ダリルは小領地の領主の息子だった。
父親に似て体が丈夫、母親に似て樹の優しい、外でよく遊ぶわんぱく坊主だった。
領民たちも気のいい人ばかりで、恵まれた土地だった。
成人したころに母親が重い病気で床に臥せるようになったため、彼は病気を治すための手段を探しべく旅に出る。
魔法で何とかなるのではないかと、魔法に明るい学園を訪ね
神の奇跡に縋らんと、神聖王国はライフォスを詣で
万病に効く薬を求めて、秘境をかき分け
しかしそれでもいまいち見つからず、次の手段を探そうと準備するために屋敷に戻ると、
いつもより顔色の悪く見える執事から告げられる。
「母上様が、身罷りました。」
失意に暮れた領主は心を病み、やがて妻の後を追った。
何とか自分は気をやらなかったが、ずっと旅に出ていたことが裏目に出たのか、領地を上手く運営することが出来ず、
信頼していた家臣や領民は散り散りになり、自分自身も領地だった故郷を離れることになった。
領地はその後、近くの別の領主により合併された。
それから数年後、すっかりみすぼらしく成ったダリルは、その日何とか稼いだ日銭で然るくたびれた場末の酒場に入り、隅で安酒をちびちびと吞んでいた。
そんな折、今日はたまたま部屋の外から、今はもう無くなったとある領の噂を漏れ聞く。
それは、そこの領主の妻は隣の領主により謀殺されたと。
それがきっかけで、領地の運営が立ち行かなくなったために廃れていったのだと。
行き場のなかった怒りの矛先を決めるには十分な話だった。
仇を討つため、何より故郷の復興のため。
そのためまずは、仲間や情報を多く集めるために流通の多い都市に向かった。
没落してから、ここまでに10年経った。