セレスティアはユーシズ近郊の小都市で生まれた。両親は都市の支配層であり、箔をつけるためにセレスティアは『七色のマナ』への入学を義務付けられる。両親の言いなりになる生活に不満を覚えつつも勉学に励み、彼女は魔導師の才能を開花させた。卒業後は実家に帰らず冒険者になった。冒険者になった理由は……特にない。強いて挙げるとすればこの魔法の才能を最大限に活かせる職につきたいから……だろうか。

魔法の才能と生来の負けん気の強さで数々の成功を収め、気がつけばハイペリオン級の冒険者となっていた。その名声は留まるところを知らず他地方から依頼が舞い込むことも少なくなかった。アルフレイム各地を転々とする日々を送る中、パーティ内の男性と恋に落ち婚約する。順風満帆でありこのままずっと冒険者として生きていくと考えていたが、ある時転機が訪れる。

それはランドール地方での依頼だ。蛮族に拉致された人族を救出して欲しいといった内容だった。
城主のバジリスクが城を空けた隙を突いて人族を助け出し、城内の雑兵を魔法で薙ぎ倒す。ここまではいつも通りだった。
残す敵はあと一匹。黒髪の小さなバジリスクが目の前で震えて縮こまっていた。子供のようだが……蛮族は蛮族だ。容赦するわけにはいかない。せめて苦痛なく逝けるよう一撃で仕留めてあげよう。私は詠唱を始めた。
すると助けたはずの人族達が間に割って入ってきた。彼らは一様に「この子は自分達を助けようとしてくれた。どうか見逃してやって欲しい」と頼んでくる。嘘か本当かはわからないがここで押し問答しても時間の無駄だ。私は人族達と小さなバジリスクを連れて城をあとにした。

人族を街まで送り届けるまでの間に連れ出したバジリスクを検めることにした。服こそ上等なものではあるが……その下は痣だらけだ。この子がどんな扱いを受けてきたのか一瞬で理解できた。そして手にはキルヒアの聖印を握りしめていた。あの人族達が言っていたのはこういうことか……。
私は夫と相談してこの子を保護することに決めた。第一の剣陣営の神に選ばれた者を殺すわけにはいかない。その上蛮族とはいえ害意のない小さな子供を手にかけるのは気が引けた。

人族社会で暮らすことになるのだから相応しい名を与えなければならない。私達はこの子に「アシュリー」という名をつけた。

人族を送り届けたあと私達はアシュリーを連れて故郷のブルライトまで帰ることにした。道中言葉や魔法の使い方を教える。物覚えがよく、故郷の街に着く頃には交易共通語を扱えるまでに成長していた。よしよし、流石は私の娘だ。……常時ウジウジしてるのが玉に瑕だが。

私は子育てに専念するため冒険者を辞めた。引きこもり体質で教育には苦労したが……我が子のように可愛がった。いっつもウジウジしてるし平気で嘘を吐くし本当に手がかかる子だ。それでも私はアシュリーのことを心から愛していた。

アシュリーが成人した日、彼女は急に「冒険者になりたい」と主張してきた。部屋に引きこもってばかりだった彼女が外の世界に興味を持ってくれたのは嬉しかった……だが彼女は蛮族だ。いくら冒険者が実力第一主義とはいえ周囲から信頼を勝ち取るのは難しいだろう。何よりも娘を危険に晒したくないという思いが強い。私は反対した。

だがアシュリーは来る日も来る日も頼み込んでくる。その度に反対したが彼女の熱量に負け、冒険者ギルドに頼み込むことにした。何かあった場合は私達が責任を持つことを条件としてアシュリーは冒険者として活動することを許可される。

その後アシュリーは冒険者として活躍し、神記文明時代の魔剣に選ばれ〈始まりの剣〉級にまで登り詰める。子供が親を超える。これ以上に幸せなことはない。家族全員でアシュリーの偉業を讃えた。

だが幸せは長く続かない。アシュリーは蛮族領に囚われた人族の救出任務に出たきり帰ることはなかった。ギルド職員からその知らせを聞いた時、私は膝から崩れ落ちた。心から愛していた子の喪失は耐え難く、三日三晩泣き明かした。アシュリーを奪った蛮族が憎くて憎くて仕方がない。復讐しようにも十年以上ブランクがあり昔のように魔法を使うのは無理だ。
だから祈った。ティダンでもミリッツァでもいい。私から我が子を奪った蛮族に裁きを。私に奴らに復讐するための力を。ひたすらに祈り続けた。

ある夜、いつものように祈っていると声が聞こえてきた。柔らかな母性を感じさせる女性の声。目を開けると手に三日月をかたどった聖印があった。"月神"シーンのものであると瞬時に理解し、絶望した。こんなにも復讐に燃えている私が慈愛と平和を司る神に見出されたというのか。一体これは何の皮肉なんだ。

だが……不思議と頭は冷静だった。シーンを利用すれば奴らを……。私はすぐに行動に移すことにした。今はとにかく経験を積んで力を蓄えなければ。

こうしてセレスは再び冒険者になることを決意する。待っていろ『オルダスカ』のクズども。必ず報いを受けさせてやる。