C‐4‐1家族に魔法使いがいる(いた)
C‐5‐4魔剣の迷宮で迷子になったことがある
A‐1‐5罪を犯したことがある

6‐2自由を得るために

「なぜこんなにつまらないことをしなければならないんだろう」
彼女はそう呟く。
彼女の名はイドリード・シュッツヴァイセ、とある貴族の傍系に当たる少女だ。
時刻は丑三つ時、草木も眠るような静寂の刻。
彼女は食事に困ることも無ければ、望んだものは大抵手に入れることができる立場にあった。
“自由”を除いては………だが。
彼女は高貴なる生まれだ、当然のごとくその責務が課せられる。
………今となっては我が儘なのだろうが、それでも彼女は“自由”を渇望していた。
決められたように生き、決められたままに死ぬ、そんな生き方を彼女はしたく無かったのだ。
「そろそろ頃合いかしらね………」
そう、彼女は決意する。
特権も立場も名前も捨て去って、ただのイドリードとして生きるために。
監視の目を潜り抜けて、彼女は自身の寝所を抜け出すと、町の外へと駆け出した。
……それは罪、彼女の行いは家を裏切り、親を裏切る罪科であろう。

息が荒い、今までずっと家の中で蝶よ花よと育てられていたのもあるだろう。
しかしこの呼吸の荒さの要因はそれだけではない。
親も、家も裏切ったことに対する罪悪感。
ついに自由を得たという達成感。
そして初めてその眼で見た世界への畏怖。
そのすべてが彼女にとって初めての感覚だった。

だからだろうか、周囲の景色が一変していることにその瞬間まで気が付けなかったのは。
気づけば、眼前には悍ましき魔物の姿、その眼光は迷い込んだ矮小なる得物を捉え、汚らわしい嘶きは少女に恐怖を与えただろう。
少女は恐怖に身を捩り、眼を瞑る。
しかし、いつまでたっても少女を痛みが襲うことは無かった。
「大丈夫か？」
声が聞こえる、透き通った、男の声。
少女は恐る恐る眼を開く、眼前には軽鎧を身にまとった、一人の剣士と、先ほどの怪物の死骸が一つ。
「どうやら無事みたいだな、間に合ってよかった」
男は自らをレイヤ・ソウラムと名乗った。
彼は導きの星神ハルーラの信徒であり、冒険者であった。
野営の最中、イドリードが走り去っていく様子を目撃し、魔物に襲われてしまっては危険だと思い後を追ったのだという。

その後、イドリードはレイヤから冒険者として生きる術を教えられ、冒険者として活動しながら旅に出ることにした。

―――時は進み、現在、イドリードはイドリード・ペイルライダーと名乗り、“前兆の騎兵”として冒険者として活動している。