生まれた環境表

'・高貴な出自：高貴な家柄に生まれた。
ユネルマの父はミストエルフとしては相当な変わり者で、生まれた村の排他的な因習に嫌気が差して
早々に村（森）を飛び出し、村の森羅導師や妖精使いから教わった秘薬やアイテムの作成と行商で
身を立て、扱う商品の範囲も、その好奇心の強さから、各地を旅して様々な特産品を見つけ、
冒険者やならずものから遺跡由来のアイテムすら仕入れる、半分冒険者のような生活を続けた結果、
魔動機工芸品の類まで幅広く扱うようになり、ユーシズでも一目置かれる大商人にになる。
趣味は魔動バイクを乗り回すこと。

同じような理由で、保守的な大貴族の実家（ウェルディエ家）を飛び出した母（エルフ）と大恋愛の末、結婚。
二人は仲睦まじく、彼女が冒険者だと知ると、しばらくは商売を部下に任せて一緒に冒険に出るほどだった。

後に、蛮族の襲来で住む森を失って没落しかけた母の一族を救うため、
（飛び出した母も、流石に一族滅亡の危機には、実家を救いたいという気持ちが働いた）
ユーシズの議員のコネでコロロポッカの森の外れ、魔晶石の産出もなく、
国益にならずと判断された広大な林を買い取り屋敷を建て、彼らを住まわせた。
その折に二人の結婚を認めさせ、自分は母方の爵位を継承し
頭首となった。


・溺れたことがある
産湯で溺れた。ユネルマの人生のケチはここから始まったともいえる。
母似の白金の髪と顔立ちに生まれたことから、エルフだと勘違いされ、たっぷりの産湯に
漬けられたのだ。結果溺れることで父の血を受け継いだミストエルフであることが判明する。

その後も早産だったせいか、母が魔術師の家系で身体が比較的弱かったせいか、
とてもではないが、父の仕事を受け継いで常時過酷な旅ができるほどではなく、
魔力は強いものの母方の真語・操霊魔法の奥義を継承できるほどの適性はなかった。

豪放な父はきっとなにか向いていることがある、と気にせず、ときに調子がいいときには
バイクに乗せたりして様々な体験を与え（なんと魔道死骸区まで連れられたことがある）
なんだかんだと心配性の母は、向いていなくても知識だけは、と出来る限りの書物を与え、大切に育てた。
ユネルマは母から与えられた書物の中で、自分の力で未知の危険と対峙しロマンを
勝ち取っていく冒険者の生き方に憧れるようになる。

おかげで天真爛漫、父譲りの好奇心を持ち、母譲りの地道な努力を怠らない
粘り強さを備えるに至り、病弱ながらも、父の仕事は
彼自身が苦手な細かい計算を任せた部下の補佐ができるほどに、
森羅導師や妖精使いが多かった父の村の血のおかげか、動物に好かれ
水の騎獣を仲良くなることで、水との付き合い方、乗りこなし方を覚えていく。

だが結局本人の資質は家門向きでないこと、父ほどの覇気がないことから、
次期当主としては不安だという意識が母方の親戚には広がり、
度々母方の儀礼で使われる水の儀式の度に水と貴族が苦手になっていく。

結果、意識面での明るさとぼんやりとした抜けたおおらかさと裏腹に
誰か（父や母、財力、騎獣など）の力を借りないと
自分自身の力ではなにもできない、という
無意識のなげやりさと自信のなさが育っていった。

とどめは、成人直後におきた領内の大氾濫のときだ。
エルフですら対処が困難な大災害を父の指揮を手伝って
被害をなんとか最小限に食い止めるものの、やはり水に溺れて
生死の境を彷徨った。
父もまた、戦いとユネルマの救出で傷つき、
並んで病床で過ごすことになった。

その後、魔神の気まぐれからか召異の刺青を腰に刻印されていた
ことがわかる。洪水はユネルマが悪魔と契約したせいなのでは、と
噂が流れた。

両親、特には父は息子がそんなことをするはずがない、と
気にしなかったが、魔神との戦いで消耗した病床の上では
「一族を救ってくれた功績と恩を差し引いても、
その息子を家門の継承者にすることはできない。
息子を追放するか、父子ともに出ていくかしかない」
という母方親族家臣一同の意見統一と工作を
完全に押し止めることはできなかった。

