○月×日
魔域の攻略中に”昏き底の主”と呼ばれる魔神を討伐したのです。
かつてのワタシは単純に格好いいと思い名付け、成人してからは笑われながらこの名を呼ばれていましたが、これからは自信を持ってこの異名を名乗って良い気がしています！
なんならワタシ、この未来を予見してた気がしてきました！ワタシってすごい！

魔域で最初に遭遇したのは、眼と腕に常に包帯を巻きつけたエルフの男性でした。
彼によると、その場所はほんの少し前の時間に魔神によって殺戮が行われていたようで、それを裏付けるようにそこはひどく荒らされていたのです。
そうして暫く会話をし、ワタシたちは彼の名を尋ねたのですが…「俺には…関わらない方がいい」と意味深に語り、そのまま風のように去っていってしまいました。

（中略）

凶悪な魔神を前にして彼は「この手は…使いたくなかったんだがな！」と自身に巻いてある包帯をすべて取り払いました。
その隠された眼と腕には、なんと怪しく光る真っ赤な文様が刻まれていたのです。

彼はその腕を魔神へと掲げ、なにやら魔法文明語（…あ、あの人魔動機のプロフェッショナルでしたし魔動機文明語がいいですかね？）で呪文を詠唱し、その詠唱を唱えるごとにその文様は更に光を増していき…詠唱を終えたと思うと、猛々しい紅き竜がそこに召喚されたのです。
彼はひどく苦しそうにしながらも、魔神と戦うように竜へと命じます。
その命に応じるように竜は魔神へと炎を吐き……吐き……吐きました！そうしてなんやかんやで勝利を収めたのです。

魔域へと降り立ったワタシたちの元へ、身長7m、肩幅5mの大柄（？）な男性が悠々と近づいてきたのです。
健康的な小麦色の肌、真っ白に輝く歯、そしてエルフらしからぬ鋼のような肉体は一目で彼がタダモノではない…そうハッキリと理解しました。

（中略）

話を聞くと彼はどうやら、己の肉体に恥じるような行いをしたことを酷く後悔していたようです。
ワタシはなんと声を掛けたものかと考えあぐねていると、なんと…彼は強大な魔神の元へと駆けてゆくではありませんか。
後の事はもはや書く必要もない…と思いましたがコレ報告書でしたね。
ちゃんと書きましょう、たとえ虚飾が入り混じっていたとしても。

あとはもう彼の独壇場でした。
おぞましい姿をした魔神からは一切目を逸らさずに、まずは接近し…前足を払い、魔神を横倒しにしました。
そしてそのまま馬乗りになり、一発、二発、三発…と、まるでショットガンのような怒涛の勢いで魔神の顔面を殴り付け…そこから逃れようとした魔神が魔法を放ったかと思うと、その魔法を頭突きの勢いで打ち消したのです。
ワタシは…その様子をただ茫然と眺めていることしかできませんでした。