リルドラケンのとある里で産まれたナイトメアの少女、出自故の差別は種族が種族だった為にそこまで行われる事は無かった。
総じて言えることは何事も程々に熟していた。
自身がどの様な人生を歩むかは定かでは無い物のしっかりとした場所で勉強をしようとユーシズにある魔法学園に入学、操霊学科で青春の時を過ごしそのまま薬剤師(ドラッグメイカー)としてユーシズで居を構えていた。

私にとって人生の転機と言える出来事は大きく分けて2つある。
1つは薬剤師《ドラッグメイカー》として仕事をしていた際にとある研究所から薬の作成を依頼された事、用途を尋ねた際に寝不足が続く子供をしっかりと眠らせれるような薬だと言われたので子供を連れてきて貰って診断をした。
診断をしたとこ何かに怯えているストレスが要因だったので原因をしっかりと取り除く事で寝れるようになるのでは？
と診断しながらも薬を出すことにした。
簡単な安眠剤を出した後に帰って行くのだが違和感を拭えることは無かったのだった。
その次の日には謝礼と相談を受けた。どうやらその子は極度のトラウマを抱えていてそれを言い出せなかったと。
授業の一環として習った記憶を消す魔法の存在(スティールメモリー)を教えて最悪の場合手配をしましょうかと尋ねた際に方法の伝授だけを感謝された。
薬剤師としての判断は正しかったのだがそれが間違いだったと知らしめられるのは数日後、とある国のニュースを拝見した時だった。
元々情報の一環として他国の新聞を輸入していた影響もあってか地方紙の1枚に少年の誘拐事件を綴った物があったのだ。
その事にいち早く気が付いた私は星座の町サイレックオードに向かおうとした...が、それは許されなかった。
先ず事前に調べた所彼等の名前は存在しないモノだった。研究していたというその場所の存在も無かった。
ただ確実にこの場所に来たのは確実で診断もしたのだから少年自身がそれを証明すれば良い、良かった筈だった。
だが少年は記憶を失っていた。
理由については予測は簡単だった、自身が教えた魔法の存在もあったからだ。
そしてここから導き出される結論は紛れもなく自身が確実に犯罪へと加担させられた事と詳しい調査がこちらにまで及べば私自身の無実を証明する術すら無いと言う事実のみ、そして変な動きをしようモノならその研究機関から私自身も粛正の対象になるのは確実だった。
少年の空白期間の内訳は予想だけど
攫われて何か実験を行われた→ユーシズに移動、私の手で診断･薬剤の投与→スティールメモリーで記憶の消去→発見
私は薬剤師《ドラッグメイカー》を辞めて旅に出ると職場に告げて逃亡生活を行う羽目になった。
何かから逃げるように、警戒を常にしながらも、こうして私は秘密裏に表社会から殺されて姿を消した。

逃げ続ける中でもお金はどうしても必要な物だ。私は自身の職歴から表社会で決して出来ない事に手を染め続けた。
闇医者(ダークドクター)として同じく日陰者の存在からお金と逃亡の支援を受けながら何とか生き延びていた。
慣れたくも無い逃亡生活も次第に慣れていきその日々は気が付いたら6年も経過していた。
浜辺に打ち上げられた子を応急処置をしたりルーンフォークの起動を行ったり色々な場所で決して表沙汰には出来ないことに手を染めながらもそのお陰で救えた命があった事だけが私にとって救いだった。
そして私が表社会に復帰することを条件にとある研究機関から再び依頼を受ける。
それは重傷を負った子の治療を行う事だった。
どうしては聴かなかった、けれど表社会に復帰出来る、これについての詳細だけはしっかりと突き詰める必要はあった。
曰く研究機関としては滅びを向かえたらしい、だが研究としての目的は種の生存、大樹が成されたことで種は眠りについた、そして残された小種としての一部がこの子らしい、残りの種は静かに成長を続けていてこの子は眠ったまま、どうにか目覚めさせられないかを目的としてる...らしい。
詳しく調べれば構造としては単純だった。この子の身体は今ルーンフォークのモノとして仮初の器に備え付けられているモノだ。
その意識を他に移す事が出来ればその子の意識をそのままに...と仮説を立てた。
だが自分にはそこまでの技術は持ち合わせていない。
なので協力者を1人呼び寄せた、1度だけ手助けをして多くの魔法を扱える人物、彼女と私でとある実験じみた事を行った。
目覚めぬ身体からスティールメモリーで記憶を抽出した。相手の事を知るためだ。
そして彼女の身体を少しずつ解体して再生させた、死んだ細胞から新たな細胞を作り上げる、身体を再生する魔法(リジェネレイション)を用いてゆっくりと再生していく。
そこまでは彼女に行って貰い私はゆっくりと記憶の再生を行っていく、その過程で彼等が行った実験の詳細を知ったが彼等にとっては終わってしまった事、こちらも報酬を貰う手前互いに全てを黙っていた。
意識を取り戻した際に彼女の記憶に関して何があったかをゆっくりと刷り込んでいった。
静かに語りかけながら彼女の記憶を作り上げた。
大事な部分だけは辻褄が合うように隠し合わせた。
最後に依頼者、私、協力者の3人の事だけ記憶を失わせて彼女をスフバールに送り届けた。
これで依頼は完了してその報酬として本当に表社会に復帰出来ていた、何をしたかは分からないが新たな身分と名前を手に入れてその履歴とかも完璧に作り出されていたのだ。

ずっと逃げ続けた人生とは完全に別れを告げたモノの私自身の手元には何一つ残っていなかった。
これからはどうしようか悩んでいた時に共に仕事をした協力者に冒険者になれば？と言われた。
身分はあってなるのにも問題は無さそうだと私自身感じている。
暫く騙されるのは懲り懲りだとも感じている。
...冒険者になるのも良いのかなぁ...と1つ紹介されたギルドの門を潜る...
私は静観者...今はただ静かに表舞台に潜む者。