元々一族を救い爵位を継承したのも
そのために自分の興した商売の財産を使ったのも
妻の心残りを片付けるために計らったこと。
ユネルマの生育に役立たないのであれば、維持するものでもない。

自分の力が足りなければ、いずれ起きうるかもと
準備していた息子用の個人資産とユーシズでの
コネを活かした七色のマナでの無期限学習権利。
ユネルマには家を出させてそちらに
預けるほうが１００倍マシだろう。

「ここはクソ！ユネルマはイケてると思うけど
多分自分のできることが良くわかんないから
自信ないんだと思う。七色のマナでどう？
自分探しとか」

回復した父は、ユネルマにそう伝え
自分の興した事業と家門の権限のほとんどを
自分の部下と母方の兄（ユネルマの叔父）に継承し
爵位を返上して出ていった。

「また新しい商売やりてえし、ムカつくやつらをボコせるくらい
（魔神も母親戚も）強くなりてえわ！若い頃の１０００倍すごい旅に
出ることにする！Bye」みたいなことを言い残して。

母はデンジャラスでワイルドでセクシーな父にぞっこんだったので
今度こそ本当に家門を見限って父についていった。

「ユネルマもついてくるか七色のマナに行くかどうする？」

と母に尋ねられたものの、
二人の事は好きだけど、父の本気の旅にも今の展開にもついていけないし
ここにも居場所がないのは本当だな、と納得したユネルマは
父から渡された権利を行使して七色のマナに入学し、
自分できることを探すことになる。

その折、母方ウェルディエ家の奥義の秘密を守るため
出立の前に、真語・操霊魔法の技術と奥義に関わる記憶を一部封じられた。

・有名人の友達がいる
自分のできること、やりたいことが見つからないまま、
子供の頃から仲良くできた動物や、父が大好きだった魔道バイクの操縦を
覚えたくて既芸科を専攻、才能があったわけではないが、無期限学習権を
活かして緑リボンになったころ、白飛びを果たしたという
妙に魔神に詳しいクロン（魔導の学府ユーシズ、p45）に話しかけられる。

他の学生からの悪い噂を聞いていたので多少警戒していたユネルマだったが
気づけば、身体の弱さ、何にも向いていないこと、水が苦手なこと、
魔神に強制的に契約させられてしまったことなど、自分のことを話してしまう。

「自分に何も無いと君は言うけど、与えられた環境も、
動物や魔動機のちからを使いこなせる騎芸も、自分の力だと
ボクは思うけどね……」

クロンの言葉は蠱惑的で、使えるものはなんでも使えと
言っていた父の言葉を彷彿とさせるものだった。

「魔神の力だってそうさ。いや、君の過去は同情するべきところが多い。
なにも魔神そのものを召喚しなくたって……
君が連中の力だけを良いように引き出してやりこめることができたら……
それは君のお父さんも目指した自分の力だっていう証明になるだろ？」

召異魔法にはそういうものがある。そして秘密だが、
七色のマナには召異魔法学科があり、青や紫リボンの生徒は
そこの校舎に研究の手伝いにいけるらしい、ということを伝えられる。

新入生がなぜそんなことにまで詳しいのか、疑問ではあったが
自分に出来ることを鍛え上げれば、父も苦戦した水の魔神に
対抗できる、そしてそれは自分が出来ることの証明であり
唯一の道のような気がした。

悩みに悩んだが、ユネルマはその道を選ぶことにした。
まずは青リボン。幸いユネルマには、父譲りの楽観性と
目的を達するための準備を着実に進める根気強さ
なにより、無限とも言える学習期間がある。

