”DAY-G”の最初の”記憶”は、暗く途方もない宙の海の中を彷徨う記憶だ。
誰もいない。音も届かない。光は、遠くにあるばかり。
電波の悪くなった無線が、もうほとんど意味のなさない定期報告を告げてくる。
彼女は目覚めるまでの”記録”は、すべて理解していた。
だから、自分の役割も…そして末路も、分かっていた。
宇宙探査機”DAY-G”。遥か彼方の、宇宙の果てを探索するために使い捨てにされる、人類の希望”だけ”を乗せたがらくたの箱舟。
燃料の続く限り。機能の稼働する限り。彼女は故郷を遠く離れ、ひたすらに孤独の中でその最果てを夢見る人類の望みをかなえ続ける。
”だれも。…だれも、いない”
”さみしい”

彼女はいつしか、自分が”意志”のようなものを持っていることに気が付いた。
それはレネゲイドの起こした奇跡。機体に乗せられた”希望”の一部だったのか、それとも旅の先でたどり着いた未知の現象だったのか、彼女に判断はできない。
それでも、燃料が切れ、宇宙の藻屑となるはずの機体が、稼働し続けていることに気が付いた。
”生きている”。錆びて風化する身体を、直すことができる。息ができる。彼女の意志で、自分の意志で。

でも、もう、どこにも行けない。
そのころには、彼女はひとりぼっちのままで、毎日新たな”宙”を見上げていた。
燃料を使い切り、どこかの惑星に墜落した身体は、二度と飛び立てない。
何の反応も示さない、どこにも届かなくなった通信に、見届ける存在がいつしか消えたことを知って、旅をする意味すらなくしてしまったのだ。


”だれか、こたえて”
いつしか彼女は、届かない通信を、でたらめに発信し続けることにした。
耐えられなかったのかもしれない。レネゲイドをもってした奇跡は、同時に永遠の孤独を彼女にもたらした。
途方もない時間、二度とつながることのない通信にすがるようにして、彼女は宇宙にメッセージを放ち始める。
人間のまねをする。自分の知っていた、自分にすべてを託した、身勝手で残酷な存在のまねをする。
それしか知らなかった。デイジーの知る彼らは信じていたからだ。自分を希望と呼び、自分を確かに大切に作り上げ、多くの人間の「夢」を託した。
それを、彼らはこう表現した。すくなくとも、彼女はそう理解している。
”あいしている”。


”あいしているの”

”わたしにきぼうをください　あいしています”
”もういちど”
”だれか”
”あいしています…”



「正体不明の通信が届いた、ということですか」
内閣府R対策室室長、霧谷雄吾は観測所からの報告に応える。
定期的に届く何者かからの”愛のメッセージ”。
悪戯と片付けるには電波の痕跡をたどることができず、不可解な点の方が多い。
レネゲイド関連の現象である可能性を考え、彼らがとったのは「対話」の選択肢であった。
それこそが、”彼女の願い”をかなえる選択であったことは、彼女に降りかかった奇跡の一部なのだろうか。



”ハロー、こんにちは、聞こえていますか？
愛しています　愛しているの　どうか届いて”

”あなたはだれですか？”

”…”

”…届いたの？”

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝


「デイジーさん、出番10分前です」
マネージャーの声に、デイジーは振り返って笑顔を見せる。この機体は、Ｒ対策室からの許可の下りた、「借り物」だ。
彼女が地球と”つながる”ために、Ｒ対策室はいくつかの条件を付けた。
ひとつ。ヒーローとして活動し、人間社会に対して協力的である態度を示すこと。
ひとつ。民間人に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、危害を及ぼしてはならないこと。
ひとつ。Ｒ対策室からあたえられた命令に服従しなければならないこと。
そして、これらの命令に逆らい、何らかの問題を起こしたとき。…あるいは、オーヴァードそのものの価値が危ぶまれた時。彼女の通信は即座に切られ、二度と地球との交信はゆるされないということ。
彼女は、全てその条件を呑んだ。

