由来・逸話

　むかしむかしあるところに、とても仲のよい夫婦がいました。夫はナイトメア、妻は人間で、二人の間に子供はいませんでしたが、非常に仲むつまじい夫婦として有名でした。
　しかし、種族の違いは残酷です。夫と違い、妻は次第に老いていきます。それでも互いの愛は変わりませんでしたが、夫はあることに気づきます。——このままでは、妻は自分より先に死んでしまうのでは？
　その日から、夫は魔法の研究にのめり込み……妻が死ぬ前に、死者蘇生の秘儀を開発しました。
　「これで、ずっと一緒にいられる」夫婦は喜びました。
　最初の蘇生の後、妻の頭には小さな角が生え、消えない小さな痣が刻まれました。「でも、これであなたと同じになれたわ」と妻は言います。
　しかし、蘇生を繰り返すうちに、妻の様子は次第におかしくなっていきます。指が長くなり、声はしわがれ、肌が死蝋のようになり……。そして、5回目の蘇生をしたとき、妻はもう妻ではないナニカに成り果ててしまいました。
　夫は自らの行いを深く深く後悔しました。そして、無差別に人を襲う妻だったものを、自らの手で葬ることに決めました。
　長い、長い戦いの末、夫の剣は妻の体を貫きました。「ありがとう」の言葉を残して、妻は今度こそ死んでしまいました。
　夫は、丁寧に丁寧に妻を弔った後、自らの愛と罪を決して忘れないよう、妻に止めを刺した剣に「愛しいあなたと共に」という銘を刻んで、安易に死者を蘇らせないように広く説いて回ったといいます。

　アルフレイム大陸昔話集 その4「死がふたりを分かつまで」より