気が付けば1人だった。周りに家族がいるわけでもなく、いたのかも覚えていない。
手元にあったのはアルケミーキットと数枚のカードだった。
どうやって生活したらいいのかは何となく体が覚えていたので、魔動機文明の遺跡とその近くの森で息をひそめながら生活した。
遺跡の中を彷徨っている内に1つの宝箱から楽器を見つける。
明音のフルートということをエレは知らないが、気に入って森の動物とのコミュニケーションツールとして使っている。
どこかで学んだのか、様々な種族の言葉を聞きとることができる。
人とのコミュニケーションはほとんどとっていないので、たどたどしい口調になってしまう。

夜眠るとき、夢をみる。
自分の知らない土地。綺麗な景色。
誰か知らない人が周りに何人かいる。
その姿はぼやけていてはっきり見ることができないけど、不思議と自分が笑っているのが分かる。
誰なんだろう？声をかけようとすると、目が覚める。
そんな夢を毎日ではないものの繰り返している。

人見知りという性格も相まって、遺跡と森にしか出歩いたことが無い。
姿を隠しているときに冒険者らしい人物は何度も見かけたことがある。
皆楽しそうに話していた。
世界は広いのだと、そう思っても1歩踏み出せずにいた。
そんなある日、1人の旅人と出会った。
森で倒れていたのを放っておくこともできず、助けたのがきっかけである。
その人は、エレの話もゆっくりきいてくれた。
エレも色んな話を聞いた。
次の日の朝にはその人がいたのが嘘だったかのように姿が見えなかった。
ただ１つ、その人が座っていたところに花飾りが置いてあったのだけが、その人が確かに存在したという証拠だった。

その人が教えてくれた世界に興味を持ったエレは、自分の世界を広げるための1歩を踏み出すことになった。
分からないことだらけだろう。不安も尽きない。
でも、それでも、ちょっとの好奇心と小さな勇気をもってエレは冒険者を目指すことになる。