セレナ・シャドーグレイヴとの出会いそして別れ、それによって大きく変わった
自分のことを「薄汚い犬」と揶揄することをやめた、それは自分を愛してくれた相手への侮辱でもあり、そして自分へと向けられた好意が本当だと思うことが出来るようになったから

家族を仲間を大事にする、それは今も昔も変わらない

大きく変わったのは家族に向ける感情が深く大きくなったこと、1歩引いて遠目に見るのをやめて近くで話をして、心を通わせて積極的になりお節介焼きになった。

家族とお互いに支え合い、護り守られる、それで全員が幸せになって欲しいという純粋な願いが芽生えた

最近、"ボス"からの命令でしばらくの間、スラム街の一角にあるbarに1人で潜入捜査していた・・・・女装姿で
なぜかこの前の一件で一時の間だけ女姿に変装していたのが"ボス"に知られていてノリと実益を兼ねてぶち込まれた
どこから情報が出たのは定かではないが取り合えずチャライは殴った、ちなみに潜入捜査は大成功に終わり無事に標的を追い詰めることが出来たが・・・
レンカ的にはその後の方が問題で何故かbarのお姉さま達に気に入られてしまい歌に舞い、他にも色々と教えられることになった、ちなみに男だとバラしたが逆になぜかテンションが上がったお姉さま達にもみくちゃにされたもよう

厄介なことに人を手駒にする話術や戦闘中でも相手を見惚れさせて動きを止める舞踊などなど、有用な技術も多いため苦々しい顔をしながらも今でも交流はある、ただ野郎連中が模擬戦やら喧嘩やらで呆けるのは未だに解せぬ

趣味は意外なことに料理、プロには1歩劣るがそれでも腕前は人に胸を張って誇れる程度
ただ、料理を始めるに至った経緯が「物乞いをやってた時に、もらった飯に毒が入ってた」からでそれからは食べ物は受け取っても食べることはなくなり、残飯やネズミ、森で捕まえた小動物などを自分で調理するようになったことを話すと、引かれる

他にも大抵の家事が出来たり、子供には甘かったりなど外見からのギャップに驚かれることもしばしば

本人は気が付いていないが、生まれてからグリムヴォルフ家に拾われるまでの人生によって自分の価値をかなり低く見積もったり、自分が薄汚れた存在だと思ったりなどの悪癖が付いている、自分を「薄汚れた犬」と例えるのもここからきている
グリムヴォルフ家を出た理由も「自分のような存在が、こんな綺麗な場所にいてはいけない」と無意識に思ったため

グリムヴォルフ家には感謝しているし、自分の最初の居場所とも思っている、だけどそんな素敵な場所を「薄汚い犬」が汚してしまわないように旅に出た
その自分を下に見る精神性は今も変わっていないが、変わった友人から勧められた新しい居場所は、意外と居心地がよくて気に入っている、無意識に「番犬」を自称してしまうくらいには

純白の峰と呼ばれるスラム街の一角に生まれた、厳しい階級制度が存在するそこではナイトメアは「聖なる秩序を乱す者」であり「無位」と呼ばれる存在、そんな存在を生んだと分かればどうなるか恐れた家族によって捨てられた

捨てられた後は路地裏で物乞いをしてなんとか命を繋いでいたが、ナイトメアだから多くの者から疎まれ、害される、与えられるのは悪意と憎悪だけだった
1年と立たないうちに死にかけた、だけどそんな時に気が付いた、自分がそんな悪意や憎悪を向けてくる"ナニカ"よりも強いことにいつもの日常、違うのは向けられるのが殺意だったこと、酔って僅かな理性も飛ばした赤ら顔のそれに殺されそうになった時、咄嗟に振るった拳がそいつの顎を砕いたのがきっかけだった

それからは何年も、自分に向けられる悪意に憎悪に復讐するように、向けてきたそれらをを何匹も刈り取っていった
だが、そんな日々は純白の峰の上位者に目を付けられたことによって幕を閉じる、目障りを羽虫を払う様に、ゴミを捨てるように、そんな風に気軽に放たれた者たちによって、自分は死にかけた、瀕死の重傷を負って、逃げることもままならず

あぁ、今度こそ死ぬんだと思った

だけど、その時は訪れなくて、死んだと思った自分を、傷つき壊れた薄汚い[野良犬]を拾ってくれたのはグリムヴォルフ家だった

そこで自分はようやく人間になれた、人として扱ってもらえて、行くところがないと言ったら従者として仕えさせてくれた
グリムヴォルフ家の人々は優しかった、最初は信じられなかった、だけど1日、１週間、1カ月、1年・・・季節が廻り1周りした頃にはもう疑うことが出来なくなった、グリムヴォルフ家は俺の居場所になっていた

・・・ダメだと思った、「薄汚い犬」にここは相応しくないとそう思った

なんとなく数えていた歳が20を超えた日、俺はグリムヴォルフ家を出ることにした、自分に相応しい居場所を探して外に出た

「んで、出てすぐに喧嘩に巻き込まれて流れで共闘したのがチャライの奴だ」

男はそう言って机に肘をつきながら話を続ける

「そこからの腐れ縁でな、俺が"ここ"にいるのもあのバカに誘われたからだ」

苦い顔を浮かべながら、しかしどこか嬉しそうに

「まぁ、なんだかんだ・・・・・良い出会いではあったさ」

[砕骨の牙]の番犬はそう言った