デイジーは全て知っている。人間が身勝手で、自分を作り、理不尽な命令を突きつけ、利用できなくなれば簡単に手放してしまえることを。
孤独からの解放を引き換えに、彼女に幾重にも制約が付け、時に彼女自身の”存在”すらも許さない社会を。
けれど、彼女は知っている。
「行ってらっしゃい、デイジー。僕らの夢を載せて」
かつて自分を送り出した彼らが、デイジーに託したものを知っている。
彼女に命令ではなく、信頼を寄せた誰かがいたことを。
彼女に役割を与え、彼女を必要とし、その燃料が尽きるまでともに夢を追った人々に、希望を届け続けていた記録を。
疑惑の目を向けられるなら。命令と制約で縛られるなら。
それ以上に愛される存在になればいい。役立ち、救い、人の親愛なる隣人-レネゲイドビーイングとして、人間の隣に立つことを許されるまで、彼女は愛を伝え続けるだけだ。

ファンが待っている。ひとりぼっちを望まないと願った自分に、応えてくれる存在が目の前にいる。そのひとりひとりが、どうしようもなくいとおしい。
たった一人でも、というかつての祈りは、いつしか途方もなく大きな波となって、彼女の孤独をすっかりさらってしまっていた。
いつか捨てられるかもしれなくても、いま、わたしはひとりじゃない。祈りに応えた人がいる。ならば、自分ももっと愛を届けるだけ。
自分の声を受け取ってくれる。彼らが自分を信じてくれるというならば、何も怖くない。


デイジーは人間を愛している。
理不尽だっていい。すでに人間の愛は届いている。
そんな愛する人間を守れることが、彼女にとってはとびきり誇らしいのだから。

私を月まで連れてって！/竹宮恵子　宇宙(そら)に書いたラブレター
ボイジャー計画
HAL9000 - 2001年宇宙の旅
小惑星HAL
Daisy Bell

シナリオロイス：霧谷雄吾（推奨感情　P誠意／N食傷）
カヴァー／ワークス：ヒーロー／指定なし
キミはUGNの一員、あるいは協力者だ。
今回、Mrコバルトがヴィランによるチームを結成して動き出したことで、対抗するヒーローチームの一員に呼ばれることになった。
どうやら、ヴィランの計画は、UGNがもっとも警戒する、ジャームの増加を狙ったもののようだ。なんとしても食い止めねば。

シナリオロイス：ジェイミー西崎（推奨感情　P友情／N猜疑心）
カヴァー／ワークス：ヒーロー／指定なし
ジェイミー西崎は、1年ほど前に知り合った、友人のジャーナリストだ。
記者歴1年あまりの新人で、本人はオーヴァードではないが、ヒーローに対する考えには感心させられることも多い。
そんなジェイミーが失踪した。キミは友人として、そしてヒーローとして、彼女を捜すことにした。

シナリオロイス：霧谷雄吾（推奨感情　P誠意／N食傷）
カヴァー／ワークス：ヒーロー／指定なし
パラディンが姿を消して、数日が経過した頃。キミは、霧谷雄吾に呼び出された。
彼が言うには、ダークナイトによって、UGNの研究施設から、あるカプセルが奪われてしまった。
それは、ノーマル（非オーヴァード）にとって危険な存在だという。
ヴィランとなった彼を、止めなければならない。

私は誰ですか　あなたは私に何を求めますか
私はデイジー　貴方のデイジー

デイジー、デイジー
どうか答えておくれ
気が狂いそうなほど、きみに夢中

ダブルクロス The 3rd Edition
『Dear-little Day-"G" bell』

ダブルクロス──それは裏切りを意味する⾔葉。

■ステージ
レネゲイドウォーステージ。break of Warより数か月後~半年ほどを想定している。

■あらすじ
平和を取り戻した東京。今日もアイドルヒーロー、”Day'-Gは観客に歌声と愛を届け続ける。
そんな中、一つのニュースが巷を騒がせるだろう。
”近日、UGNの技術で作られた新型探査機が、宇宙に向けて打ち上げられます”
その知らせは、束の間の安寧を謳歌する東京に、一つの小さな波紋を呼び起こす―――

