①のめりこむ趣味がある
②特定の異種族を好んでいる
③冒険に誘われたことがある
動機：失われた文明を取り戻すため

俺たちのキャラバンは一年かけて、大体この大陸の南西部を一周するんだ。
途中ですれ違う別の隊商に渡ってはまた別の隊商にって調子で旅するやつもいるけど、大抵は素直に同行するもんだ。
俺たちの「巡路」は…まぁ、ブルライトとランドールの中間地点あたりで引き返してハーヴェスに来るぐらいなもんかな。
あぁ、話がそれた。とにかく、一年に一度、俺たちが決まった場所を巡ってたってことがわかってくれればいいんだ。
で、俺みたいな小翼種は基本的に商人じゃなくて戦士になるんだ。
隊商が町に着いた時も、まさか大荷物の隊列を警護なしで放り出すわけにもいかない。守り役には戦士が多くつくわけだ。
するとどうなるか。小翼種の戦士は町に行く機会がなくなるんだよ。まぁ、買い出しだとかも商人の修行の一環なんだろう。
周りの同輩はあんまり気にする様子はなかったが、俺はどうにもそれがもどかしくてな。
そんな俺にとっての楽しみは年に一度、越冬のための停留地だったんだ。
積雪で道が塞がる前に、リルドラケンだけじゃなくいくつかのキャラバンがその町に逗留するんだ。
その時ばかりは半ば拠点みたいなものだからな、戦士組も自由に出入りができる。
その時だけ会うことができる、とある人間のキャラバンにはずいぶんよくしてもらった。
思えばそれからか、俺が冒険に出ようとしたのも。

ブルライト地方北端、小候の街イルリヤ。人の往来も少ないその地にある小さな町は、年に一度の繁忙期を迎えていた。
「お、アンタ○○商会の！今年の宿はもう決まったかい？晩餐にはうちに来ておくれよ！」
「おう！いつもの席と、とびきりいい酒を頼む！」
慌ただしく積み荷を降ろし、冬の拠点に運び込む隊商たち。
既に秋の陽気は鳴りを潜め、身を切るような北風が冬の兆しを告げている。
運び込まれた物資を帳簿の記録と照合するリルドラケンの商人たち。
その傍らに、小さな翼が特徴的な一人の少年が駆けてきた。
「な、オヤジ！もう行っていいか？どうせこの後も帳簿付けてるんだろ？」
「…日が暮れるまでには戻れよ。今晩は会食だ。」
「やった！じゃ、行ってくるよ！」
色好い返事を受け取るや否や、少年は冬の街へと駆け出した。懐に小さな袋を携えて。

この街、イルリヤはいくつかの区画に分かれている。
街人の日常の居住区、冬に限って解放される隊商用の別荘地のような区画、そしてその二つを繋ぐように開かれる「冬の市」だ。
少年は隊商用の区画を出て、必然、冬の市に繰り出すことになる。
昨年にも彼を迎えた歓声が、臨時に設営されたアーチの向こうから聞こえてくる。
少年は一度立ち止まり、懐の小袋の中身を覗いた。
「150ガメルか…うん、一回りするには十分だな。使いすぎないようにしないと。」
一つ頷き、歩き出した。

「串焼き2本5ガメル！たれも塩もおいしいよ！お、そこの坊ちゃんも一組どうだい!?」

十数分後、少年は両手に数本の串焼きを握り、頬張りつつ屋台を眺めていた。
「むぐ。しまった。晩はみんなで食べるんだったか。」
いそいそと串を食べきり、食べ物以外のものを探して辺りを見回す。
しかしこの辺りはやはり隊商の歓迎をするという意図の市だからだろう、少年が楽しめるようなものはあまり多くない。
結局、小さな紙で小魚を一匹掬い上げ、その後で持ち帰れないことに気が付いて生け簀に戻した。
残金100ガメルそこそこ。

頭上にあった日はもうずいぶん傾いたが、それでも夕食までにはしばらく時間がある。
のんびりと帰路に着いた少年は、既に隊商らの拠点に近付いていた。
ふと視界に、馬に曳かせる荷台車と、貸し物件だろう小屋が見えた。
小屋の手前には、見たこともない黒々とした、恐らく金属製の何かが鎮座している。
思わずふらり、とそちらに足が向いた。が、慌てて思い直す。
見たところ周りにこの隊商の商人はいない。疑われてはたまらない。見るからに高そうだ。
が。引き返そうとした彼の肩に手がかかる。

「おう、坊主…でいいんだよな？おたくらの年齢は見積もりにくくてかなわん。」
「アレ、気になるんだろ。今からちょうど整備をやるんだ、時間があるなら見て行ってもいいぜ」

突然現れた油くさい人間が話しかける。
よく考えると怪しい誘いだったが、あの機械は過ぎ去るには惜しい輝きを放っていた。
抗いがたい魅力のままに、初老の男だったその人間とともに機械の前までやってくる。

「こいつは『魔動機』ってやつだ。普段おたくらのとこでも使ってると思うが、まぁそのお仲間だな。」

「へぇ。食糧庫を乾かしておく機械なら見たことがあるけど、これは何に使うの?」

当然の疑問を投げてみると、男はにやり、と笑った。
「わからん！」

「はぁ？じゃあなんでここまで持って来たのさ。鑑定屋も通してないもの、売れやしないよ。」

こんなの常識だ。「人は身元、モノなら出所が明らかでなくちゃ信用されない」って、オヤジが言っていた。

「売るつもりなんじゃないんだよ、わかるかなぁ、こいつは"ロマン"なんだぜ?」
「俺の見立てじゃあ、このあたりの昔の自由都市で使われてた工作機械の類だ。そら、そっち側よく見てみな。」
「前に見せたやつは掘り出したときのスコップの傷だとかほざいたが、そんなわけはねぇ。これこそ例の自由都市の紋章だよ」

言われた通りに見てみる。
禿げて地金が出ているだけだと思っていたそこに、ひっかき傷のように浅く何かが刻まれている…ようにも見える。
まったくわからない。こんなものの何が面白いんだ。

「ふぅん、よくわかんないな。…おれ、そろそろ帰るから！」

「おう、そうかい。また来いよ、次はきっともっと凄いモンを見せてやるぜ。」

ただ、この人間は面白い奴だった。商人のくせに赤字承知でガラクタを買い漁り、売るでもなく日がな一日眺めている。
イルリヤの人が歓迎の露店を畳み切ったころになっても、飽きもせずそんな調子でいるのだ。
気付けば、彼の馬車を訪ねるのが毎冬の楽しみになっていた。

「」