“砂漠城塞”ラージャハ帝国、そこには“砂漠の聖女(アデニウム)”と呼ばれる敬虔なハルーラ信者の女性がいた。
　彼女は身も心も美しく、献身的で、純真無垢で、そして何よりも……当時は若く無謀だった。
　ただ篤き信仰のために巡礼の旅を計画し、護衛を伴って世界を回り、数多の人々の心を救おうと考えたのだ。
　その旅はしかし、数日で終わりを迎えることになる。
　突然のノスフェラトゥによる襲撃によって護衛は全滅し、彼女は連れ去られた。
　当時のことを彼女が口にすることはない。
　やがてラージャハへと戻ってくることができた彼女は身籠っており、周囲の反対を押し切って子どもを産むことを決めた。
　生まれた子どもは母譲りの美しい娘だったが、その目は夜闇に爛々と光り輝く……おおよそ人族の赤ん坊ではなかった。
　"ラルヴァ"──ノスフェラトゥと人族の肉体的交わりによって生まれる、禁忌の子。
　けれどもその子を彼女は心から慈しみ、優しさで包んで大事に大事に育てあげた。
　その子──イオタも母の愛に応え、歪むことなくまっすぐに育った。
　一度だけ母に「ノスフェラトゥへの復讐は考えないのか」と聞いたこともあったが、母は静かに首を振りイオタを諭した。
　「私は誰も恨んでいないわ。今はイオタ、あなたの未来をひとりのハルーラ信者として導きたい、それだけよ」と。
　それを聞いてイオタもその話題を二度と口にすることはなかった。そこには確かな敬意と、愛だけがあった。
　それでも母娘への周囲の扱いはまるで腫れ物に触るようなものだった。
　14になったある日、イオタは"魔法大国"ユーシズ魔導公国に魔法学校"七色のマナ"と呼ばれる教育機関があることを知る。
　これだ、と思った。
　誰にも文句を言わせない実績、それをここで積み上げ、立派になることで母への恩返しとしようと。
　そして何よりも……ずっと魔法には興味があった。
　自らのことを知らない地へ赴き、そこで出会った誰かとなら、友だちになれるかもしれないという期待もあった。
　母と話し、少し泣かれて、それでも母は嬉しそうだった。
　送り出された"七色のマナ"は毎日新鮮な驚きに満ちていた。ここに来てよかったと思えた。
　才能あふれるイオタはめきめきと頭角を顕したが、同時にどこか遠巻きにされていた。
　表情を出しにくい固い顔面、短く自信に溢れた言動、ピンと伸びた長身の背筋、颯爽とした立ち振る舞い、種族故の魔性の魅力。
　平たく言えばイオタは『誤解されやすかった』のだ。"高嶺の花(ゆうとうせいにしてもんだいじ)"として、尊敬と嫉妬の的になってしまった。
　結果、友だちと呼べる相手はまだできていない。本当は"イオ"というニックネームで呼んで欲しいというのも夢のまた夢。
　それでも、イオタは努力をやめることはない。いつか自分と友誼を結んでくれる相手が現れることを信じて。

　怪力にものを言わせたぶっ潰す攻撃力を備えながらも、魔法にも高い才覚を発揮している魔法戦士。
　交友関係の都合でソロで戦うことが多かった経験から、騎獣やゴーレムを操る能力も身につけた。
　ラルヴァ故に太陽の下では全力を発揮できないが、それでも可能な限り前に出て戦おうとする。