私は、この村で一生平穏に暮らしていくんだと思っていた。
……あの時までは。

なんで？どうして？
お父さんとお母さんだけが、死ななければならなかったんだろう。
何度も考えた。思わずにはいられなかった。
もっと早く、助けが来ていたなら――

けれど、そんな「もしも」は、何の意味もなかった。

ほどなくして、私は叔父さんに引き取られた。
よく、レストランでご馳走してくれた叔父さん。
とっても美味しくて、彩りも綺麗で、大好きだった。

でも、なんでだろう。
叔父さんの家に来てから、ずっと大好きだった叔父さんの手料理が食べられるのに……

……全然、嬉しくない。

叔父さんは、私にとても良くしてくれた。
お父さんの弟で、二人はすごく仲のいい兄弟だった。
きっと、叔父さんだって辛かったはずなのに……。

それでも、私を気遣ってくれた。

「何か食べたいものはあるか？」
「今日は一緒に出かけようか？」

私が何も言えなくても、何もできなくても、叔父さんは変わらずに優しく接してくれた。

そんな日々の中で、ある時から叔父さんと一緒に料理をすることがあった。
それは、ただの気まぐれだったのかもしれない。
少しでも何かしていれば、余計なことを考えずに済む気がしただけ。

その時はまだ、それ以上の意味はなかった。

叔父さんは、レストランを休業した。
そして、家と店を開けるようになった。
冒険者業に復帰したり、昔の知り合いと話したり、方々を駆け回っているようだった。

それから、しばらくして。

「待ってろ、フレジエ！とびきり美味しいものを食べさせてやる！」

そう言われて、出されたその日の料理。

とても暖かくて、美味しくて……感動が止まらなかった。

気づけば涙がこぼれていた。
私が泣いているのを見て、叔父さんは心配そうに顔を覗き込む。
この感動を、うまく言葉にできなくて。

「……すごく、美味しいです」

それだけ、率直に伝えた。

すると叔父さんは、ぱぁっと顔を明るくして、

「そうだろう！ フレジエのために作った特別な一品なんだ！ 気合いを入れたぞ〜！」

と言いながら、ドコドコと音を立てて胸を叩いた。

その様子がなんだか面白くて、可笑しくて。

「ふふ、叔父さん。変なの」

……久しぶりに、心の底から笑えた気がした。

私は、叔父さんに料理を教えてほしいと頼んだ。
叔父さんみたいに、誰かを笑顔にできる料理人になりたくて。

それから、叔父さんのレストランで働くことになった。
見習いとして厨房に立ち、お客さんのために料理を作る日々。
大変だったけど、お客さんの満足そうな顔を見ると、それだけで頑張れたし、何より嬉しかった。

でも、一つだけ。
心残りがあるとすれば……私は、冒険者にもなりたかった。

お父さんとお母さんは助からなかったけど、村のみんなは無事だった。
いつも大盛りにサービスしてくれるご飯屋さん。
お父さんの作った野菜を「美味しい」と言って買ってくれるお兄さん。
お母さんと仲の良かった裁縫店のお姉さん。
イタズラ好きだけど、根は優しい男の子。

みんなを守ってくれたのは、あの冒険者たちだ。

やっぱり、私も変わりたい。
弱いままのフレジエじゃなくて、みんなを助けられるくらい強くなって、美味しい料理を届けられるような自分に。

……そう強く祈った時、ミィルズ様の声が聞こえた。

今の私は、叔父さんや、いろんな人の助けがあったからここにいる。
その人たちに報いるために……
そうでなければ、私は何のために助けられたんだろう？

……なんてことを言ったら、叔父さんに

「フレジエはまだ子供なんだから、大人に甘えてもいいんだよ！」

って、怒られちゃったけど。

それでも、冒険者を目指すことだけは、諦められなかった。

ごめんなさい、叔父さん。
叔父さんが私を心配してくれているのは、ちゃんとわかっています。

でも……これが私の決めた道。

だから、私は行ってきます。
お父さんとお母さん、そして叔父さんにとっても誇れるフレジエになってみせます！