「……ふぅ」

　森林での冒険の最中、彼女の振るった大剣が、轟音を鳴らして軌跡を描く。
　その振り筋に満足して、彼女はほうと息をついた。

「いやふぅじゃねえよ！　当たってねえわ！」

　彼女の仲間の怒声とともに鋭い矢の一撃が駆け、彼女の剣をかわしたリンクスの額を打ち抜いた。
　リンクスが地に伏すドサリという音を戦闘終了の合図とし、冒険の仲間達――臨時のパーティーだが――が一所に集合する。
　最後に矢を放った射手が、肩を怒らせて彼女の元に歩み寄ってきた。

「ったくおめーはよー、剣で何を斬りに来たんだよ。全然当たらねえじゃんよォー！　何、猫の毛でも整えてあげにきたの！？」
「……なるほど、そうね」

　他の仲間に押し留められるその射手の言葉に、ひとつ頷きを返した彼女は、至極大真面目な顔で瞳をキラリと輝かせた。

「それなら私は、今日から"猫の毛斬り"のベラを名乗るとするわ」
「今お前の名前の話してねーんだよ！　もう帰れよ！」



　張り合いがない。……いや、手応えがないと言うのが正しいか。
　剣の道を志して早三年。三年も月日が経てば、商家の丁稚も手代を任されるほどにはなるだろう。
　彼女にも、ひとかどの剣士として力と技を身に着けたという自信はあった。しかしそれが結果に繋がらない。
　どうしても、何かがあと一歩足りない。一体何が足りないのか。それが全く分からない。そしてその焦燥が、正体の見えない黒いモヤのようになって、彼女の心を重くしているのだ。

「……向いていない、のかもしれないわね」

　一人で宿の暗い部屋で膝を抱えるとき、何度もそういう後ろ向きな考えが、心の中で鎌首をもたげた。
　ならば実家に帰って剣を置き、世に言う「女らしい生き方」でも始めるか？　まさか、冗談ではない。第一、彼女にはすでに、故郷は無かった。今更に剣を置いたところで、娼婦にでもならねば食っていくなど出来ないだろう。
　しかし、このままでは三流以下の剣士として、ただ無為に果てる未来しか待ち受けてはいるまい。

　――そう、その男に出会ったのは、そんなときのことだった。

「ほう……小娘よ。うぬの剣に覇道が見えるわ」

　旅の途中だというその貴族の男は、彼女にそう言った。
　山のような大男であった。
　彼が貴族だと最初に名乗らなければ、蛮族の一種だと勘違いして斬りかかってしまうほどだ。いや、実は斬りかかったが、あっさりと捻じ伏せられた。
　聞けばその貴族の男は、男の妻と連れ立って、夫婦で旅をしているのだという。
　彼らは何故か。本当に何故か、彼女のことをいたく気に入ったようで、しばしの間彼ら夫婦の小間使いとして同行しないかと申し出てきた。
　剣の道に限界を感じて行き詰っていた彼女にとって、その申し出を断る理由は特になかった。それにこの貴族の男は間違いなく強い。そんな人物との旅は、ひょっとすると何か、新しい扉を見つけてくれるのではないか。そんな期待も、彼女にはあった。
　そして実際、貴族の男は様々なことを彼女に教えてくれた。剣のこと、人生のこと、世界のことをだ。

「金を惜しんで、何かを守ることが出来るか？　その迷いはうつけの妄執よ」
「法だと？　フハハハハ！　斯様にか細い鎖では、飼い犬如きすらも縛れまい！」
「我らが剣は天を割く剣。物欲も法も、全ては斬って捨てるが塵芥なり」
「所詮剣士に斬る以外の能など不要。得意とする者を認め、任せることもまた、王者の貫目というものよ」
「剣が迷うならば、斬るものを与えることこそ剣士の務めと心得よ。まずは斬れぃ。その他悉くが些事と知れ」
「借金とは、借りて返すが金のこと。つまり、はなから返す気のない金は借金に非ず！」

　彼女はある日問うた。何故、自分のような半端者を旅の共にして、教えを授けてくれるのかと。
　すると貴族の男は、ふと遠くを見るような目になり、懐かしそうに口を開いた。

「我らには娘があってな。年の頃は、ちょうどうぬと同じ程度よ。……フフ、柄にもなく、重ねてしまったというわけだ」
「――なに、可愛い子は奈落に突き落とせと言う。優秀な教育係も付けた。今頃は我に勝るとも劣らぬ剣豪になっておるはず。フハハハ！　会って斬り結ぶが楽しみでならぬわ！」

　そう豪快に笑う貴族の男の笑い声の中に、彼女は小さくない感情の揺らぎを感じたことを、今なお覚えている。



　さて、貴族夫妻との短い旅を終えた彼女は、彼らと別れて再び一羽の旅ガラスへと戻った。
　だが、歩く足取りは少し前とは比べ物にならぬほど、気力に満ち溢れていた。
　彼らとの旅で、彼女は確かに掴んだのだ。これまで彼女に足りなかった、その何かの手掛かりを。
　だからまずは酒場に行って適当に喧嘩を売り、乱闘を開始した。即座にすっ飛んできた憲兵に引っ張られて詰め所に行くと、彼女は問い詰める憲兵に対し、涼しい顔でこう返した。

