気づいた時には、見知らぬベッドの上だった。
ここに来るまでの記憶はなく、自分の名前もわからなかった。

聞けば、大怪我を負って野垂れ死ぬ寸前だった自分は、このキルヒア神殿で保護されたのだという。
高位の回復魔法を何度も施して、ようやく死の淵から帰ってきたのだと説明されたが、さっぱり覚えていなかった。
しかし、世話をしてくれた神官が申し訳なさそうに「左目だけは治らなかった」と言ったことだけは実感できた。
左目で何かを見ようとしても、微かな光くらいしか判別できなかったのだ。

しばらくその神殿で療養するうちに、体は十分に動くように回復した。
神殿の中をうろつくうちに鏡のある部屋を見つけ、こっそりと忍び込んだ。
そこで初めて、自分の顔に残った奇妙な傷跡と、白く濁った左目をまじまじと見る。
これはどのようにして負った傷なのだろうか。それとも、元からあったものなのだろうか……？
そうして考え込んでいるとき、隣の部屋で神官たちが話し込んでいる声がたまたま聞こえた。
「あれだけの治癒呪文をかけて、どうしてあの傷と目は治らなかったんだろう」
「何かの呪いだろうか。もっと詳しく調査する必要がある」
そんな議論が交わされる中、恐る恐る、といった調子の女性の声が聞こえた。
左目が治らないことを申し訳なさそうに伝えた、あの神官の声だと分かった。
「彼と話している時に、時折あの濁った左目と目が合うんです。あくまでその時の印象に過ぎないのですが……」
そこで彼女は言葉を切って、しばらく悩んだ末に、打ち明けるように言った。
「あの目の中には、何か”いる”ように思えてならないんです」
周りの神官はそれを一笑に付して取り合わなかった。
しかし、それを聞いた瞬間、どくん、と左目が疼いた気がした。それは決して気のせいではなかった。
僕は部屋に戻ると、すぐに荷物をまとめた。
この左目に何かが”いる”のなら、それがなんなのか突き止めることこそ、今僕がなすべきことなのだと思った。

そして僕は、神殿の許可を得て旅に出た。自分が何者なのか、左目の謎を探しに………