『ケインズ！また朝帰りかよ、よくやるぜ！』
「おうさ！あの『砦前の語り部』と一緒に夜通し弾いて盛り上がってその勢いよ！」
『……まさかあの凄いスタイルの吟遊詩人を捕まえたのかよ！？すげぇな！』
「へっ！作詞も作曲も出来なくても、合わせるだけでこれだけやれるってことだよ！」
『盛り上げるメロディ奏でるのはうちで随一だからな、ケインズは！ハッハッハ！！』
『しかしどうやって引っ掛けたんだよ！』
「この砦まじまじと眺めてるもんだから、この砦の建築技術の凄さを語っててたら盛り上がってだなぁ……やっぱりこの砦を建てた建築家の……」
『引っ掛けたのはそっちの話題でかよ！ったく多趣味すぎるよお前は……』
「へっ、早死した親父が大工だったもんでね……昔は興味無かったが、砦の防衛の為に構造を調べてたら点と線が繋がっちまった訳よ」
『というかその前は別の女捕まえてたってなかったかお前！』
「しっ！それは内密にしといてくれって！」
『度胸あるぜお前……煙草の匂いは消しとけよ！嫌われるぜ！！』
「……わぁってるよ！」

（前に捕まえたあいつはどうみても｜そっち《裏社会》のヤツのやつだからな……）
（だが……『砦前の語り部』もあいつも最高に良い女だ……！）
（……まぁ匂いに関しては言われるが、早々止めれる訳ねぇだろ……減らしてるけどよ……）
（ま、これくらい些細なこった………今の最高の気分に比べちゃな！！）

（………このまま上がりてぇ気分だが、俺はもっと上を目指せる！）
（もっとデカくなって……ゆくゆくは、俺の建てた家で沢山女たちを娶って……！）
（昼はギター鳴らして楽しく話して、夜は女たちを抱いて愛を語って……！！）
（もっとだ、もっとデケェ夢は掴めるんだ！！）

成年直後の15歳で小規模ながら地方で名の知れた傭兵団に入ったケインズは、仲間と共に魔物退治で名を上げた。
特に20歳の時、重要な砦の防衛戦で見せた奮戦が英雄視され、国王にも直々に感謝を受けるほどだった。
多くの名誉。大量の報奨金。そして大量の娯楽……。人生の絶頂だった。

しかし絶頂という物はある時一気に落ちるものである。
ケインズは調子に乗って危険な依頼を受け続けた。そして大きな判断ミスの結果、仲間の数名が戦死したのである。

『テメェ！なんで補給線切られたタイミングですぐ後退しなかったんだ！』
「俺は行けると思ったんだ！切られても蛮族共ならすぐ補給場所に向かう！そこで慢心したところを……！！」
『それで伏兵に気づかなかったお前が慢心しきってたんだろうがッ！！』
「ふざけんじゃねぇ！俺だって必死にやってたんだぜ！この傷跡見りゃ分かるだろ！！」

『ケインズ・ヴァーミリオン。貴様の英雄勲章を剥奪する』
『……これだけで貴様の責任が消えるとは思わないことだ』

転げ落ちるのはあっという間だった。
「英雄の慢心」だと陰で囁かれ、酒に溺れ、放蕩に走った。
あれだけあった金も、愛用していたギターも、傭兵団への賠償金と借金の形に消えていった。
「畜生……畜生ッ！おい、どこ行ったんだよクソッ！………クソッ………」
親しかった友人も……あれだけ愛し合った女性たちも。

「………クソ野郎は………俺か………」

ケインズは賠償金を返済し終わった直後に傭兵団を辞めた。クビになったと同意義だった。
この時ケインズ・ヴァーミリオン25歳。あの事件から1年、傭兵団に入って10年が経っていた。
「砦の英雄」は、傭兵団では黒歴史となった。

それからのケインズについての15年間は特筆することはない。場当たり的に生きる、ただの一介の冒険者である。
一点変わった事があるとすれば、女子供の前で煙草を吸うのが無くなったことだけだろう。

・女の前で煙草を吸わなくなったのは昔の女を思い出すから
・子供の前で吸わなくなったのは、昔の女に注意されてたこともあって
・古い城壁や塔を見ると無意識に黙って眺めたり、触れて構造を確かめたがる
・借金はしてるがパーティーからは金を借りない主義
そんな腐ってるけど腐りきって自ら折りきれないおじさんです

2025/11/18「ポーカーバトル」
・ポーカー1敗
・良いラルヴァの女に目を付ける
・ガキ面のエルフの爺さん注意