・今だ叶わない夢がある

筋力も近接攻撃技能もなくても、自分の力で魔神と対峙する方法が
召異魔法にはある。その可能性についに届いた。

召異魔法学科の訪問を許され、術の危険性と可能性について
教えられた。

「デモンズブレード」に「デモンズドッジ」

この2つの魔法があれば、貧弱な自分でも魔神と切り結ぶことができる。
たとえ勝てなくてもその場に立つ資格を持てるという可能性に
ユネルマは歓喜した。

だが、習得までの道はほど遠い。
そしてさらに、必要な技能も、なにより自身の病弱な身体がやはり
足を引っ張っている。動物の力を借りなければ水も克服できない身体が。
だが……ユネルマには魔動機に傾倒した騎芸があった。
機動外骨格。あれは自分の意志を力に変え、身体の能力を
大きく拡張するものだ。あれがあれば……。

幸い、父の与えてくれた財産はまだある。学習の機会も時間も。

可能性が見えるというだけで嬉しかった。今までの全てが繋がる。
魔法使いとしては異常な技能の習得が必要になるが、
そんなことは問題ではない。

子供の頃、夢に見た冒険者ににだってなれるかもしれないのだ！

冒険者（ヴァグランツ）になった理由

・友達に勧められて

・魔動死骸区のNPC（アルフレイム見聞録、p69）リコード・アルメニスタン
・ハーヴェスの冒険者、ランチア・アルコバレーノ
この二人に影響を受けて。

幼い頃（と言っても、すでに成人していたが）、父に連れられて訪れた魔道死骸区の魔動巨兵のことが忘れられず、
ユーシズに行ってからも時折、長期休みの期間を利用して、魔道死骸区に訪れていた。
もう何年前だったか忘れたが、たまたま、いつものように魔道死骸区を、というより魔動巨兵を眺めに訪れた折、
リコードに話しかけられた。「良い天気ですね」だとか「あなたもあれに興味が？」といった他愛もないものだったが
彼が聖職者でもあるせいか、父が魔動機と旅が好きで……という身の上を話してしまう。また自分の実力と自信の無さも。

すると相槌を打つことに徹していた彼が口を開いた。「私はアレを動かしてみたいのです。」
「あなたの考えだと、神聖魔法も、魔動機も所詮借り物の力、ということになりませんか？」
「半分そうでしょう、でも私はそうは思わない。とくにあの、魔動巨兵を動かせるような者を
力なき者だと笑うものはいません、そう思いませんか？」

彼の狂気を孕んだ目に圧倒され、その時はなにも言えなかったユネルマだったが、その考えは心の奥深いところに
刻み込まれた。後に、機動外骨格と召異魔法を組み合わせた戦い方を思いつく、ひとつの切っ掛けになったと
言えるだろう。

もう一人はハーヴェスで出会った、冒険者のランチア。
デモンズブレード習得に賭けて、七色のマナに招聘された冒険者たちの模擬試合や
ユーシズの兵士たちの動き、そして武術の文献などを元に、持てる範囲の軽い模擬刀で
独学で鍛錬した剣技を仕上げてもらった。

「術師なのに剣術やりたいって変わってんねえ！」

センチネル級の腕を買われて、七色のマナに模擬試合で招聘されたらしい。
槍で複数の敵に立ち回って挑発で攻撃を吸う独特の戦型の冒険者だ。
そう、子供の頃憧れた冒険者だ。いや、というにはとてもお喋りでひょうきんで
悪く言えば軽い印象の人だったが、おかげでかなり踏み込んで事情を話すことができた。

せっかくユーシズまで来たんだし、依頼ももう少し、観光と美食をいっぱい楽しみたいという
彼に、幾らかかおすすめの店を教えたお礼に自分の剣技を見てもらうことができたのだ。

一通り見終わった彼は一言こういった。
「なんかデカい敵と戦おうとしてる？ そういうときはね～オレはこうすんの。」
そう言って、「薙ぎ払い」という槍を使った武器術を見せてくれた。
これで複数の敵、巨大な敵の複数箇所を同時に攻撃ができるらしい。

