八重は片田舎のちょっと大きな家に祖父と2人で住んでおり、家の中に保管されている様々な書物を読んだり、祖父の話を書き留めたりと充実した日々を送っていた。
懐いていた祖父は地元では有名な猟師であり、その狩りの技から地元住民から頼りにされていた。八重は物心ついたころから祖父の狩りに同行するようになりその技を地道に学んでいた。

　ある時、家に帰ると大熊の目撃情報があるということで祖父は猟友会の人と共に山へと入っていった。八重は家で待っているようにといわれたが、妙な胸騒ぎにかられて山に入っていった。
　山の中はいつも感じる山の気配とはまるで違っていた。鳥の鳴き声一つせず、風が木々を揺らす音ですら不気味に聞こえる。
　(妙ね。静かすぎだわ…)
　恐怖は合った。しかし、妙な胸騒ぎは加速していく。体をめぐる血が沸騰し、心臓の音がやけにうるさい。
　山中で祖父の痕跡を見つけながら、警戒を緩めることなく進んでいく。やがて、八重は祖父を見つけた。祖父は肩口から腹までざっくりと切り裂かれ、血だまりの中に沈んでいた。
　「おじいちゃん!!」
　八重は急ぎ、祖父の元へ駆け寄り応急手当てを開始する。
　「なに…が、熊だ。…ありゃ、人間の動きだ……。急げ八重、逃げろ…」
　祖父は朦朧としながら呻くように繰り返しつぶやく。
　「おじいちゃん!もうしゃべらんといて!!」
　八重は必死に手当てをつづけた。胸騒ぎが収まらない。
　ふとそこで嗅ぎなれた臭いが鼻を突いた。ゆっくりと後ろを振り返ると、そこには大熊のような姿となり果てた人間が立っていた。手の爪には何人を手に掛けたのか、血が滴っている。大熊はあたりを見回しながら我が強者といわんばかりに油断し歩いている。
　アレが祖父をやったのだ。きっとここでアレを狩れるのはいないだろう。生き残るためには狩るしかないのだ。後ろには瀕死の肉親がいる。今ならば一撃を叩き込めるはずだ。生半可な一撃では狩れないだろう。普通より強力な何か!何か!!
　息が荒くなる。胸が苦しい。気が付くと八重の手の中には見たこともない銃が握られていた。外見は火縄銃であるが、八重は確信があった。これであればアレを狩れるという確信を得られた。息を止め、引き金に手をかける。
　まだだ、まだまだ、アレの脳天を弾き飛ばさねばならない。まだ待つんだ。
　大熊がこちらを向いた瞬間。八重は大きく目を見開き引き金を引く。強烈な破砕音と共に熊の首は消し飛び八重も気絶した。

彼女はまさにこの時オーヴァードとなったのだ。