解説

︎︎︎︎︎︎語る願いはあの子の幸せ。
ずっと、ずっと、ずっと、苦しんできたの。
見てきたの。分かるの。分かるの。分かるの。
だから、だから、だから、だから。
せめて今だけは、逃げた先では。
幸せになって、なって、なって、なって。
……死した私には、それを知る術はない。
好きだったよ、ベージ。わたしの、可愛い弟。


悲惨なその姿に、わたしは恐怖した。
初めて、あの子を見て、心を痛めた。
母親から言われもない虐待を受け、ただただ、母の憂さ晴らし、その為だけにあの子を責めた。
見て苦しかった、何度寝ても、頭から離れない。どうにかして救えないか、救えないのか、と。
もう見たくない、代われるなら代わってやりたい。もうあの子が苦しむのは、沢山だ。


だからわたしは逃がしたの。
必死に、夢中になって、枷を外して、外に逃がして。
最低限のもの、人に助けを求めれば、生活はできるだろうと、荷物を手渡し。
彼を逃がした。私は、間違っていない。母親になんと言われようが、私は、知らない。
ただただ、逃げて、自由になって、幸せになって欲しい。その為だけに走らせた。見送った。

私は、出た。そこを出て、あの子を守ろうと。
しばらくして、私も家を出た。
数年、たったが。無事か。家庭は崩壊寸前、もう1人の弟には、申し訳ないが。彼は周りに友人もいる。助けてもらえるだろう。
あの子がどこに行ったかは分からない。けれど、手当り次第、全てを持って探し出そうとした。
探し出そうとして、して、して。

それでも叶わなかった。一人を守ろうと走ってしまった。
探し出そうとして、ふと、一人を見つけてしまった。
魔物に襲われているのを。
私は、守れ、と言われたように走って、かばった。
何とか二人、その魔物から逃げることは出来た。
けれど私は。もうだめだった。
私は、私は、何だったのかな。
彼を守りたいんじゃなくて、誰かを助けて、自己満足を得ようとしていた。
ねぇ、私がきいてもいいかな。
いいのなら、答えて欲しいな。

ねぇ、あの子は、無事なの？
私が逃がした、あの子は。
彼は、今は。
幸せですか。
笑っていますか。
色んな人と、仲良く、やれてますか。
また、あんな酷い目にあったり、していませんよね？