自分が独学で身につけた剣術とは比べるべくもない、できれば薙ぎ払いを伝授して
ほしい、と伝えると、たぶん要らない、と言った。

「形は出来ててるよ。片手でも似たようなことが出来はすんだ。えーっと…こうだったかな？」
言ってランチアはユネルマの模擬刀を握る。先ほどと違って荒々しい動き。
獣や、ともすれば子どもの駄々のように振り回す。3つの的が壊れた。

「乱撃。放浪者の技だよ～。たぶん、こっちのが向いてるんじゃないかな？
…1人で戦うつもりなら、その方がいいかもしんない。」

片手なら盾も持てるから、身も守れるしね。と呟く。
何と戦うつもりなのか、どう戦っていくつもりなのか、おそらく彼は朧げながらも
見抜いたのではないだろうか。その後は少し型の矯正をしてもらい、雑談をして別れた。

「放浪者……。」

冒険者とは違う、自らの信念で、戦いの技術を磨き、冒険を続けるものたち。
おすすめはしないけど、と言いながらランチアが渡した走り書きには
彼の知り合いの放浪者と連絡を取る方法が書いてあった。

ユネルマの力を伸ばしうる、冒険者ではない、もう一つの道が開けたのだ。

[常]【探索指令】
騎乗した騎獣に、足跡追跡・異常感知・危機感知・探索・罠回避判定を行わせる。
騎獣の種別に関わらず、判定はライダー技能LV+知力Bで行う。
[常]【以心伝心】
騎手と騎獣の知覚を共有する。
[常]【騎獣強化】
騎獣の命中・回避+1。
[常]【攻撃阻害】
騎手・同乗者の回避+1。
[常]【超攻撃阻害】
騎手・同乗者の回避を+1。
[常]【高所攻撃】
騎手・同乗者の与える物理ダメージ+1。
[常]【人馬一体】
騎手が両手を使用可能。
[常]【超高所攻撃】
騎手・同乗者の与える物理ダメージさらに+1。
[常]【極高所攻撃】
騎手・同乗者の与える物理ダメージさらに+1。
[常]【特殊能力解放】
特殊能力を解放する。
[常]【特殊能力完全解放】
騎獣の特殊能力を完全に解放する。
[補]【限界駆動】
10秒間、全部位の命中+2・物理ダメージ+4。騎手と騎獣の回避-2。10分かけて調整しなければ再使用不可。

何から書けばいいだろう。本当に色々なことがあった。

あの…大水の魔神を倒すことに成功した。
あの日以来、薄くなっていく召異の刺青と
大水の魔神の牙の欠片が、夢じゃなかったと実感させてくれる。

もちろん僕だけの力じゃない。
冒険者のみなさん、ニクスさん、クロエさん、イケメンさん、ユリークさんの力を借りて
ようやく成し遂げたことだ。

そして……子どもの頃から夢だった冒険者になれるそうだ。

うれしい。本当にうれしい。
ただ、まだ気持ちが追いつかない。本当にいいんだろうかという気持ちがある。
みなさんが居なければ、あの場に立つことすら難しかったと思う。

ずっと鍛えたきた。ずっと勉強してきたけど、何度も失敗した。
ルチアさんのときももっと上手くできなかったのか、と今でも夢に見る。
あのとき生き残れたのはサホさんやミリアムさんのおかげだ。
今の僕があそこに居たらもっと役に立てただろうか？

僕は子供のころといっしょで、未熟なままで、周りの人に助けられて
偶然で夢がかなった。転がり込んで来てくれたような、そんな感覚もある。

なにより、イーヴ神官でもない僕が、召異魔法という邪道を、放浪者として
過ごすことで得た結果だ。それしかなかったとはいえ、冒険者を名乗っていいのだろうか？

冒険者。

僕のゆめ。
これからそうなるなら、助けられてばかりじゃなくて、
皆さんの役に立てるよう、もっともっと
実力を鍛えなければいけないな。

魔神との因縁も断ったわけだし、ニクスさんも嫌がっていた
召異魔法もやめて、ゼロから積んでもいいかもしれない。
立派な冒険者だと言える正当な技能と実力を。

そう思うと、何も言わない首掛けの小魔の封入具が
少し、震えたような気がした。

学生課から、連絡があった。ハーヴェスの青空の船出亭から連絡があり、
冒険者になるのですか？ご卒業を？と若い職員に尋ねられた。
あ、それは…と口ごもってしまったところ、絵葉書を渡された。