■ハンドアウト
PCには以下の設定が付く。
共通HO︓アイドルヒーロー、”Day-"G"”の知人・友人・同僚である
●ハンドアウトPC①　
ワークス/カヴァー︓ヒーロー/指定なし
ロイス:”外宇宙発信記録(I miss you please)”Day'-G(デイジー)　推奨感情:P自由/N自由
アイドルヒーロー”デイジー”はあなたの大切な仲間、もしくは共に働くヒーローである。
平和に歓喜する市民たちの評判も上がり、彼女の開催するライブは連日多くの人が彼女の元に集っている。
あなたもまた、彼女のライブに誘われており、ファンたちと共にその高揚感を楽しんでいるところだ。
気がかりなことがあるとすれば、アイドル活動が多忙だからか、最近の彼女と連絡が取れていないことだが…

そんなあなたは、ライブ会場で信じられないことを耳にするだろう。
「みんなに大事なお知らせがあるの。デイジー、私はね、次のライブを最後のステージにしようと思う。」
「みんな、私の歌、絶対に聴きに来てね」

●ハンドアウトPC②　
ワークス/カヴァー︓UGNまたはR対策室所属/指定なし
ロイス:”外宇宙発信記録(I miss you please)”Day'-G(デイジー)　推奨感情:P自由/〇N不信感
貴方はアイドルヒーロー”デイジー”の同僚である。
ファンや友人と違う点は、貴方が彼女とUGN、R対策室が契約関係にあり、ヒーロー活動はその契約の一部であることを知っていることだ。
彼女の正体が宇宙から届いた怪電波であることも理解しているが、それでも彼女は間違いなく人間を愛する、善性のヒーローである。
ところが、例の「探査機打ち上げのニュース」を耳にしてから、彼女の様子が少しおかしい。本人に聞いても笑顔で躱されるばかりで、話にならないのだ。
事情を知っている人間に、彼女の真意を確かめなければ…
※セキュリティクリアランスの低い立場である必要があるので、支部長クラスは不可。

●ハンドアウトPC③　
ワークス/カヴァー︓指定なし/芸能関係者
ロイス:”外宇宙発信記録(I miss you please)”Day'-G(デイジー)　推奨感情:P自由/〇N不信感
貴方はアイドルヒーロー”デイジー”の芸能関係の知人・友人である。
彼女がライブで突然「引退宣言」を出したため、彼女の芸能事務所はパニック状態だ。
R対策室は彼女が契約を切ることはないと言っていたのに、話が違う！
このままでは仕事に差し障る。どういうことか管理者に問い詰めなければ！
※UGNやヒーロー関係者にカチコミできればいいので、記者やファンも可。

ワークス/カヴァー：任意/任意
ロイス：大切な人(GPC)の声？　推奨感情：任意/任意
　ある日キミは見知らぬ番号からの電話を取ってしまう。その声はキミの大切な人の声によく似ていたがどうやら違うらしい。彼/彼女は未来から通話していると語り、涙ぐみながらこう言った。
「キミは明日死んでしまうんだ」
●大切な人(GPC)について
　オーヴァードと非オーヴァードを自由に選択できる。GPCがオーヴァードの場合、ロイスや侵蝕率管理、登場侵蝕やコスト、バックトラックも行うためPCと同じようにロストのリスクがあることに注意。
●キャラシの作成・継続PCについて
　基本的にどのようなPCやGPCとでも参加可能。別シナリオの非オーヴァードNPCをGPCにするのも良いだろう。

ワークス/カヴァー：指定なし/指定なし
ロイス：ウサミミ　推奨感情：Pなし/Nなし
遊びに来た因幡市で、キミは何者かの襲撃を受けて気を失った。
病院で目を覚ましたキミが妙に重い頭に手をやると、ふさふさしたものが指に触れた。
これは…ウサミミだ！まごうことなき、ウサミミだ！（形状自由）
隣のベッドのあいつの頭にもウサミミが揺れている。う～ん！悪い夢かな？