ミミュの実家はハーヴェスの近隣にある農村で村人のための酒場兼食堂を営んでいる。
　兄3人姉3人の末っ子で、当然のように料理人を目指したミミュであったが、兄弟姉妹の中で一番不器用であった。
　お客に出すための料理を作ることは許されず、調理場に立てても賄を作る時程度。
　お小遣いを得るために給仕をしたり、食肉を得るための解体作業の手伝いをしたりしていた。

　余って捨ててしまうような食材を使って営業終了後に料理の練習をしていた。
　料理が上手くなりたいという一心で、プリースト技能を得るほどに“食福神”ミィルズにも祈った。
　
　ミミュが家を出るのを決めたのは、10歳の頃から親がミミュを給仕としてしか見なくなったからだ。
「店なんて持てなくてもいい。私の料理で喜んでくれる人に食べてもらいたい」
　そんな思いを胸に迎えた成人の日に、ミミュは貯めたお小遣いで買った自分用の給仕服を手に即座に家出した。

　ハーヴェスの酒場でこんな噂を聞くことがある。
「近隣の村の酒場で、飯を食う時に怪我をしているとついでに回復魔法をかけてくれてるウェイトレスが居たが、その酒場の経営が最近になって傾いている」
　これは事実である。
　高齢だった両親が楽をするために引退して店を子どもたちに引き継いだのだが、教えてもらえていて当然と怠けていた兄・姉は誰一人として安定して客に出せるだけの品質の料理を提供できなかったからだ。
　ついでに言えば両親も料理上手な方ではなかったが、ミミュが回復をかけてくれるという理由で村人が来店していただけなのである。

　なお、ミミュの身長はグラスランナーかと想う程度に小さい。
　10歳の頃から伸び悩んだ結果、現在もそのままである。
「胸より身長が欲しかった」
　ミミュの切実な願いであったが、村に旅するグラスランナーが来た際に一緒になった騒いで以来願うのも悩むのを止めた。
　生きて頑張っていればきっと良いことがあるはずだから。