父からのものだ。いつもマナカメラで取った写真（大体母と一緒だ）を
送りつけてくる。「キングスフォールはすごいぞ！」だとか
一言そのときにあった楽しいことが書いてある。
そんな毎日を楽しく生きている父を見ていると元気が湧いてくる。

今回はちょっと違った。僕へのメッセージだ。
「良くやった！もうお前は一人前だ！しっかり仲間に頼れよ。」

思わず少し涙ぐんでしまった。
父は心配しながらも、遠くから僕を見守ってくれていたのだ。
どう知ったのかは知らないが、皆さんと大水の魔神を倒したこと、
そして僕の悩みを知っていたらしい。

父は口癖のように言っていた。「全部自分で出来ると思うな」
やりたいことをバシっと見せて、足りないところは周りの力を借りろと。
終わったら感謝、そして頼られたら応えろ。
それが出来たら一人前なんだと。

自分1人で出来きゃ、そうでないと皆さんの役にも立てない。
まして冒険者ともなると、言わずもがな……

そんな風にずっと頑なだった心が見透かされたようだった。

「今」未熟でもいいんだ。今の僕だから、誘って、頼って、応えてくれる人に感謝する。
それが大事なんだとようやく気づいた。
トイボアくんがいて、ジャイアントリザードくん、ドルフィンくんがいて
召異魔法を使う僕。だからこそ、必要になるときがあるかもしれない。

「そうです。冒険者になるんです～。卒業頑張らないとですね。」
まずは、宣言。学生課の職員さんはびっくりしていた。
手続きは…残り単位は…　あと手伝っている研究室の引き継ぎは……
と色んな書類を渡されて、細かく説明を受ける。

なろう、冒険者に。そして今までの感謝を皆さんに伝えよう。

寮の部屋、同好会や研究室に作った巣、勝手に狩りている騎芸科の
ガレージを片付け、講師や教授、知り合いから友達まで、色んな人に
挨拶をした。それぞれ名残惜しんでくれて、いつでもまた戻ってきてくれとか
年に何回かはこっち来て研究手伝ってくれるんだよね？とか
同好会の籍は永久に残しておくからね！部員足りないから！などと
温かい（？）言葉をくれた。　

絵葉書のあと、母から長い手紙も来た。
できれば無茶をしてほしくなかった、ずっと学生でも良かった。
やるなら手伝いに行きたかった。ただ、もっと心配しているはずの父が
「ユネルマに頼られるまでは何もするな」と言っていた、と書いてあった。
僕たちが大水の魔神を倒したと知ったとき、父は泣いていた、と
（母はもっと泣いたのだろう、とインクの滲みで分かった。）

冒険者、あなたの夢だったわね、おめでとう。
危ないから止めたいけど、父さんと母さんの子だからあなたは…。
だから、ただ冒険者になるんじゃなくて、我慢はやめて
もっとね、やりたいことをやりなさい。

そう書いてあった。
冒険者になるだけで望外の夢だった。それ以上！？
たぶん母は、子供の頃の僕が家の仕来りに絡め取られ、放逐され、
大水の魔神を倒すという目標に呪われていたんじゃないかと
心配していたようだった。

冒険者になりたい、というのは自由がほしい、という願いなんじゃないかと。

そんなつもりはない…と言いたかったが、たしかに
冒険者になって何がしたいか。具体的に考えたことはなかったかもしれない。

「卒業して、落ち着いたら会いに来てね。」
と手紙は結ばれていた。

そうだ、旅に、世界を見て回るのもいいかもしれない。
父のバイクの後ろに乗っていたことを思い出す。

「面白いだろユネルマ！父さん世界全部を見るまで死なね―からな！」

そうしよう。僕も父と同じ夢を見てみよう。母と同じく美味しいものを
食べまわってもいいかもしれない……カリミィさんのお店の支部が
すごいところにあるらしい。行ってみてもいいかも！

