一般技能

Lv1

―――男は生前、殺しを稼業とする者であった。
とある貴族の家に生まれるも、”止むを得ぬ事情”から家は没落し、物心ついて間も無く身売りに出された。
よって”家族”と呼べる思い出は、殆ど彼には存在し得ない。
そして彼にとって”生きる”とは、他者から何かを奪うこと以外に存在し得なかった。

男は、女性というものが苦手だ。
特別に、自らの命を顧みない『自由』な女が苦手だ。
特別に、雪のように真っ白な髪を靡かせた、青空のように美しい瞳を持つ碧眼の少女が苦手だ。
己の内に宿る旧い記憶は、今も尚、彼の身を焦がし続けている。

（PLメモ：銀髪または白髪に当たる女性が苦手。碧眼（青または緑の瞳）であればもっと苦手。
よほど追及されなければ態度に示すことはなく、悪印象を示すこともない。飽くまでキャラ付けとしてのフレーバー的な概念）

Lv2

―――青年は生前、帰らずの地ケルディオンの最北に位置する古の地ドゥーダス・リンクでその生涯を終えた。
”暁の竜フラワルド”と契約を交わした騎士の家系、■■■■■■の跡継ぎとして生まれた少年は父親の背中を見て育ち「人を守れる立派な騎士」になることを志すも、夢半ばで魔域に領地が呑み込まれたことを切欠に天涯孤独の身となる。
そうして瀕死であるところを彼は〈暗竜商会〉に拾われ人生の殆どを空の見えない地下街で過ごすこととなる。
そこで多くを奪い、他人の紅き血で自らを染め上げることとなった。
ただ生きろと。魔域に呑み込まれた時に言い放たれた、父の言葉に従って。

彼はそこで過ごすうちに、一人の孤児と出会う。
この澱んだ地の底で月のような輝きを放つ銀髪が目立つ、月神シーンの信徒。名をステラと言った。
彼女はよく喋る女だった。そして物好きな女だった。
何を言っても気の利いた言葉の一つも返せない少年を「冒険に誘う」ぐらいには、変わった女だった。
そんな少女を少年は”脱走者”として商会に密告した。
理由は簡単だ。彼女が育つ孤児院が、自らが属する〈暗竜商会〉が抱える機関のひとつだったから。
そして少年はステラという人物を自らの手で殺めるも、その少女を本当の姉と思い慕っていた少女シルマの復讐の刃に掛かり命を落とす。

これはきっと、ありふれた顛末だ。
何も知らなかった少年が。かつては「正義の味方」に憧れた少年が、澱んだ血の海にただその身を堕としただけ。

『――立派な、騎士様になりたいのです。　人を守れるような、そんな父さんみたいな騎士様に！』

紅く敷かれた道に、綺麗な花はきっと咲かない。
これはただ。それだけの当たり前の物語の、その顛末である。

Lv3

昔々、遥かなるヒトの時代の始まりを紡いだ歴史。魔法文明時代。

真名を魔法文明語で『קניתי』と名付けられたその子は、元はある”邪竜”と森羅の竜の声を聴くことのできる”竜の巫女”の間に育まれた生命であった。
しかし、”竜の巫女”をかどわしたとして、彼女の故郷で在る国から追われる身となった邪竜はその末に命を墜とすこととなる。

――神々の大戦にて森羅を見通す眼と共に、かの炎武帝と共に人を守護する竜として並び立った竜こそは。
しかしてその眼が見通す未来に苛まれ、俗世を去った裏切りの竜としてその生涯に幕を閉じた。
その邪竜の名こそ、”暁の竜フラワルド”である。

そして、彼らの愛により育まれたその生命は何の因果か。
竜と巫女の間に交わされた契約の末に、名もなき時代の”騎士の国”に拾われる事となった。

『―――きっと、逞しい子に育つさ。　たとえば、そうだな。”人々を守りたい”などとぬかしよるような、立派な子に。』

生かされた理由も、独りとなった意味も。少年は未だ知らない。
もしかしたら、永遠に知ることすらないのかもしれない。
ただひとつ、確かなことは。　変わらない、変えられない”運命”の中でただ確かなことは。

