『名もなきグラスランナーの少女』
家族は実の肉親ではない。自分でもどのように生まれたかもよくわかっていない。
アルステリスはグラスランナーであり、その中でもクロノメノスという希少種であった。
偶然このクロストルール近辺にいたから、生きるために盗みを働いていた。
そしてある時、新興商会の金品もいつものように盗もうと夜中に忍び込んだが、彼女はその頃にはやりすぎていた。
商会の中には罠が張り巡らされており、簡単に捕まってしまった。
しかし彼女は処罰されることはなかった。
罠を張り巡らしたのは、元冒険者であり、現在の両親たちであった。

母　　「あなたはどこから来たの？」
アルス「わからない。気づいたらこの町にいた。」
父　　「見たところ君はグラスランナーだろう？」
アルス「...そう。」
母　　「そう怯えることはないわ。私達はあなたに危害を与えるつもりはないの。」
父　　「そうだ。今までの君のやってきたことは悪いことだ。」
アルス「...ごめんなさい。」
父　　「思ったより素直でいい子だね。そこで君に提案がある。」
アルス「提案...？」
母　　「あなたさえ良ければ、私たちの子にならない？」
アルス「え...？どういうこと？」
父　　「私たちは暫く冒険者をしていたんだ。幸いそれなりにうまくいっててね。」
母　　「夢中になりすぎて気づいたら年を取りすぎてしまったのよ...」
父　　「今から子を成すというのも大変だろうから、養子を探してたのだよ。」
アルス「なんで...私...？悪い子だよ...？」
母　　「悪い子かもしれない。でもあなたには若いながら金品を見定めるしっかりとした観察眼がある。」
父　　「私たちはそんな君が欲しい。」
アルス「よくわからないよ...」
母　　「知って入ってきたのかはわからないけど、私たちこれから盛り上がる商会を作ろうとしているの。」
父　　「だから君のその観察眼が必要というわけだ。」
母　　「あなたに不自由はさせないわ。」
アルス「で、でも...」
父　　「別に跡継ぎを探しているというわけではないのだ。」
アルス「...？」
母　　「逆にね、どうやって品物を選定しているのかを教えてくれるだけでいいの。」
父　　「それさえ教えてくれれば私たちは君の罪をすべて許し、周辺の方々にも謝罪してこよう。」
アルス「ほんと...？」
母　　「ええ。私たちは本気よ。今後、商人として生きていきたいの。」
父　　「グラスランナー仕込みの選定ができればそれはなんて素晴らしい事か。」
母　　「今まで出会ってきたグラスランナーの冒険者たちも素晴らしい観察眼を持っていたわ。」
父＆母「だから私たちの子供になってはくれないか？」
アルス「私が本当に役に立つかはわからないけど、二人がそういうなら...いいよ。」
父　　「じゃあこれからは私たちの子だ。よろしくな。」
母　　「よろしくね。それであなたの名前は？」
アルス「覚えてない。興味もない...」
父　　「ならアルステリスなどはどうだろうか。思い付きで悪いが、何となくそう思ったんだ。」
母　　「アルステリス！いい名前じゃない！新愛を込めてアルスって呼んだりして...！」
アルス「アルス...テリス...うん。じゃあそれでいい。」
父＆母「改めてよろしく。アルス。」

こうして名もなきグラスランナーの少女だったアルステリスは新興商会の娘となった。

『独り立ち』
10歳を迎える頃には両親ともアルステリスの観察眼をある程度習得し、直感派の父と慎重派の母でうまく商品選定をすることで商会は軌道に乗り始めていった。
観察眼を両親に伝授しつつ、逆に元冒険者の両親から冒険者の心得や技術を習っていたが、両親よりもアルスは戦闘を行えるようになっていった。
そこで、12歳になる頃には冒険者登録をして、自由気ままに冒険者業を行っていた。
その際に一応の自立の意味も込めて両親の元からは離れ、一人暮らしを始めた。
アルステリスの判断に両親は喜ばしく思い了承した。

『奇術師。』
とあるクエストを受けていた時のことである。
町郊外での簡単なおつかいをしていた時に、ふと綿毛が舞っているのに気が付いた。
この付近はレンガ造りの建物ばかりなのに。
気になって周辺を探してみる。
すると冒険者の感か、グラスランナーとしての性か、はたまた両方か。
とある小道までたどり着く。
そこには先ほどよりも多くの綿毛が舞っていた。
買い物途中だったのだろうか、買ったばかりの食料がそこにいくつか散らばっていた。
これはきっと誘拐だ。
しかしこれ以上の痕跡を周辺には見つけることはできなかった。
アルス「私が言えたことじゃないだろうけど、誘拐するなんてひどい。」
それから被害報告をして、個人的にも調べを行った。
どうやら6日おきにこの事件は起こっているらしい。
そして毎回誘拐現場付近には綿毛が舞っている。
アルス「ダンデライオン...絶対に見つける...」
そうアルスは意気込むのであった。