となれば……　まずは、バイクだ！

僕は騎芸科に走った。

トイボアくんとバイク、その2つが合わさったあの……
可変機動外骨格！それが僕の新しい仲間だ！

「実家、面白いことになってるから、行ってみるといいわよ」
新しい可変機動外骨格、ロイスターくんを変形させたバイクで故郷に向かった。
何十年ぶりだろうか？色々な思い出がある。

父さんの手伝いに魔法の勉強に儀式に、水の騎獣や精霊くんたち……

大水の魔神にの波濤に飲まれた故郷……
召異の刺青のおかげで、僕がアレを呼んだのだと誤解され……
一族からは追放された。

多少大げさにめかし込んで（つまりは変装だ）、訪ねた故郷は
びっくりするほど違う家に変わっていた。

古めかしい魔法貴族の家門が収める、古い暮らしのエルフの領地が
観光客の行き交う観光地……もっと言えば、まるで遊園地のようになっていた。

何日か滞在するうちに、どうやら家門は一度本当に破綻したらしい。
昔のような暮らしを守りながら復興に財を投入した新当主は
父方の事業の力を借りることを嫌い、十年ほどでたちゆかなくなった。

そこを、父の事業を仕切っていた元部下が、助ける代わりに
父流でやりきってしまったらしい。

まずはユーシズ都市部に近い地理を利用して
家門の秘伝を一部に公開する学び舎として若い人を集め、
名物となる食事を、娯楽を作り、街に変えた。

次に、コロロポッカの森を探索する冒険者や
国の調査隊の逗留血として宿や、武器・アイテムを扱う商人を集め
簡易な冒険者ギルドも作ったらしい。

古い考えの親族たちは皆怒り心頭なんじゃないかと思ったが
先生、先生と学生たちに尊敬され、楽しい娯楽街を治める家門として
若者からの人気、冒険者たちや国の調査隊からも一目置かれて
かなり満更でもないらしい。

例え魔神が死んでも、失ったものは還ってこない。
恨まれることを覚悟していたが、巨大な像を見て
本当にずっこけた。力が抜けた。

大水の魔神討伐勇者の像！と題した巨大な像が
広場においてある。クロエさん、ニクスさん、ユリークさん、イケメンさんが
誇張され美化されたポーズで構える真ん中に、輝く剣を二刀持ちにした
僕と思しき像が中央に配置されている。

ウェルディエ家の生んだ天才魔剣士とその仲間たちが
この領地を滅ぼしかけた魔神を征伐した、と碑に書いてある

腰を抜かした僕のところに、父の部下が見計らったように接触してきた。
父のもとで会計を学んでいたとき、直接算術と経済の指導をしてくれた先生だ。

これは全て彼のアイデア、家門の気難しい叔父祖父、親戚たちを1人ずつ
名誉や金や尊敬、賑わいなどで溶かしてしまったらしい。

いつ僕がユーシズから戻っても学び舎として過ごすのも
父の事業を継承するのも、問題がなくなるよう計らい、
僕が七色のマナをこっそり抜けて放浪者活動をしていたときも
スポンサーになろうとしていたそうだ（これは父に止められたそうだ）

討伐おめでとうございます。もうユネルマ様を表立って避難するものはおりません、と
彼は言った。それにしてもこの像はやりすぎだ。
「まあまあ、こういうのは派手な方がいいですし、なにより……
名所ができると観光地は盛り上がりますからね！」と
彼はメガネをクイクイさせて言った。

「冒険者になるとか。おめでとうございます。父上から、これからは
ユネルマ様がお望みなら、様々に便宜を図らせていただきますが？」
と申し出てくれたが、とりあえず、このあたりの探索が必要なとき
今まで縁のあった冒険者・放浪者諸氏が訪れたら快く向かい入れて欲しいとだけ伝えた。

