昔、ある村があった。
田舎の村だ。のどかで、平和で…とてもいい所だった。
吾輩は、その村の付近の森で倒れていた所を、その村に住む老夫婦に拾われたのだ。
行くあても、どこから来たのかすら分からぬ吾輩を、二人は拾って育ててくれた。
実の父と母は、その姿すら分からぬが…吾輩にとっての父と母は、あの二人だと考えている。
そして村はある時、一つの流行り病に襲われた。
田舎だ。神官なぞ居る訳も無い。僻地であった故に大きな神殿だって遠い。何人もの人が、苦しんで倒れて行くのを見た。
しばらく生きながらえた吾輩も、その毒牙にかかり…あぁ、吾輩もあんな風に苦しんで死ぬのだ、とボンヤリ考えていた時に

彼が、村に来た。

彼は俗に言う医師、という奴だった様で。流行り病に対しての解決策を村に齎し、またたく間に村から病を取り除いて見せた。
そして、病から救われ、その姿に情景を抱き…村に泊まっていた彼を訪ねた時に、ある事を語ってくれた。
「奇跡とは一瞬だ。一瞬の内に遠く届かない事象に手をのばし、そして消え失せる」
「だが、知識は何度でも使える。誰にでも扱える。原因に対する正しい対処と、病に対する正しい治療…その知識さえあれば、病で苦しむ必要は、誰にも無い。」
雷に打たれた様な気分だったよ。家に帰って布団に潜っても、その言葉がこびり付いて取れやしなかった。
…それから吾輩は、彼に師事する事にした。
旅に同行させて貰い、医術と、薬の扱い方…その二つを一年あまりにわたって学んだ。

そしてやっと、一端の医者であると彼に認められた所で…吾輩は彼と別れる事にした。
基礎は教わった。あとは見識を広め、彼のように知識を託し…
…そして吾輩は、これから起こる奇跡と呼ばれる事象を、一つでも減らして見せる

…まぁ、そう意気込んだはいいが恥ずかしながら路銀を稼ぐ必要があってな…
元々そこそこ使えた魔法でもって、冒険者を始める事とした訳だ。
うむ、吾輩の過去はこんな感じだな。