「ルクシーナ・J・セレストだ。家族はルシーと呼ぶから、お前達もそう呼んでくれても構わないぞ」
「黒焦げになりたくなければ、人を見た目だけで判断しないことだな」
「うむ。今の私を言い表すなら、闇を統べる正義の執行人――――なっ、恰好悪くないし！」

■特記事項
本来付けられるはずだった名前は「Justina Celeste（ユスティナ セレスト）」。ユスティナという名を名乗るには不都合があり、育ての親からルクシーナという別の名が与えられた。
その事実を知ったのは6歳の時で、本人の強い希望によりユスティナをミドルネームとして、ルクシーナ・ユスティナ・セレストと名乗るようになった。

「闇の炎に抱かれて消えろッ！ （言ってみたかった）」

　12歳という若さで冒険者ギルド〈夜光の獅子〉に所属している少女。独学とは思えないほどに類稀なる魔法の才を持つが、本業は服飾デザイナー。多種多様な文化が入り乱れる城郭都市ヴェレンブールにて、豊富な知識と自由な発想で多くのオーダーメイド品を製作している。

　美しく丁寧な立ち振る舞いを見せることがあるものの、どこかの貴族の令嬢というわけではない。彼女は生後間もなくして両親を亡くした孤児で、年不相応の所作や意志の強さは育ての親から受けた英才教育の賜物である。とはいえ、夢みがちな少女としての側面も残っており、カッコいい口上を述べながら人々を救うダークヒーロー的な存在に強い憧れを抱いている。

　そのような活発な性格とは裏腹に、未成熟児として生まれた影響で殆どベッドから起き上がれない幼児期を過ごしている。育ての親の献身的な看護や本人の努力の甲斐あって、現在のように日常生活にほぼ支障がないほどまで回復しているが、それでも虚弱体質ですぐに体調を崩しがち。12歳となった現在に至るまで、冒険者になることを強く反対されていた。

　それでも冒険者になることを彼女に決意させたのは、顔すら知らない両親の遺志にあった。「Justina(ユスティナ)」という名前に秘められた両親の愛と自らの出生から、「大切なものを守るために強くなりたい」という強い願望があり、冒険者という職業を自身を成長させる試練の場として位置付けているのである。

「可愛いなんて……そんな当たり前のことを言われても、嬉しくないんだからな！」

　濡羽色の髪と陶器のような真っ白な肌をしている美少女。小柄な体格ではあるが成長期の真っ最中で、案外女性らしい体つきとなっている。ただ、幼児期の影響で筋肉量が少なく、腕や脚は異常に細い。また、吊り目と寝不足が起因する隈のせいで目つきは悪い。その代わりに感情がダイレクトに表情に出るほうで、幸薄そうな印象はさほどない。
　
　身に纏っている衣装はすべて自分がデザインしたオーダーメイド。黒いリボンで結んだツインテールの髪と腰から伸びる長いリボンは、自分が彼女の娘であることを主張するために育て親の容姿を模倣したものとなっている。ただ、人形から手を放せないのは、慣れない場所に対する不安の表れだと言える（兎の人形が育て親とよく似ているらしい）。

「私は私が正しいと思ったことをする。それだけだ」

　育て親からの影響で「己が信じる正義を重んじ、弱き者には手を差し伸べる」という義侠心を根幹とした考え方をしている。人を助けるのに理由を求めない、いわゆるお人好しと呼ばれる人柄。とはいえ、物事の分別はその年齢にしては出来ているほうであり、人助けには「自分の出来る範囲で」という注釈はついている。
　
　他者に対してはそのような態度だが、自身の事柄については自罰的で勤勉な努力家であり、とにかく自分のことは自分で何とかしようとする。そして、感受性豊かで「聞き分けの良い子供」ではあるのだが、心を許した相手にしか頼ろうとしない悪癖がある。本心は年相応におしゃべりで甘えたがりなのだが、他人より数倍の努力をしなければ他人にとっての普通を得られなかった過酷な環境がその悪癖を作り上げた。

　コミュニケーション能力も高くなく、素直な気持ちを上手く話すことができず、肝心なところで照れ屋で遠慮しがちな一面がある。それは足りていなさすぎる社会経験に起因するものであり、今後改善する余地は十分ある。
　ただ、奥手なのは自分に関することだけであり、とにかく他人はよく褒める。特に名前に関しては親からの愛情の表れだと考えており、貶すことは絶対にしない。

▼エリカ・フォン・ヴァンシュタイン
　影の一団『アプローズ・ガーデン』の首領で、普通の人族よりも長い時を生きるノスフェラトゥ。しかし、自ら望んで蛮族となったわけではなく、人族との共生と弱者の救済を掲げており、義侠心とノブレスオブリージュという言葉を体現したかのような女性。
　瀕死の状態で運ばれてきたルクシーナの母ロクサーヌを介抱し、彼女が命と引き換えに産んだルクシーナを現在まで育て上げた。ルクシーナにとって育て親であるエリカは母親代わりであると同時に憧れの存在であり、人格形成に大きな影響を与えている。他人に遠慮しがちなルクシーナもエリカに対してだけは幼子のように甘えることができ、エリカも母として優しさと厳しさを以って彼女に接している。
　ちなみに、ルクシーナという名前を付けたのはエリカであり、死に直面しながらも必死に自らの命を繋ごうとするロクサーヌの姿に、自身が久しく見ていない「光」を感じたのだという。

