……私は、ある研究施設にてこの世に生を受けた。名を「ACE-MIHR-β(エース・ミフル・ベータ)」。私を生み出したその理由は「至高の魔力を持つ兵器を造る」ため。どうやら私を使ってこの世界を支配しようと製作者の人々は考えていたらしい。
製作者の人々は私を“育成”し、様々な戦闘知識を授けてくれた。中でも「Doctor(ドクター)」と呼ばれていた研究者は私に執心していたようで、ほとんどの時間を彼と過ごしていた。
彼ら曰く“順調”に私の魔術回路が構成され、自立可能となってから約一年後、問題が発覚した。私の“活動停止”までの期間がわずか数年であることがDoctorによって判明したらしい。どうやら私は相当な資金を掛けた一大プロジェクトだったらしく、研究施設内は大騒ぎ。結果、私が放置される日も増加した。……彼と出会ったのは、そんな無為な日々の中。彼は開口一番こう言った。

「外の世界が、見たくないかい？」

私は訓練中を除き、自由に活動が許された施設の一区画を与えられていた。そこには書斎と呼ばれる数冊の学術本が置かれた部屋があり、私はその部屋が気に入っていた。前述した問題発覚後、いつものように書斎へ向かうと、いつもとは異なる事象が二つ。
一つ、すかすかだった本棚に、幾つかの書籍が追加されていた。数日前に要請した際には直ぐに却下された記憶があるのだが……Doctorが取り合ってくれたのだろうか？
二つ、見慣れぬ青色の生物が室内に鎮座していた。その生物は書斎へと入った私に気が付くと、ペタペタという足音を響かせてこちらへと歩いてくる。そして、「外の世界が、見たくないかい？」と私に話した。
それから、私は彼から色々なことを学んだ。この施設の外にも、広大な世界が広がっていること。私の力は、世界を壊すことだけでなく生かすことにも活用できること。……何れも施設内では知り得なかったことだ。いつしか私は、彼と共に外の世界を見たくなってしまっていた。
そして、来るべき日……私の最初で最後の反抗期プロジェクト“我儘”を実行する為の計画を実行した。

“我儘”決行の当日、私にとって予想外の出来事が起こった。施設に侵入者が現れたらしい。私は製作者の人々から侵入者の排除を役割として与えられていた……が、私を誑かした(この言葉はミリアさんに教えてもらいました。)彼、サザナミさんは「むしろ今が“我儘”の決行チャンスだ」と言われ、確かにその通りだと思った。
……私は、サザナミさんと共に製作者の人々に“我儘”をぶつけた。サザナミさんによると“感謝”は思い切り伝えた方が良いらしいので、自分の命に響かない程度で電撃魔法を放たさせてもらった。
その後、私は施設から家出をし、外の世界へと旅立つことに成功した。

私はそれからサザナミさんに別れを告げ、件の侵入者であるらしいフブキさんとミリアさんの元で生活することになった。サザナミさんからも少し言われたが、私には一般常識なるものが欠如しているとのことで、フブキさんの紹介の元暫く冒険者ギルドなる所で勉強させて頂くことにした。
これから私はどんな世界を見ることができるだろう……ああ、とっても楽しみです！

・経過状態

実験体固有番号『ACE-MIHR-α』(以下、α)と共に、『ACE-MIHR-β』(以下、β)の生育を開始。αは素体として肉体的観点からリルドラケンを採用としたが、βは魔力量に重点を置きタビットを素体として選択した。現在はゲル状となっており、意識はないものと思われる。経過観察とする。

Doctor

・経過状態

タビットの様な兎耳を持つ人型への成長を確認。下半身に該当する箇所は不定形であるため、人体の構造を学ばせるプログラムの追加を要請する。

Doctor

要請を承認する。

■■■・■■■

現在解読中……

……り、あの■は兵器としてではなくヒトと■て生きるべ■■。毒物や■器など■傷付■様子は実に■々しい■のだ。せめて毒に■く薬でも作っ■やれればいいのだが……。
一般■■市場にて出回っ■いる薬■を参考■、よ■強力か■鎮■作用のあ■ものを■り、彼女に■しておいた。飲ん■瞬間のあの驚■た表情と、直後に私に見せ■あの満面の笑み……そうだ。私は誰か■■んな■顔を見る■めに研■者になった■ずだ。……■のに。なのに、私はどこで道を■違えたんだ……？
彼女を外の世■へと逃がす計■を立てた。手始め■彼女の■動停止……■まり、寿命に関する情報を書き換えた。今■■究者どもは混乱し、すぐに彼女が放置され■■ととな■だろう。
あとは正義■■強い奴ら……冒険者どもにこの情報■■せば、この研究所も■■りだ。私もいつ死ぬ■■からないが、■■■自己満足の為にこの手記■■しておこう。
場■は……そ■■な。彼女の好きだった、書斎の本の間に■■せておこう。
元気に育ってくれよ。

Do■tor

※長期間放置されたからか、内容が所々欠落している。