口下手で天然で不器用なUGNエージェント。
妹以外に家族はおらず、あるUGN幹部によって育てられた。夕莉自身生みの親のことは詳しくない。
曰く、その幹部は彼女たちの両親に恩があるらしい。
……夕莉はそれが嘘だと知っている。自分の最初の記憶にあったのは、とあるFHセルだからだ。
かつては表向き学生として活動していたが、高校卒業後はエージェント専業になった。
他の人に職業を聞かれたら適当に｢公務員よ｣と返している。
友人はいないわけではないが、絡みにくいミステリアスな美女と認識されているため多くはない。

一人称は私、二人称はあなた。
口数は少なく、落ち着いた口調で話す。上司相手には敬語。
無表情なこともあって性格は掴みにくいが、よく見るとただの天然。
物憂げな顔をしていても｢お腹がすいたわね、そういえば朝ご飯を食べるのを忘れていたわ｣程度のことを考えていたりする。
エージェントとして非常に優秀であることもあって冷徹な人物だと誤解されがちだが、どちらかといえば情は深い方。
ただ面と向かって人に何かを伝えるのが苦手で、誤解を解こうとしてもうまくいっていない。
自分の口下手さを疎んでおり、そのことで卑屈になってしまうときもある。
そういう時は仕事に打ち込むことにしており、そのせいでかなりやる気があると思われ割り振られる仕事量が増えた。
趣味は絵を見ること。妹の絵が賞を取って美術館に展示されたのを見に行った時以来好きになった。
自分でも描いてみたことはあるが、いわゆる画伯だった。
好きな花は桜、好きな食べ物はかき氷。夏場はよく静かに頭痛に苛まれている。
恋愛願望はない。その手の感情はかなり妹に向いている。

｢ええ、絵を見るのは好きよ。……画家に詳しいわけではないけれど｣

｢……………………ええと、どうかしたかしら｣

｢………ここのところ、忙しくてあまり家に帰れていないわ。少し、困ったわね｣

｢……………………………賢者の石。私の中にある力。もっとも、貰い物のようなものだけど｣

まったく口に出さないが、夕莉はシスコンである。
年は9歳差とかなり離れているが、夕莉にとっては唯一の血の繋がった家族である。
そのこともあって、桜莉相手には他の人よりは話しやすいのだという。
ただそれはあくまで夕莉としてはであり、実際にはそれでも人並みの会話量に届いていない。
今でも一緒に暮らしているが、多忙な夕莉はあまり家に帰れていない。
それを寂しく思ってはいるが、UGNの責務の重大さも理解しているため仕事に私情を挟むのも良くないと考えている。
ゆえにUGNの同僚となった桜莉に対してもあまり干渉しないよう努めていたが、つい気になって《真昼の星》で様子を見てしまう。
桜莉がチルドレンとして活動を始めた時には徹夜で《万能器具》を行使し武器をプレゼントした。
それまで忙しさのあまり誕生日プレゼントのたぐいを用意できなかったことへの詫びでもある。
また妹に情けないところを見せたくないと思い、妹の前では弱みを見せず強いお姉ちゃんとして振舞おうと見栄を張っていた。
その妹への不器用な好意は桜莉にはほとんど伝わらず、それどころか全部裏目に出て嫌われてしまっていた。
そして嫌われていることに気づき、原因はわからないものの自分が桜莉を傷つけてしまっていたことにショックを受けこれ以上傷つけないようとさらに距離を取るようになってしまった。それが最大の悪手であるとは気づけずに。
夕莉は桜莉との関係を改善したいと常に思っていたが、なかなか機会を作れずにいた。
しかし、もう少しで数日ほどまとまった休みが取れそうなところまで来ていた。
そうしたら、ちゃんと話し合おう。
拙い言葉でもいいから、仲直りしたいと言おう。と、決めた。

ちなみに、夕莉の誕生日にはいつも差出人不明の贈り物が部屋に置かれていた。
それが誰からのものか夕莉は気づいていたが、家族なのにわざわざ隠すくらいだから照れくさいのだろうと思って本人に聞いてみたことはない。
夕莉も桜莉の誕生日に極力プレゼントをしようとはしているのだが、買った帰りにジャームとの戦闘に駆り出されて流れ弾で焼失したり誕生日まで大事に取っておくため鍵付きの金庫に入れたら鍵をなくしたりと妙に運が悪く結局｢｜灰は灰に《アッシュ・トゥ・アッシュ》｣以外に何も渡せていない。最近は嫌われていると自覚してしまったので尚更。

暁夕莉の最初の記憶はFHにいた記憶だ。
そこで賢者の石を用いた実験に使われ、彼女は石に適合した。
夕莉が成功したことから、当時まだ赤子だった妹の桜莉もこの実験に成功するのではないかと期待された。
だが駄目だった。桜莉は賢者の石に適合できなかった。
失敗作である桜莉は廃棄されかかったのだが、それを嫌がった夕莉は桜莉を連れて脱走。
そしてUGNに保護された……という。
この記憶はUGNによって処理されたはずなのだが、夕莉だけは賢者の石のせいかうまく記憶処理が働かず断片的に覚えていた。
アルフレッド・J・コードウェルとの面識もこの頃のもの。しかし、彼に関わる記憶は特に念入りに消されたのか夕莉もあまり覚えてはいない。