少しぶっきらぼうな口調が目立つエルダナーンにしては低めの身長の男性。
現在は人生をかけてでも成し遂げたい「人捜し」のために旅をしているらしい。
常に穏やかそうな表情ではあるものの、よく見ると貼り付けたような笑みと薄暗い感情が見え隠れする。

今日という日はおそらく自分にとって区切りの日になる。故にこうして断片でもいいから自分の半生を残しておく。
願わくば、誰も目にすることなく燃え尽きてくれ。
ぼくが家名として背負っていたはずのものは「グライヒェ」だった。古来の言葉で「等しい」という意味らしく、数学的に解き明かす時に使うものだということから転じて「解き明かすもの」という一族に相応しい名前だ。
その名が示すように、我がグライヒェ家は代々学者として実績を残してきた。元より知的好奇心の強い血筋だったのかはたまた環境が整っていたせいか、多岐に渡る学問を修めていたようだ。魔術、数学、言語学、歴史…戦術書にもグライヒェの文字を見つけた時は誇らしく思ったものだ。

けれど、ぼくはスペアにすらなれなかった。遅くに生まれた末弟は魔術の質が昏く、精霊にあまり好かれない。それ故落ちこぼれと頰を叩かれることも少なからずあった。
いつだって叱られるときに名を挙げられて比ぶらるるは偉大なるランハート。名状しがたき人あらざる邪悪な当主に与えられた過去の栄光。しかしてそれを見過ごされるほどの才覚とカリスマを持っていた。認めよう。間違いのないグライヒェの頂点だ。

しかし、そんなことはどうでもよくなった。いや、どうでも良くならざるを得なかったのだ。だって全部が堕落してしまったのだから。
10年前に奴は暗黒の隷奴へと落つた。
次期当主としての定めを放り出し、書庫へと嚙り付くようになった。本棚を食い尽くすとそれは次第に活動を広げ、伝説足り得るかの男がそのようにするなら間違いはないだろうと胡坐をかく馬鹿どもが気づくころにはもはやグライヒェは何もかもがおしまいだった。
ぼくはなんとなくその予兆に気付いていたものの、力もなく落ちこぼれで精霊にも好かれない末弟の話など耳を傾けられる道理もなし、あちらこちらとのたうち回る血族を尻目に天を仰ぐしかなかった。

そうして家族だった彼らがあわやこの家名は終わりなのだと諦めて笑い、身内に剣を振りかざす頃に当主のランハートは忽然と姿を消した。
たった1枚の手記だけ残し、一族の涙と血に花も手向けずに。

手記を読んで愕然とした。次いで、怒りも。
この男はこんなもののために、ありもするかわからないもののためにたくさんの家族を殺すも同然の行いをしたのか。
子供に手を上げるような古いだけの酷い家だったかもしれないが、自分にとってはそれだけではないあたたかな一族だったのだ。
力任せに激情のままその手記を破り捨てようとして気づいた。闇の精霊魔術で作られた普通には見えないインクが付着していることに。
自分の魔力は昏い。故に闇の魔術の理解が人より早かった。一族もそれを伸ばすと良いのだろうとようやく認めてくれかけていたのに。
その力を使う時が来たのだと直感する。ゆっくりと自分の魔力を流し込み、その文字を読む。

いあ　いあ　しゅぶ=にぐらす！

その言葉の意味を分からずとも、本能がそれを読み上げることを拒絶する。
けれどその言葉が脳に焼き付いて離れない。

探すしかない。あいつの手掛かりはきっとこれしかないのだから。
グライヒェの復興とあの男の首に手をかけることをこれよりの命題として、ぼくは生きてゆく。

本名：オーマント・グライヒェ　Ormand Gleiche
Ormandは「蛇・悪魔」、Gleicheは「等しい」というドイツ語。

狂信者の弟君～！シュブ=ニグラスにすべてを溶かされたせいで実家を全部ぶっ壊した男に復讐するために生きる復讐鬼(アヴェンジャー)。
闇魔法に生まれつき親和性が高いため、兄よりもシュブ=ニグラスを招来できる可能性がある。