囚われの貴族と消えた剣士

幼少の頃、彼は貴族という名の枷に縛られていた。
家名を継ぐものとしての立ち振る舞いを厳しく要求する父。
持ちうる権力に身を任せ、贅沢に自堕落な生活を送る母。
行動に逐一目を光らせている雇われ使用人。

彼には自由などなかった。
普段の生活は勿論、休日にすることも、未来すらも全ては決められたものしか
選ぶことはできなかった。


だが、彼にも楽しむ
唯一許されていた彼の楽しみ。
それが週に3度ある剣の稽古の時間であった。

彼に剣を教え、彼の人生に多大な影響を与えた人物、それが『ヴァレーズ』という男だった。
噂によると名の通った人物らしく剣の腕は確かなようだ。

師との剣を交えた生活は楽しく、彼にとっての唯一の光であった。
しかし、その生活が始まって3年の月日が経ったある日。

3年間通い続けていた待ち合わせ場所に
1通の手紙を残して、師は消えた。

彼も予想できなかった、突然の別れであった。

現在、彼が名乗っている姓は実は本当の姓ではない。
本当の姓であり、彼がまだ貴族であった時代の姓は『テオ・フォン・ランベルト』である。

だが、貴族の息子であった頃の自分が嫌いだった為、現在は別の性を名乗っている。