「お父さんは私が守るから！」
（だから好きにならないで、私のことを、決して）

あんなに嫌いであった戦闘も今ではそれほど苦ではない。
腕が飛ぼうが足が飛ぼうが戦闘はやめない。むしろ楽しんでいるようにすら見える。
此岸回帰によりさらに狂気が垣間見える。

１年ほど暮らせばこの国での生活にも慣れた、お金の重要さも理解した。
和食はとても美味しい！大好きになった。

吸血鬼になってから成熟の見られなかった精神は血盟を結んでから急激に成長し、ふとした瞬間見た目よりも大人びた発言や表情をするようになった。
一方血盟を結んでから恐怖の感情はどんどん欠落していっている。不安すら最近は抱かないようだ。

柿谷へは相変わらず父として接しているが、あくまで血盟。あくまで吸血鬼と人間。父と呼んでもそれは父ではない。きっと柿谷もそう考えているだろう・・・・・そう思っていた。
お願いだから自分を好きにならないでほしい。怖いままでいてほしい。いつかは消えてしまうのだから。私はタダの駒だ。そうしてほしい。
この楔が消えてしまうまで、『父』を守ろう。今度はこの手で守るんだ。
だから『父』でだけいてくれればいい、幻影の『父』へ贖罪させてほしい。
そうすることで己が救われる、なんて酷いエゴか。
【それでも今日も私は彼を『父』と慕うだろう。そうしなければ、心が持たないから。これは、呪いだ。】

壊れてしまった。たった一つの思い出だった。
思えば当然だ。もう何年前だと思っているのだ？
もはやアンティークにも近い年数。無茶な戦い。壊れても当然だったのだ。
それでも、父との、家族との絆が粉々になくなってしまったようで。

だが、後ろにはもう戻れない。あの時終わらせたのは私だ。
どんなに辛くても死ぬだなんて許されない。生きることが私の罰だ。だからきっと生き返った。

笑おう、笑っていれば大丈夫だから。
みんなが好きだといってくれたから、笑おう。
ねぇ、隣のあなたが、どうしてそんな顔をするのか。私にはわからないよ。
お父さん、笑って。

いつからだろう。少しだけ目線があがったのは。
私の家族は、ずっと止まってるのに。私は少しずつ時が流れ始める。

有り得たかもしれない未来
有り得たかもしれない過去

冷たい鏡の向こう側は、きっと私の願いを映していた。

ねぇ、幸せ？私は笑ってるから幸せだよ。

あなたが死ぬ未来があるくらいなら、私が死ぬ。
大事だから、今度こそ守るんだ。

私は怪物だ。
父を簡単にへし折り、殺したのは紛れもない私なのだ。
そんな怪物に、悲しそうな顔をしないで。
今更全部遅いんだよ。だから嫌いになって、怖がっていて。
あなたがみた、あの鏡のように、私はあなたを簡単に紙のように引き裂ける怪物なのだから。

何にも知らないで、触れないで、私を好きにならないで。
とてもとても大事になってしまった、家族よりもきっと。だから手放そう。ありがとう、さようなら。