その後、街がどう変わったか、案内するためのガイドをつけてくれたので
子供の頃好きだった、森の湖はまだあるだろうか、と伝えると
そのまま残っている、とのこと。

泉で、家門の水術・儀式に耐えるための水練や、騎獣との付き合い方、
それを構ってくる妖精たちの思い出。そこだけは記憶通り残っていた。

彼か父か母か。過剰ではあるが、大事に思われていたことは胸を打つ。

昔を懐かしむように湖の畔を歩いていると、妖精たちが集まってきた。
首の封入具に興味があるようだ。
「げんき？」「ゆねるまあそぼう」「フィーカはずるい」「ユネルマをいっしょ！」

『げんき　たのしい』
小魔が答えた。今まで一度も答えなかった金属の玉のような小魔は
くるりと身を翻すと人型の魔動機のような妖精？に変わる。

2度目のびっくり！

確かにフィーカは僕が子供の頃なついていた水の妖精だ
話を聞けば、大水の魔神に、ずっとユネルマとあそびたい、という
願いを歪に叶えられ、小魔に変えてしまわれたらしい。

いざとなれば、僕を操ってしまうか絆すつもりでそうしたはずが、
大水の魔神に対する心を開かないという強い意志と七色のマナでの勉強での警戒から
全く声が僕に届かなかったらしい。何より彼女の意志も、召異魔術を使うとき以外は
茫洋としていたようだった。

そして大水の魔神からの力の支配が消えた結果、過去の自我を取り戻したそうだ。
時制のない妖精語の話の聞き取りは苦労した。七色のマナでの学びから言えば
こうなったとて、いやますます、フィーカの誘いに乗るわけにはいかない、という理性が働く

だが、召異魔法契約を何らかの方法で解除してしまえばフィーカはいなくなる
それがどうやら悲しかったらしい。

うーん……僕は考えた。
そして尋ねる。
「フィーカ、僕は父さんみたいに世界中を巡ったり、すごい冒険者のみんなの
お手伝いを続けたいんだけど、君はどう？来たいかい？」

「うん！あぶないとき言う！てつだう！だからユネルマと一緒がいい」
集まった妖精たちや水の獣がつぎつぎといいないいな、と騒ぎ立てる。
機械みたいになってしまったフィーカは　それでも泣きそうだった。

「いいよ、じゃあこれからもフィーカは仲間で友達だ！」
僕はギリギリまでフィーカに騙されることにした。

メディカさん、ニーナさん、ミリアムさん、カリミィさん、ヴィヴィアンさんと攻略した
あのユシア魔導図書館の地下に魔法王に残した遺跡がさらにある、という話を聞いて
僕も探索に参加した。
地下の壁画。あれは……魔神に、いや魔神王に関係があるそうだ。
つまりは大水の魔神に。そしておそらくは、クロエさんと因縁のあったあの男とも関係があるのだろう。

慎重に探索を進めたつもりだったが、罠が起動し……そして敵に、僕は一度殺されてしまったらしい。
あとで聞いた話をまとめると僕の失敗は大きく分けて2つ。
・探索用の騎獣の力が足りないこと。
・魔法破りに召異魔法の補助魔法が弱いこと。
この2つに気づけていなかったことだ。
騎芸科、召異科でもそれぞれ基礎として教わることだ。
実戦を教科書とは違う、と思いすぎて忘れていたのかもしれない。
新しいロイスターくんにも初勝利をあげられなくて残念だ。

母校出身のパラテルルさんは、僕を死なせてしまったことを凄く悔いているようだった。
なにかで心の負担を軽くしてあげたらいいのだけれど。

ラインハルトさんやダグラスさんも、かなり思い詰めた様子だ。
戦闘に探索に獅子奮迅の働きで、迷わず蘇生術を使ってもらったメアリーさんには感謝しかない。

それにしても、自分でも蘇生を受け入れるほどの強い思いがあったとは、自分でもびっくりだ。
でも、言われてみたらそうだ。
僕の新しい夢は始まったばかり、世界を見回るまでは。父や母に再会するまでは。
皆さんに感謝を伝えて、恩返しをするまでは。

