彼女は孤独だった。
小さな長命種メリア集落は自分と同じくらいの子供等おらず、家族も年の離れた兄たちがいるだけだ。
族長の娘としての振る舞いも要求された。
そんな生活に飽き飽きとしていた。

ある時、この集落に一人の冒険者がやってきた。
彼は３日ほどこの集落に滞在したが、彼の話す冒険譚は彼女の孤独、渇きを埋めるには十分だった。
そして、何よりも彼女を魅了したのは彼の持っていた「プリン」という食べ物であった。
保存用に密閉された鉄の缶に入った乳白色の食べ物。
彼は「夢中で冒険してへとへとになった時に食べるのが一番美味しいんだ。」と笑いながら１缶分けてくれた。
彼女は夢中になった。外の世界にはこんなにも甘くて美味しいものがあるのか。

彼が去った後、彼女は外の世界を夢見て森を冒険するようになった。
そんな時見つけてしまった魔動機文明時代の遺跡。
これが最初の冒険だと彼女は何度もこのダンジョンに挑戦した。
もちろん頼れる仲間等いない。周りは年寄りばっかりだ。
しかし、鍛えれば鍛えるほど自分が強くなる。外の世界に近づく。彼女は今「生きている」実感を得たのだ。
彼女の家計を辿れば魔法文明時代の踊り子だったらしい。故に才能があったのだろう。
コツコツと10年ほどかけて一人で攻略し、配備されている小型の魔動機は彼女の敵ではなくなっていた。
そして、ついに到着した最奥部。そこには１つのジェネレータがあった。
ここで、彼女は今後の人生で最大のライバルであり、最高の仲間を手にする。

目を覚ました彼は彼女のことを「主人」だと言った。
遺跡を守る魔動機との戦いで鍛えられた彼女のカンは告げていた。
ここにいるどの魔動機達よりこの男はつよいと。
「私があなたの主君だと言うなら、今私と全力で戦いなさい。」
体の震えが止まらない。この遺跡のどの魔動機よりも彼は強い。
恐怖？いやこれは興奮だ。より強いものと戦うことほど「生きている」実感を得るものはない。

結果勝負はつかなかった。
疲れで動けなくなった彼女は一言こぼしたのだった。
「きっと、今アレを食べたらあの時よりさらに美味しいに違いありませんわ。」

老人だらけの集落を出て冒険者となる為に旅立ったのはそれから程なくのことだった。
「街では物を交換するのではなくお金なるものを使うと聞きました。
　まずはしこたま稼いで世界中の「プリン」を食べますわ！もちろん、へとへとになるまで戦った後で！」