彼がこの世界に生まれ、自我を持ったのは数十年前のことだった。彼は当時、自らが“何”を源とするレネゲイドビーイングか、自覚していなかった。この世に何を目的として生まれたのか意味もわからず、ヒトを観察して宛もなく放浪する日々を送っていた。

そんな彼の人生が大きく変化することとなるのは、ある日の夕暮れ時。その日も彼はふらふらと実体のない身体で宙を浮き、ヒトを観察しつつ移動しながらある街へと辿り着いた。次の瞬間、辺り一帯を衝撃波が襲った。おそらくはオーヴァード……FHのものであろうと感じた彼は、しかし何をするでなく、逃げ惑う人々を傍観していた。他者を押し退け、我先にと危機から逃れようとする群衆を尻目に……ふと、彼はあるヒトを発見する。そのヒトは、傷だらけになりながらも、または新たな未知の力に困惑しながらも、倒れた少女を庇うように強大な力を有するFH相手に一歩も退かず、身を挺して戦っていた。彼には、その行動が理解できなかった。今までの観察から、ヒトとは危機的状況に陥った際、我が身を最優先に行動するはずだ。しかし、彼女らはどうだ。……彼は、彼女らに、生涯初めて深い興味を抱いた。

そこからは早かった。まず、彼は彼女らに近付く為にヒトとしての地位を確立した。「灰尾冬耶」、それが彼のヒトとしての名であり、黒白咲千夏にビルを渡した男だった。その後、灰尾グループを創設。紆余曲折を経てUGNと協力関係を結び、オーヴァードに関する仕事を担う(大体は傘下の事務所に横流し)ことになる。
そんなある日のこと、黒白咲一家と“愛”に関する有意義な問答を終え気分が良い灰尾の元に、とある依頼が舞い込むこととなる。

「白鷺イツカ」に関し、本編中に語ることがあれば追記します。

愛故に