経歴

彼の思い出

家族に異種族がいる
絶対に知られたくない秘密がある
子供の頃に家出した事がある

神になるために冒険者になった

ある冒険者の話

　は？　【夢を忘れた瘋癲竜(ナイト)】の事を教えてほしいだって？　藪から棒に奇妙な事を聞くねぇお前さん。……ああ、別の地方から来たばかりなのか。そりゃ知らなくて当然か。
　まぁ、あいつは知っておかないと面倒なヤツだからなぁ……うし、先輩冒険者の俺が説明してやろう。

　お前さんも知ってるだろうが。あいつはナイトメアだ。穢れた種族って事で嫌われてる奴らよ。そんなナイトメアの中でも更に異端なのがあいつだ。
　基本的に奴らは自身がソレである事を隠したがる。そりゃーバレたらまともに交流出来ないからな？　なんだが……あいつはナイトメアである事を隠さない。寧ろナイトメアである事を主張しているかのように常時【異貌】している気味悪いヤツだ。
　だが、人族に敵対しているってわけでもねぇ。冒険者としての活動には忠実だし、【甘く柔和な狂竜】とコンビを組んで活動している実力派冒険者になる。
　だから半端者。人族と調和する夢を忘れた愚かなナイトメアってわけさ。変なヤツだが、関わらなければ何の害もない。
　お前さんも変な気は持たない方がいいぜ？　いつ人族を裏切るかわからねぇからな！

ある拳闘士への想い

　強くなるために、沢山の人を守るために。【異貌】の誓いをした俺が初めて会った同族が彼女だった。初めて会った時―俺が隊商の護衛をやっていた頃だ。彼女は血塗れになって地面に横たわっていた。慌てて治療を施し、彼女の経緯を聞いて愕然した。俺が想像していた以上に、ナイトメアは嫌われていたのだ。
　当時の彼女は非常に弱く、風が吹けば吹き飛ばされそうな身体であった。しかし、誰の力も頼らない。一人で生きていくと決めたあの目を見て、俺は彼女の助けになる事が出来ないと悟った。俺には力が足りない。手が届く範囲の人しか救う事が出来ない。
　だから、彼女を止める事は出来なかった。俺よりも彼女の誓いの方が優れていたから。

　――だが、そんな事で俺は止まるわけがない。

　彼女の情報を調べつつ、隊商の護衛を後任に任せた時には、彼女は奇妙な二つ名を持ってしまっていた。それでも、彼女の顔はあの時と変わっていなかった。
　もう、手は届く。届かせてみせる。

「ああ、俺が受けた依頼を手伝って欲しくてな。報酬は折半でいい」

ある幻獣使いへの想い

　冒険者として仕事を始めるにあたって、一番驚いた事。それは、『俺が守る必要がない奴がいる』という事実だった。
　昔から、俺は手が届く人を守る事に拘っていた。イーヴ様から信託を受け、神官としても活動していく中で想いは徐々に強まっていった。

　冒険者として活動していく中だ。偶々、幻獣使いと行動する事になった。ティエンスである彼女は幻獣の影に隠れ、周囲を恐れているかのようにきょろきょろと顔を動かしていた。目があった。奇妙な悲鳴をあげて隠れられた。幻獣に唸られた。解せない。

　俺は依頼を進めていく中で、いつものように他者を守るように行動をしていた。仲間の壁となり、立ち塞がる。それが俺の仕事だった。だが、幻獣や幻獣使いを守ろうとすると、毎回拒否されるかのように幻獣に吹き飛ばされた。解せない。

　――だが、そんな事で俺が止まるわけがない。

　幻獣の意図がわからないのであれば俺が幻獣に歩みよればいいだけのこと。次にあったら意思疎通をしてやると妖精語の勉強を始めた。

　一言で纏めよう。解せた。あいつはいい奴だった。

ある運び屋への想い

　【異貌】の誓いをした俺が冒険者になってから困ったことが一つあった。装備を揃えるのが非常に困難になってしまったのだ。
　今までは隊商の力を借りることが出来たが、今回はそうもいかない。
　武器屋の主人は物分かりが良く、信念を貫けと装備を見繕ってくれたが、加工に関しては上手くいかなかった。

　ギルドには避けられ、訝しげな視線を浴びる。武器の加工をしてもらおうとすれば、法外な値段で吹っ掛けられる。流石にこれではどうしようもないと頭を抱えていた時期が俺にもあった。

　そんな俺を見かねた隊商護衛の後任が気を利かせてくれ、運び屋とのコネクションを用意してもらった。それも、確実に荷物を運びたいのであれば任せるべきだと言われている【姿なき運び屋】とのコネクションだ。

　彼女は、【異貌】の誓いをした俺に対しても気にせずに接していた。――まぁ、旅の中で俺以上に変な奴とも出会っているからだろう。彼女との交流は、故郷での家族との関係のようで、俺自身も気が楽になっていたのは否定しない。

　「――ありがとう、お前のおかげで俺は進み続けることが出来る」

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