いつのまにか、たくさんやりたいことが出来ていたんだもの。

僕が一度死んじゃったことをロイスターくんもフィーカもパワーアップがどうだ防具がこれが、と
賑やかに囀る。「何より、トイボア様もユネルマ様の死に深い後悔を抱いています。」
ロイスターくんは自立判断ができない、という触れ込みのはずが、情緒豊かにしゃべりまくる。
その上、トイボアくんの「心」の心配をしているようだった。

確かに騎芸科のツテで、トイボアくんもロイスターくんも、無理を言ってぼく専用気味に
チューンしてもらっているが、魔動機ってカルキノスくんを除くとそこまでの知能は…と考えていた所だった。
魔動機騎獣の転倒はリスクだし、破壊に備え、トイボアくんもバックアップのまま持っているただ
僕が死んだときに役に立てなかったといえばそうだ。

トイボアくん役に立ちたいかい？と呟くと　そうだ、と言わんばかりにマギスフィアが光る。

騎芸科のガレージを抜け、学園を抜け、そうか・・・と思案に耽りながら散策していると
猫の小路にいつのまにか入っていた。働き蜂の落とし物の店員だといううさんくさい男が
こちらを見つけると、マギスフィアの能力を上げるアイテムがあるという。
普段なら断っていたところだが、怪しいながらの真実味のある男の言葉に惹かれ
品物を購入した。　見たところたしかに、マギスフィアの出力を多少上げるパーツのようで
トイボアくんのスフィアにアタッチしても問題ないだろう、と相談した騎芸科の教授も言う。

試運転のつもりでつけたパーツ、あっという間に高出力のエネルギーを放出して
トイボアくんを飛行機に変形させて、僕を積んだまま、ノーザンファングに向かっていった。
そして……トイボアくんは勇者勇者…、勇気……ということば飛び交う魔域に突入し
巨大な魔動機に合体した。

あそこにいた金色の魔動機、そして金色のウォーハンマーを持っていたのは…メーティアさん？？
なんだか色々なことがあったが、主を倒すとトイボアくんもユーシズに戻って、そして
飛行機じゃなくなった。　レンタルだから本当に助かった。

しばらく、勇気・元気・達成値！とトイボアくんも元気で、フィーカやロイスターくんと
話し合って、どんどんみんな暑苦しくなって、僕を守るぞ強めるぞ！と円陣を組んでいた。

なにそれ、と思いつつ、心意気は嬉しかった。

魔導図書館での一見は、僕たち以外の調査でどうにかなっただろうか、と思っていたところ
ユシア魔導図書館からも、魔神王に魅入られたあの男のいた孤島からも瘴気の渦が吹き上がり、
邪悪化した怪物や生物の討伐依頼も増えた。
このままではラクシア全土が大変なことになるかもしれない、と大げさに吟遊詩人たちも謳う。

青空の船出亭の高位の冒険者たちも忙しく世界を飛び回っているようだ。

当然、魔神王の下僕だったあの男と関係のある、クロエさんやニクスさんを始め、僕がお世話になった
人たちも討伐依頼に駆り出されることが増えるだろう。

僕はまだ未熟だろう。だけど、いまこそ恩返しのとき。
そしてユシア図書館地下での借りを返さなければならない。

暑苦しいままのトイボアくん、ロイスターくん、フィーカの勧めもあって、
出来る限りの力を尽くすことにした。大水の魔神のときの功績の受取を固辞したまま
冒険者としての実績をこつこつ積んでいくつもりだったが、使えるものは全部使い、
頼めることは全部頼んで、力をかき集めるときだ。

こうして僕はハイペリオン相当のランクに認められ、その力とユーシズでのコネを生かして
伝説級の軍馬を借りた。この新しい仲間「サンカリ（勇者の意）」で以前の失敗を補う！

詩人たちが謳うように、この世が滅びたら困る！
まだまだ皆さんに恩返しをして、冒険をして、旅をして、世界の果まで見て回る
父の言ってた面白い世界を僕はまだまだ知らない。その前に世界を壊す敵がいるなら
絶対に立ち向かってみせる。信頼できる騎獣の皆と、僕に応えてくれる「仲間」のみなさんのために。

……これが絆ってやつなんですかね～？イケメンさん