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元々運の良かった蛸生だった。

兄弟が大きな魚に喰われていくなか、自分は何とか生き延び身体も大きくなっていった。
たまたま浅瀬で餌を探している時、人型の何かに捕まった。食われると思ったけど水槽の中に入れられて観察された。

夜中になると、捕まえたヒトが何かこちらに向かって口をパクパクしている。何をしているのか分からなくて
水槽から触腕を出してみたら、いきなり切られてしまった。何が起こったのか分からなくてパニックになっていたら
そのヒトが自分の腕を切って流れた血を水に落とし始めた。
気がついたら人間の女の子供の姿になって、ヒトが話してるコトバも理解できるようになった。
そのヒトは自分の肩を掴んで言った「にげなさい」って
理由は分からないけど、陸を動ける足があったので走って逃げた。海に帰りたい、海のにおいを頼りに走り続けた。

結論として、海には帰れなかった。
水の中に入ることができなかったのだ。それに、お日様が出ている時間は動けなくなってしまうので狭いところに隠れていた。

そんなときに自分と同じっていうヒトから「ケツメイ」というのを聞いた。
何でも水に入れないのは弱点で、ケツメイをすれば弱点がなくなるっていう事らしい。
そのヒトは詳しくは知らないって言って、自分を追い出した。

ケツメイになれば海に帰れる。
それだけを目印にケツメイを探した。
夜はギラギラで硬いものがすごい早さで走ってて、自分を見たらヒトは叫ぶ。
水に入りたいのは、ヒトの姿になればちょっとはマシになるけど、すごくお腹が空いた。

お腹が空いて、喉が渇いて、怖くて……
歩いてたらふにゃふにゃで心もとないけど暗いところがあったから、そのなかで休憩することにした。
気づいたら目の前にフジさんがいて、自分を助けてくれた。
ケツメイにもなってくれたし、狭くて丈夫なおうちも準備してくれた。
それに、お腹がすいたらフジさんが血をくれるんだ。
フジさんとお話しすることも楽しいし。もう、フジさんなしでは生きられないんだろうなぁ。