短命メリアの国、アンダシュールにいつのまにか住んでいた。聞いたところによると、森の中に置き去りにされていた自分をメリアの子供たちが面白がって連れてきたのだという。アルヴであるにもかかわらず受け入れてくれた王国には感謝しかなかった。親こそいなかったが、メリアたちに大切に育てられていた。
しかし、同時に死にも直面する。悲しいことではあるが、他の人たちは枯れてしまったメリアの事をきちんと悼んでいた。それが死者への手向けだった。幼いながらもたくさんのことを教えてもらった。

同時に他の国にも連れて行ってもらった。長命種のメリアの国、どちらも入り混じるメリアの国。そして知らぬ種族も混じる国。アルヴという性質上、顔を隠す必要こそあったものの、外の世界も楽しいものだった。
国の中では物知りで、よく子供たちに教えを乞われていた。教えるのもそれはそれで楽しかった。

ウル・ヴァ・ドゥールに有名な穢れ持ちがいるから、見に行こうと誘われた。ジアもまた穢れを持っていたのだが、それは思っても言わないことにした。有名な、というのは高レベルの冒険者ということらしかった。とはいっても各地を放浪している、ギルドに所属しないヴァグランツというもの。穢れ持ち、というのはやはり──ナイトメアだった。自分と同じくらいの穢れを持っていると思ったが、角が長く体にあざも見える。もしかしたら蘇生したのかもしれない。
新しいものに興味津々のメリアたちは、度々ナイトメアを見に行っていた。かくいう自分も好奇心旺盛だったから、見に行くことは楽しかった。

少し変だと思ったのは、彼らと離れてからだった。なんとなくあのナイトメアのことを追ってみたりしたみただけだが、なぜか気に入られたようだった。アルヴだからか、なんて思ったけど答えが出るはずもなかった。単純に珍しい境遇に興味をもたれたのかもしれない。

彼と話すようになり、ウル・ヴァ・ドゥールにいる時間も長くなった。彼がここを拠点にしたはじめたのもあっただろうが、でも誘われることも多かったから。彼と二人で何をするといっても、ただ魔法について勉強するだけだった。森羅魔法だけではなくたくさんの魔法を扱い、そして前線で活躍している彼は、自分にとっては先生でありながら英雄のようだと思った。彼一人で魔物を倒すときもあるというのだから、本当にすごい。

そして自分の知識を惜しげもなく使って教えてくれる。少し不器用だけど、優しいのだと思った。

彼がウル・ヴァ・ドゥールを離れるのも、そう遅くはなかった。
「もとより自分は各地を転々としていた」「いつかは離れるつもりだった」
そんな言い訳みたいなことを口にする彼が面白かったのを覚えている。大丈夫だよ、と安心させたのも。

そう、僕はもう一人で大丈夫だった。生と死を知り、そして魔法も知れたから。
だからその力を彼みたいに遣おうと思ったのだ。人々を守るために。
その気持ちを胸に抱いて、精霊亭の扉を開いた。