を我が物とし、戦士として高みに至ったのだ。
しかし、それでも尚答えは見えないままであった。

悶々とする日々を過ごす中で参戦した第6次イスマエル奪還作戦。そこで獅子奮迅の活躍を見せ、名声を欲しいままにした彼女であったが、それでも尚心晴れることはなかった。
しかし、とある話が彼女の耳に入る。テンペリナの英雄が戦争を終結させた、と。そんなことをやってのけるのは————
思い至ったのは一人の男。彼奴————ディレクタスと話をしなければならない。
ジークリンデはディレクタスの足跡を追った。