己が愛を育んだ竜と人は悠久の刻に重なるあらゆる森羅で、”命を運ぶ”為に繰り返し続ける。
これはただ。無数の歴史の中に積み上げられた、誰に語られることもない物語の、その顛末である。

Lv4

多くのことを知った。
空に浮かぶ月はやがて沈み、されど太陽の如き暖かな光が常に空を照らす程でもない。
明けない夜もなければ、また沈まぬ太陽もない。
それほどに、―――世界は都合よくは出来ていなくて。けれどだからこそ、”ヒト”は生きていけるのだろう。
なら僕は、どうなのだろう。　神に、竜に、人に、”生かされている”この僕は。
知れば知る程に、どこか息苦しくて、狭苦しく感じるこの世界で。――僕は生きていけるのだろうか。

多くの人たちと出会った。
己が故郷を理不尽に奪われ、同郷の者より”忌み子”と罵られた青年も。
独りの寂しさを拭う為にその身に様々な責任を背負い、自らを見失った小さな子供も。
憧れた大人を夢見て、ただひたすらに己が身に適うことのない空想を追い続けた祝福の少女も。
雲の如く真っ白な髪、青空の如き空色の瞳に似合わぬほど。驚くほどに”空っぽ”だった妖精使いも。
みんなみんな、ただひたすらに息を繰り返しながら。ずっとここまで歩いてきた。
ただそれが嬉しくて。ただそれが、堪らなく怖かった。
―――彼らが息を吸う度に、僕はちぐはぐに息を吐いて先へと進む。その身は、その命は、人々の為にあるものだから。
この身はずっと、彼らと同じ息を吸うことはないのだから。

多くのことを悔いた。
何も知らずに、知ろうとせずに生きたことを。
己が夢に焦がれた力を、人から奪うために行使したことを。
人と竜の間に育まれながら、何一つ返せずして彼らに犠牲を強いてしまったことを。
愛により育まれた美しきこの身を、誰かから恨まれるぐらいに穢してしまったことを。
既に死した身でありながら、誰かが変わるための手を貸してしまったことを。

ただひたすらに、悔いて。
―――この世に生まれて来たことすらも、ただ自分は悔いるのだろう。
ただそれでも。間違いだらけで悔いばかり遺したこの身にひとつ、”正しい”と思えるものがあったのならば。

『グレイス。君のことが、俺は好きだ。――俺は君のことを『愛している』。それだけは、ずっと変わらないことなんだ。』

ただそれだけを遺しながら朽ち果てる自分が、酷く醜く思うけれど。
神様にすら認められたその遺志は、どうやら。
間違いなんかじゃ、なかったらしい。

その日、神様により”生かされた”独りの男は人と成り、己が身に背負う贖罪を放棄したと見做され砕け散った。
これはただ。それだけの、独りぼっちの”少年”の物語。その―――”終わり”までの物語。

Lv5

男は、罪人であった。
「騎士になりたい」と夢見た”少年”は。けれど多くの者からその生を奪い、幸福を摘み取った。
ゆえにそれは罰なのだろう。
人から奪うことしか知らなかった者が、ただ永遠に神に仕える。ただそれだけの―――。

―――「人々を守れ」。そう託された神像は、されどその使命を果たすことは適わず砕け散った。
それは偏に。他の誰でもない、大切な人を守りたいという意志が神に認められた証でもあった。

だから”青年”は、ただ願った。
見っとも無くも。醜くも。自分が奪って来た者たちと同じように、同じことを。
『死にたくない。自分はまだ、生きていたい』

そして青年は仲間たちと己が神に挑み、その功績が認められてか三度目の生をその身に受けた。
一度目の生は恨みの末に、突き立てられた刃が己を殺めた。
二度目の生は過ちの末に、託された使命を果たせず砕け散った。
三度目の生は誓いの末に、ただ、大切な人を己が生きる理由にして。

そうして男は、ただ今日も息をする。
罪と罰に塗れた生を。それでも誰かの手を取ることを赦されたのだから。
その先の顛末は未だ。神々さえもわからない。