UGN所属のレネゲイド研究者から成り上がった支部長。過去は医大生として順風満帆な人生を送っていたが、ひょんなことからレネゲイド事件に巻き込まれ、この世界の裏の姿を知る。記憶処理を施されるはずだったが、必死の嘆願にて研究者として雇われることとなった。
自分よりも遥かに歳下の少年少女が、日夜世界を守るために血を流している。……いや、そんな戦場に立つことさえなく、｜不良品《できそこない》として処理されている子供がいるという事実に、唯一は胸を痛めていた。そして、"彼女"との出逢いが彼の運命を変えることになる。
｜小夜《サヨ》。それがその少女の名だ。僅か10歳のその少女は、オーヴァードへ覚醒し、しかしレネゲイドと致命的に体質が合わず、拒絶反応によって寝たきりの生活を送っていた。一般の病院に偽装されたUGNの研究施設にて、彼女の治療は行われ、そこに唯一も参加していた。
唯一は献身的に少女に接した。苦痛に喘ぐ彼女の手を握り、未来への希望を語り、その細い心と体が折れぬよう、必死に祈った。……祈ることしか、出来なかった。
未だ謎が多いレネゲイドに対し、人類はあまりにも無力だった。今や少女の命の源に成り代わったレネゲイドに、しかし少女の肉体は拒絶反応を示している。この矛盾した状況に、唯一を始めとした研究者達は皆、打つ手が無かった。
誰もが少女の恢復を諦める中、唯一と数少ない仲間だけが少女の傍に居続けた。彼女の瞳から、希望が失われていくことに気付きながらも、励まし続けた。それが、死にゆく少女の心にどれだけの温もりを与えられたのかは、もはや誰にも分からないことだったが。

彼女の亡骸を胸に抱き、唯一は嘆いた。己の無力を、世界の残酷さを。その時、すっかり冷たくなってしまった少女の体から、仄かな熱を感じた。その熱はやがて、唯一の体へと伝い、燃え上がるように膨れ上がった。彼は、少女に宿っていたレネゲイドウィルスに感染していた。
力に目覚めた彼は研究部を離れ、前線へ飛び出した。子供が死にゆく世界など間違っている。真っ先に傷つくべきは自分たち大人のはずだ。そう心に誓って。
気付いた時、彼はUGNの病床に横たわっていた。
誰彼唯一、彼に戦いの才は無かった。
初めての実戦、必死に戦いに着いていこうと能力を解放した彼は、呆気なく暴走に瀕し、味方に取り押さえられようやく落ち着いたのだという。敵の鎮圧こそ成功したが、レネゲイドを扱う能力に乏しい彼に、長期間の作戦行動は不可能だろうと判を押される形となった。
深い絶望が彼の背にのしかかった。このまま、自分は何も出来ないまま、のうのうと生きることになるのだろうか、と。
そんな考えが鎌首をもたげだす時、決まって思い起こされるのはあの子の冷たくなってしまった身体。あの色褪せた瞳。｢誰かたすけて｣、最期の言葉だった。それらが、唯一の身体に再び火を灯す。自分は、ヒーローにはなれないだろう。劇的な何かの救いを齎すことは出来ないだろう。世界を守ることなど不可能だろう。だがそれは、何もしない理由にはならないはずだ。唯一は、何度も自分に鞭を打ち立ち上がった。

研究部に戻り、寝る間を惜しんで研究に没頭した。その傍ら、戦闘訓練にも臨んだ。出来る限りの作戦行動に参加し、経験を積んだ。人脈を広げ、少しでも多くのレネゲイド案件の情報を集めた。やがて彼は、研究者としての立場をそのままに支部長としての地位に就くこととなった。
今はまだ小さくとも、この世界の残酷さに押し潰されそうな命を、掬い上げるための場所。それを築き上げるべく今を生きている。

小夜と適合する筈だった遺産。現在は彼女と同じレネゲイドを持つ唯一を契約者とし、その力を発揮している。だが、それは飽くまで“なんとか扱えている”に過ぎず、本来の契約者ではない唯一への負荷は甚大であり、1日における最大起動回数は限られている。
発動すると黒い魚人の姿へと契約者を変質させ、その手に長柄の銛を生じさせる。
この力を使う度に、身体が水底へ引きずり込まれるような寒気がするという。それでも、誰彼唯一の心が折れることはない。亡き少女が味わった苦しみと絶望が、この程度であるはずが無いのだから。