「乱闘をした理由？　――そうね。とりあえず法を斬るところから始めようと思った。これだけじゃ不足かしら？」

　白目を剥いて泡を噴きかけた憲兵に、そのまま牢にぶち込まれた彼女は、一旦の満足を得て頷いた。
　よくわからないが、多分これが剣を極める第一歩に違いないのだ。
　大した罪ではなかったそうなので、明日には釈放されるらしい。次はどうしたものか。
　明日の食費すらもかなぐり捨てて、装備を整えてみるのもいいかもしれない。金などを惜しんで命を捨てるはあまりに馬鹿らしい。金など稼げば良いだけなのだ。なんなら借金をしてもいい。いやすべきだ。借金をしよう。
　しかしそして、そうして、剣士として新たな境地に立つことが出来たらどうするか――？

「……そうか」

　剣士としてどうするか――いや、剣士として『何を斬る』か。
　牢の石壁に寄りかかって立ちながら、ようやく彼女は、自身の剣に本当に足りなかったものを見出した。
　己の剣には向き先が無い。ならば、それを与えることこそ剣士の務め。足りないものはそれだったに違いない。
　なら差し当たっては。あの貴族夫妻の娘。それを探してみようじゃないか。
　自分と同じ年頃の剣豪ならば、力をぶつけ合うに相応しいに違いない。
　確か夫妻の名は……彼らと別れて三日程度で忘れたが、プロレスだとかカミラバルクだとかなんかそんな名前だったはずだ。それを手掛かりにすれば、いつか巡り合えるだろう。
　頭の中で思い描く。あの貴族の男の技を継承したという、山のような体躯の娘と斬り合う己の姿を。そうだ、敵の出方をまずは待て。ああ違う、そこで受けて終えるな、返せ。――まったく、早くこの技を試したい。想像通りに動けるかを試したい！
　ああ、そうか。これが必要だったのだ。
　満足感で胸をいっぱいにしながら、彼女は本当に久方ぶりに、牢の硬い寝床の上でぐっすりと眠ったのだった。

[経歴表] (A:5-5) 才能を絶賛されたことがある
[経歴表] (C:3-4) 恥ずかしい二つ名を持っている（いた）
[経歴表] (B:5-1) 異種族を怖がっている（いた）

[経歴表] (C:3-5) 自慢できる二つ名を持っている（いた）
[経歴表] (B:1-3) 異種族の友人がいる
[経歴表] (B:1-4) 大切な約束をしたことがある

[経歴表] (A:4-1) 投獄されたことがある
[経歴表] (C:1-3) 目標としている人がいる（いた）
[経歴表] (C:3-4) 恥ずかしい二つ名を持っている（いた）

経歴表を適当に三セット振ってみた結果、何としても二つ名を持ちたい気概を感じたので、
"夜明けの"ベラを目指すことに。

・秘剣『春風ブンブン剣』
　※煩苦是無頼剣
・奥義『春夏秋冬たんぽぽソード』
　※朱貫一刀・断砲弩
・必殺剣『四六時中ごろ寝斬り』
　※死碌豪音斬り
・秘伝『新春大特価斬り』
　※死瞬大刀斬り
・超秘剣『心穏やか快眠剣』
・終太刀『華やかハッピーブレード』
・改訂奥義『サタデーナンシーフェスティバル』
・紅蓮奥義『ファイナルラスト』？（ピンゾロ失敗）
・奥義『鼻のところがスーっとブレード』
・真必殺『筋肉ネジ回し剣』
・必殺剣『さわやかステップ斬』
・真必殺『酒と涙と男と女カッター』
・秘剣『明日できることは今日やらない斬り』
・奥義『今日できることを明日に回さない剣』
・超必殺『気合があれば何でもで斬る』
・究極必殺『潮の香りのチョッピングソテー』
・必打『冥銅穿ち』（フレイル）
・秘奥技『春雨サップーケイ』
・改訂奥義『竜巻旋風ストラッシュ』
・超剣『剛力汗だくスマイル剣』
・超奥義『暗黒おじいさん（粒あんVer）』
・エラッタ奥義『なんか振ったら当たった斬』
・究極必殺『悲しげチョモランマブレード』
・真必殺『片手にピストル心の花束大切断』
・超必殺『唇に火の酒背中の人生すっぱ斬り』
・究極必殺『金返せジェニー』
・究極奥義『ナルシストツンデレ剣』
・真奥義『チョルパッモ～よくわからないけど力が抜ける言葉集～』
・奥義『とくにいうことも無いから以下略』
・秘剣『指使わなくても当てるソード』
・必殺剣『紙一重見たまんま斬り』
・極剣『筋肉こむら返し』
・秘剣『ここのところ肩こり剣』
・究極奥義『省エネとかよくわからないスラッシュ』
・真必殺『土日疲れて何もしない剣』
・撃打『天星落とし』（フレイル）
・豪槌『穿落砲』（フレイル）
・終打『天墜撃』（フレイル）
・必殺『キラキラグッバイアーチ』
・必殺『にこやか全力疾走斬り』
・究極必殺『ホームスチール・ミケランジェロ』
・奥義『破城槌』（フレイル）
・必殺『お前の瞳に斬鉄剣』
・極剣『駆け付け三杯竜巻ソード』
・究極奥義『膝頭水たまりチャプチャプ斬り』
・超必殺『さくっ』
・究極奥義『サツバツ・ブートキャンプ』
・乱威殺陣『微笑み七面鳥ブラザーズ』
・究極必殺『人として軸がぶれブレード』
・真必殺『お淑やか・ザ・チームワーク』
・究極奥義『センシティビティ・ザ・お淑やか』
・秘伝『正義拗らせソード』
・究極必殺『カイワレ膝カックン』
・秘剣『チョンマゲカットアウト』
・一刀両断『ナミヘーカットアウト』
・究極奥義『チヘーセンカットアウト』