玉枝
プレイヤー:まる
- 分類名
- 猫又
- 出身地
- 日本
- 根源
- 享楽
- 経緯
- 大事なもの
- クランへの感情
- 住所
- 都区東ブロック
- 強度
- 0
- 耐久値
- 20
- 能力値
-
- 身体
- 2
- 異質
- 4
- 社会
- 6
- 特性
-
- 《動物頭》
- 《美の伝道者》
- 《サービス業》
- 《アーティスト》
マギ
名称 | タイミング | 対象 | 条件 |
---|---|---|---|
《浄化の音》 | 効果参照 | 効果参照 | なし |
[行動フェイズ]なら任意のタイミング、[ロケアクション]なら[【イニシアチブ】の確認]で使用。[マリョク]の出目を[4]か[7]に変更する。セッション三回。 | |||
設定
情報
年齢 | 不詳。絢魚曰く「あたしが生まれた時にはもういい大人でしたよ」とのこと。 いい女に歳聞くもんじゃないよ |
---|---|
性別 | 女 |
身長 | 130cm(耳込み) しょっちゅう転んでたチビはあたしより大きくなっちまったね |
一人称 | あたし |
二人称 | あんた |
好きなもの | 魚 見んのも食べんのもいいさね |
嫌いなもの | 火事、束縛、野暮、蛇 |
詳細
三毛猫の猫又の遊女、芸者。生まれたての絢魚の親代わりをしていた。絢魚が生まれてすぐに亡くなった絢魚の母親の友人だった。
あたしはもともと廓に入って、年季が明けりゃあ廓を出て好きに暮らす猫の一族に生まれた。母も、その母も、そのまた母も若いころは廓に入り、廓から出て、男を捕まえ、子を作ったらそばにいるも分かれるも自由、子が一人前になったら廓に入れる、婆になったら寄り集まる、その繰り返しで、あたしも同じ流れの中で楽しいこと探していくんだろうなと思ってた。
遠い国から来たのだという彼女はあたしがこれまで見てきたもんの中で一番綺麗だった。流れるような黒髪、真珠を砕いてまぶしたような白肌、海の一番綺麗なとこを掬い取ったような瞳。何よりも、光に当たってきらきらと七色に輝く鱗のついた下半身。座敷に上がって下半身を人間と同じにしちまった時は思わずがっかりしたくらいだった。黙っていれば凛と澄んでいるのに、くるくると変わる表情は愛らしくて、声はぎやまんの鈴を鳴らすよう。誰かを褒めんのも、琴に三味線、舞に唄、囲碁に将棋に漢詩の芸事だって上手くて、なのに強気で粋な女とくれば、最初はあたしが世話してたのに、あっという間に花魁になっちまった。そんだけ芸事をこなせるくらいだから頭の出来も素晴らしく、なんでまたこんな苦界に売られてきたのかと問うたらば、どうも実家への意趣返しらしい。故郷に戻っても一族のために結婚、子作りさせられるだけだからこことそう変わらない、故郷の連中は純潔を重視するからここに入ってしまえば出てきたとしても連れ戻されまいと言って笑っていた。道理で忘八が頭を抱えていたはずだ。ここから出たらどうするのかと重ねて問えば、この国に来て見つけた美しいものを多くの手に届けたい、商売を始めると。うまくいくもんかねと言えば、自分の値段も自分で決めた、この私が売るんだぞときた。こりゃあ一本取られましたと笑い合ったあの日を未だに夢に見る。
初めてあの男が店に来た時のことは思い出したくもない。女のように白い顔をした、作り物みたいな顔の、昏い目をした男だった。いつも冷静な彼女が珍しく焦ったようだったこと、早々と彼女の座敷から出てきたあの男が忘八と空が白むまで話し合っていたことまで思い出していつも吐き気がする。そのあとすぐに彼女はあの男に攫われちまったから。
二回目に来たときは連れの男と一緒だった。わざわざ別に部屋を取って、余計に金を払っても彼女と二人になりたがった。連れの男の相手はあたしだった。酔ってべらべら話すのを聞いてれば、あの男は彼女の許婚だったらしい。彼女が出奔したことで話は反故になったが、こんなところに身を落とした女をわざわざ迎えに来るなんて泣かせる話だ、どうせ男と逃げ出したのに騙されてこんなところに売られたんだろうに、頭の悪い女に惚れるなんて、あいつの悪いところは女の趣味だけだ、……ここまで話すだけ話したところでやけにきな臭いことに気が付いた。外からは、火事だと騒ぐ声。大騒ぎに慌てて駆け出して、火消しも済み、一息ついたところであの男がどこにもいないことに気が付いた。……彼女の姿も見当たらなかった。あの男は、あちこちに火を点けて、その混乱に乗じて彼女をかどわかしたらしい。どんなに条件を釣り上げても忘八が首を縦に振らなかったもんだから、業を煮やして無理やり彼女を攫っていった。火付けは重罪だ。江戸中を岡っ引きが血眼になって探し回っていたらしいが、どちらの行方もとんと見つからなかった。
