何かの間違いで種が紛れ込んでしまったのか、アリアは短命種メリアたちの村で生まれた。自分と違い、物凄い速度で成長していく短命種メリアたちの中で、アリアは何世代にも渡って、子供たちの子分のような扱いを受けて育った。その結果として、子供時代のアリアは長命種とは思えないほど、短命種メリアに似た、勝気でやんちゃな性格に育っていった。
　１３歳のある日、アリアは短命種メリアのガキ大将に連れられ、村から離れた森に出向くことになった。探検と称して集団で森に踏み入った短命種メリアたちとアリアは、不幸にもその森を根城にしていた蛮族に捕まってしまう。
　彼女らが麻袋をかぶせられ、送られたのは、とある山脈の周辺に存在する、蛮族による魔晶石の採掘場だった。睡眠を必要としないメリアの特性を悪用され、何年も休みなく働かされたメリアたちは、時には過労による衰弱で、時には鉱山毒による病で、一人また一人と倒れていった。
　最後には他の短命種メリアは全員、寿命によって枯死してしまったが、アリアはずっと生き延びることができた。長命種メリアとしての適正か、そんな環境の中で十年ほど経っても、アリアは人生に絶望することはなかった。むしろ、死んでいく仲間たちを見ているうちに、アリアの中には一つの強い意志が生まれた。それは、生への執着であり、せめてあのメリアたちの中で、自分だけは生き延びなければならないという強い義務感でもあった。
　そうして、そんな強制労働所に入って十数年が経ったころ、定期的に補充される新入りのうち一人が、反乱を計画して鎮圧され、舌を抜かれてしまったという話が、アリアの耳に入った。休みない10年の労働で、すっかり収容所内での姉貴分扱いを受けるようになったアリアは、その男に興味を持った。アリアは、働きものだったから、見張り番の蛮族にも顔が利き、あっさりと男に接触することができた。
　曰く、その男はとある国の軍師で、蛮族との戦場に向かう途中、襲撃を受けたのだという。男は兵士たちを指揮して戦ったが、数の暴力に負け、最後には降伏。それから各地をたらい回しにされ、ここに来たのだとか。筆談を試みる男の文字はきれいなもので、10年ぶりに交易共通語を読むアリアにも理解ができた。そして、舌を抜かれてもなお、脱走を諦めていない様子の男に、アリアは触発された。幸いにして、男が知っていた軍師のノウハウは、収容所内での地位を確立してきたアリアにうってつけの技能と言えた。
　それからしばらくして、大きな反乱を引き起こしたアリア率いる労働者たちは、蛮族の採掘場を瞬く間に制圧した。もちろん、それはアリアの手腕だけではなく、男の支援や、運の影響もあったことには間違いはなかった。さらに幸いだったのは、アリアと共に脱出した、軍師の男が、各方面に顔が利いたことだった。結果として、炭鉱から一番近い冒険者ギルドは一時的に、おぞましい量の新入りを抱えることになったのだが、それはまた別の話。
　そんな過去をもつアリアは、人との巡り合わせを強く信じている。だからこそ、彼女は前線に立ち、身を盾にしながら、支援に徹するのだ。そうして大きな名誉を得たあかつきには、あの冒険者ギルドで別れた男の元を、もう一度訪ねようと思っている。そうしていつかは彼とともに、数千の兵を指揮する大軍師になるのだ。