大病を患ったことがある。
大きな遺跡を発見した事がある
まだ恋をした事がない
人々を守るため

彼女はかつて、成人近くになろうという歳の頃に行方不明になり、その後数年もの間消息を断っていた
奈落教団の根城となっていた遺跡の中で、彼女は人形化した魔神の苗床として発見された。彼女は、およそ彼女を隷属させていたとみられる召異術師の愛玩道具にされており、その姿は奴隷のそれよりも酷いものだったという。
その状態の彼女をミリッツァ教会は保護し、解呪を施した。数か月の時間をかけて彼女は少しずつ人格を取り戻していったが、同時に魔神の苗床であった時と、それ以前の記憶を失くしていた。あるいは、本能が、その回想を拒んだのか。
彼女が直感的に魔神や、異性といったものを忌避するのは、今は無き記憶がそうさせるのだろう。
彼女は18歳とされているが、実際には彼女は魔神の苗床として人形化して以来、歳をとっている形跡がなく、彼女が時間を取り戻したのは、彼女の苗床化が解呪されてからであるため、実際の彼女の年齢は、時間だけで言えば彼女が行方不明であった数年程多い。
解呪の後の治療の為、教会は彼女に名前と立場を与え、過去を知らない彼女に、慎重に奈落教の存在や、その他奈落に連なる存在を学ばせながら、なるべく外との刺激を避けて教会の中で育てた。
だが、具体的な年数が分からないために完治がどれほどの時間を要するのかの具体的な時間が分からず、彼女の人格が安定した頃、完全な治療の為、そして彼女自身が、彼女の脅かした存在へ抗う力を手に入れるべきだと判断した協会は、彼女を冒険者の道へと薦めたのだ。
実際のところ、彼女から苗床の後遺症はほとんどなくなっているのだが、苗床であった名残として召異の力を扱う事が出来る。彼女に付きまとう小魔との繋がりは、彼女の首筋の種を植え付けられた跡と共に残る過去の遺恨だ。彼女は自分がかつて悪徳な召異術師に脅かされた、という事実だけを教会と小魔によって知っている。彼女は自身が召異の力を扱えることを、奈落に抗うための毒だと受け入れている。
が、覚えてはいなくとも、彼女の心の奥底にある隷属の過去は、今もふとした時に彼女に悪夢を魅せ、同時に彼女を狂神の元へと攫おうとする。
彼女は常に、静かに。その狂気と闘っている。