それからしばらく、あたしは年季が明けて、廓を出て暮らしていたものの、ずっと彼女のことが頭から離れないでいた。不自由なく暮らせてりゃあいいが、そんなの望むべくもないから神仏の別なく願掛けしていた。そんな帰りの、月のない夜だった。彼女と再会したのは。あたしは夜目が利くから誰か立ってるのは直ぐ判った。髪はざんばらだったけど、瞳は変わらずに力強く、綺麗だった。困ったように眉を下げて笑って、それから真剣な顔をして、彼女は娘を育ててほしい、とあたしに頼んできた。物言いが直截なところも変わってないもんで、そんな場面じゃねえのに笑ってしまった。彼女も気が抜けたようだったけど、そしたらすぐに崩れ落ちちまった。腕の荷物を庇っているようで、よく見たら赤ン坊だった。落ちかけてもすやすや眠ってるとこを見ると、肝っ玉は彼女譲りに相違なかった。二人をあたしのうちに連れ帰り、赤ン坊を置いて一息ついて、さあ詳しく説明してもらおうじゃないのさと改まろうとしたら、身も起こせないでうずくまってた。本当は、明るいとこでよく見なくてもわかってた。妖力があんまりにも薄かったから。彼女は今すぐ死んでもおかしくないほどに弱ってるんだって。虫の息のわりに口がまわり、あの頃と変わりなく、誇り高くて綺麗だった。
名前は絢魚、彼奴はもっとずるずると長い名を付けたがこの子は絢魚だ、どうか貴女が育ててくれ、あの家ではきっと私の代わりとして育てられてしまう、望みをかけるのは趣味じゃないが、自分の夢はこの子に託すことにする、可愛がってくれ、と。思わずあの男の子だろう、憎くないのかと聞いちまったら、憎いさ、それ以上に可愛いんだ、私の子だぞ? 可愛くないわけないだろう、ときた。初めて顔をはっきりと見たが、確かに、可愛らしくて。彼女が赤ン坊にまで縮めばこうなるだろう、と思うほどよく似ていた。あの男はこの子を一から育てなおしてもう一度理想の私と結婚するのだと言っていた、本当に気色が悪いと顔をしかめて、ふっと緩めて、貴女は私の身の上も、夢も、笑わずに聞いてくれた、きっとこの世の中で、一番好きだったのは貴女だ、最期に会えてよかった、なんてのたまい、息を継いだままもう二度と言葉を発することはなかった。
そのままあたしはしばらく動けなかったけど、行燈の油が切れて部屋が暗くなったころにようよう動き始めて、最初にしたのは彼女の亡骸を一飲みにしちまうことだった。最期にあたしに会いに来て、その命の終わりをあたしにくれたんだから、亡骸があの男の手に渡らないように守り抜くくらいの甲斐性はあるつもりだ。その次に忘れ形見を確認。乳離れは済んでるようで、歯が生えだしてた。その後にとっとと引っ越した。あたしの実家が近く、近くに水場があるところ。彼女と同じ性質なら水がないとまずかろう、と越したが忘れ形見は美しい鱗の付いた下半身を持たず、その代わり御伴に空を泳ぐ美しい金魚を連れ歩く子だった。おかげで親類のチビどもには大人気だった。親子ともども目を引く、と思い、まだ実家付近だからいいが、この子が大きくなって、都に行くようなことがあれば、あの男に見つかっちまう。親類の婆様方に事情を話し協力を仰いで、絢魚が独り立ちするときの贈り物をこさえた。
誰に母親のことを聞かなくても、絢魚は綺麗なもんが好きで、それを集めんのも、自分より似合うやつに手渡すのも好きな子に育っていった。いつか商いをしてみたいと言われた日には、思わず笑って、息ができなくなるほど笑って、その夜こっそり泣いちまった。笑われたときに恥じ入るんじゃなく目を眇めて見せたのも彼女にそっくりだった。
流れるような黒髪、真珠を砕いてまぶしたような白肌、海の一番綺麗なとこを掬い取ったような瞳。何より光に透けて七色に揺らめく美しい金魚の御伴達。あたしがこれまで見てきたもんの中で二番目に綺麗な子が独り立ちするとき、それまで話してなかった両親について話し、餞別として贈物をした。鉢かづきと絢魚の御伴にあやかって、人の頭ほどある金魚鉢を。首をかしげて受け取った絢魚の首から上が金魚鉢にすげ換わるのを見て安心した。絢魚は仰天していたが、妖力の出し入れで切り替えられるのを教えてやると面白がっていた。あたしに呪われたとは思わないのかと聞くと、玉枝姐さんがあたしにくれるもんは、悪いもんであった試しがねえものところころと笑っていた。
それから二百年近く、あの子は父親に捕まることなく商いを続け、盆暮れ正月にはあたしのところに顔を出し、元気にやってるようだったが、江戸が東京に変わってずいぶん経った頃、『大停止』なんて今じゃあ呼ばれてる事件が起き、あたしみたいなのはみんな東京に集められたわけだが、あの男がくたばってる確証がない以上絢魚を一人にするわけにいかない。ってなもんであたしも東京に来たのサ。仲良くしとくれよ、お兄ィさん方にお嬢さん。