大丈夫、と頭を撫でてくれた手があった。
　その手が傷だらけなのも、服に隠れたその下の肌が包帯で白く染まってるのも、本当は全部わかってた。

　だけど、それをどうしたらいいのかがわからなかった。

　優しい人は頭を撫でてくれた。その優しい人が、自分が傷つかないようにしてくれてたのを知っていた。
　夜中に突然、手を引かれて家を飛び出したことがあった。歩いて回った親戚は誰も手を差し伸べてくれなかったけど、優しい人だけがずっと手を握ってくれていた。
　殴られたその人の頬を打たれる音が、耳の奥にこびり付いた。

　傷つける人、傷つけられる人。冷たい人、恐ろしい人、優しい人。
　世界はモノクロだった。色褪せた世界の中で、優しい人から伸ばされる手だけが優しい色をしていた。
　でもそれも、だんだんと薄れていった。家の中だけで傷つくのから、外でも傷つくようにもなった。

　優しい人の優しい色が褪せていくのを、止める方法がわからなかった。

　世界はモノクロで、それでも日常は変わらず続いた。
　優しい人は少し色を取り戻したような気がしたけれど、その時にはもう、褪せた色が世界に馴染んでしまっていた。
　毎日を忙しそうにしている姿に、どうすれば支えられるか考えた。大丈夫、と背を押されるようにして家を出た。
　守られてばかりの日々だった。それでもいい加減、少しくらいなら守られた分を返せるからと思って、この気持ちを告げようと決めた。

　家に帰ったその日、リビングは炎に包まれた。赤々と燃え盛る炎が視界を埋め尽くして、焼き焦がす熱が肌をひりつかせた。
　炎の壁に囲まれて、焼かれ崩れる天井が降ってきたのに、逃げ場を失った。自分の身に迫る死を理解して、死にたくないと思った。
　その時、身体の内側から湧き上がる何かがあった。身の内から食い破る様に溢れたそれが、世界を変えた。

　バキバキと音を立てて足元から広がり這い上がる冷気に包み込まれ、炎は青く透き通る氷に閉じ込められる。聳え立つ氷壁と砕けた氷の粒子に光が反射してキラキラと輝き、吹き抜ける風に透き通るような音が響く。
　切り取られた青空から暖かな太陽の光が降り注ぎ、自分と、世界を照らし出す。
　煌き乱反射する世界が色鮮やかに染まり、空気を揺らし響き渡る音が無数の色を持つ。

　「綺麗だ」

　震える声が零れ落ちて、白い息が空気に消える。
　こんなにも綺麗な世界があるのか、と―――心が震える。

　モノクロだった世界を忘れ、自分の中にある色鮮やかな世界だけが、記憶の始まりだった。



　魅入られた世界に焦がれても、それは秩序に反することだった。
　綺麗な世界に響いた足音に驚き逃げた果て、一年の時を経てUGNに発見されてから、オーヴァードという存在を知った。自分の能力についても、そこで教わった。
　使い方を教わって、けれど自由に使えない。それは確かに窮屈で、もったいないと思った。何故、あんなにも綺麗な世界を、自ら封じなければならないのだろう。
　それが世界の秩序を守ることになるのだと説明されて、渋々ながらに納得する。秩序の保たれた世界は退屈であるものの、けれど、有り触れた日常に染まった世界の色も悪くなかった。
　ただそれでも、瞼を閉じれば蘇る、秩序を外れた世界の光景は、どうしようもなく心惹かれるものだった。
　焼き付いて消えない、始まりの記憶。またあの世界を見れたらと、燻る欲望を消し去れない。

　ああでも、あの色は何だっただろう

　鮮やかな世界の、それよりも前。忘れて消えた筈の、モノクロの世界。
　そこにあった優しい色が、色鮮やかな世界に掻き消されていくのを、止められない。

HO1：加苅 来斗

ロイス
×親戚　懐旧／○無関心
記憶の中の誰か　懐旧／○隔意
キッド・ナップ　○親近感／不快感
×明星　竜胆　信頼／○猜疑心
×暁　近護＆東雲　葵　○仲間／罪悪感
加苅　輝希　幸福感／○疑問

トレーラー
服は人が着ることではじめて完成する。
しかし「服そのものが持つ魅力」に憑りつかれる者も存在するだろう。

人は服を着ることで目指す自分に近づくことができる。
しかし「服に着られる」ようなことだってありふれた話だろう。
人と服。互恵関係のようで、一筋縄ではいかないそれら。
これはそんな話かもしれないし、多分きっと恐らく違う。

ダブルクロス The 3rd Edition
「メイド・フロム・コスチューム！」
――ダブルクロス、それは裏切りを意味する言葉。

共通HO
ワークス及びカヴァー：自由
シナリオロイス：「依頼者」
推奨感情 P: 友情 / 不安

最近巷を騒がせている「メイド服限定」の服泥棒。
どうやらオーヴァードの仕業であるらしい。
キミは呼び出しを受け、事件解決のために動くことになる。

※依頼者はPCの立場に合わ せて立場を変えること。
支部長、本部エージェント、セルリーダーなど。

ロイス
加苅　輝希　●幸福感/疑問
記憶の中の誰か　懐旧/●隔意
依頼者　●好奇心/不安
ミスカートメイド服　●面白かった！/面倒くさい
×コスプレイヤー　好奇心/●お前合わない！
×萌えキュンメイド　●ちゃんと出来てただろ？/疲れた飽きたもうやらない