▼アプローズガーデン
　ウルシラ地方の裏社会で暗躍するどの国にも属さない組織で、富裕層からは『影の一団』という異名で畏れられている。しかし、その実態は社会的弱者のために組織された自警団であり、構成員の殆どが元奴隷、穢れ持ち、蛮族であったりと人族社会で生活しにくい経歴を持った者となっている。犯罪に手を染めてはいるものの、それらは義賊の一面が強く、貧困層や一部の神の信者からは熱狂的な支持を受けている。実際にシーン神殿やミリッツァ神殿とは裏で取引が行われているとされ、彼らの要請を受けて傭兵団として活動することもあるそうだ。
　様々な経緯で大所帯となってしまったが、元はエリカが人族社会と隔絶された場所で訳ありの孤児たちを保護するために始めた慈善活動がきっかけとなって生まれたものである。『アプローズ・ガーデン』という名も社会から爪弾きにされた者たちの存在を唯一認めてくれるような場所にしたいという彼女の意志が反映されており、構成員たちもお互いを『家族(ファミリー)』と呼び合って不要な争いを禁じている。

▼ヴィクトル・セレスト
　ルクシーナの実父。かつてはハールーン魔術研究王国を拠点として活動するグレートソード級の冒険者であったが、ロクサーヌとの駆け落ちを機に冒険者を引退して、城郭都市ヴェレンブールにて冒険者向けの商店『ル・シエル』を営んでいた。冒険者時代から人の好さで多くの人に慕われており、店もそれなりに繁盛していたという。
　ロクサーヌとの第一子を授かったタイミングで、ロクサーヌの両親から和解の為にハールーン魔術研究王国に一度顔を出すように促されたが、道中で夜盗の襲撃に遭ってしまう。妻を逃がすために囮となり、そのまま行方不明となった。

　実は瀕死の重傷を負いながらも生還しており、妻と娘の行方を探していた。長い年月を経て、『アプローズガーデン』に保護されて妻が命と引き換えに娘を産んだ事実を知るが、襲撃事件は自らの浅慮が招いた惨劇であるとしてエリカに娘を託して彼女に自身が父親であると名乗り出ることはしなかった。
　現在はサイアスと名乗り、妻との思い出の地である城郭都市ヴェレンブールにて再び商店と営みながら、娘の成長を陰ながら見守っている。
　
▼ロクサーヌ・フォン・ラグランジェ・ダルキア
　ルクシーナの実母。ハールーン魔術研究王国の有力貴族であるダルキア卿の次女で『知識の剣』所属の魔術師と婚約していたが、懇意にしていた冒険者ヴィクトルと駆け落ちする形で結婚した。魔法の才のない彼女にとってハールーンは居心地の悪い場所であり、親から政略結婚の道具としか見られていなかった。ヴィクトルとの駆け落ちはハールーンから離れる口実という打算的な意図もあったが、城郭都市ヴェレンブールでの生活はロクサーヌにとってかけがえのない時間となった。
　ヴィクトルとの五年の結婚生活を経て待望の第一子であるユスティナを授かるが、実父であるダルキア卿から召集を受けてしまう。建前は和解のための里帰りであったが、ハールーンに帰る道中で夜盗に襲撃されてしまい、ダルキア卿の目的が自身のお腹の中の子供であったことを悟る。
　命からがら逃げだすが、その際に事故で重傷を負ってしまう。偶然にも『アプローズガーデン』に保護されるも、娘の出産に身体が耐えられなかった。死の間際、自分の死を看取るエリカに「ヴェレンブールで初めて得た自由」について楽しげに語り、生を受けた娘も同じ自由が手に入れられることを願って息を引き取った。

　物心ついたときから手足を満足に動かせず、『アプローズガーデン』の地下にある孤児院で育てられた。殆ど部屋にこもりきりの生活となり、普通ならば卑屈な性格に育ってしまうところだが、育ての親であるエリカは懸命に彼女に手を差し伸べた。

「おぬしならきっと、元気になって外を歩けるようになる。外に出たら、ルシーは何がしたい？」
「……あの本に載ってた、かわいいお洋服が着たい」「それでね、綺麗な夜空の下をママと一緒に歩くの」
「ほう、とっても楽しそうじゃな。では、その夢を叶えるために、共に頑張るとするかのう」
「うん、わたしがんばる！」

　血も滲むような努力の末、立つことすらままならなかったのがふらふらと歩けるようになり。やがて、日常生活ならば問題ないほどに回復した。その間、夢のスケールは大きくなっていき、スケッチブックには彼女が描いた衣装のデザイン案で埋め尽くされていた。
　そして、彼女が持っていたのはハンデだけではなかった。魔法の才が開花し、生まれつき高い魔力を有していることが分かった。【知識の剣】の魔術師ギルドに所属するという手もあったが、彼女の希望で10歳になった年にかつて両親が暮らしていた城郭都市ヴェレンブールに移り住んで、支援を受けながら店を開くことにした。

　これまでの人生は苦難の連続だった。恐らくこれからもそうだろう。
　だが、それが亡き両親が望んだ自由の代償であるならば、必ず乗り越えなければならないのだ。