「うちの名前はヴィルヘルミナ・アルジェント。ふふ、長うて噛みそうになってまうやろ？ミナでかまへんさかい、よろしゅうお願いね」

「お金さえあげたら何でもするやろって……えらい失礼な人やなぁ。うちはあんたが思うてるより高うつくで？」

■特記事項
本名はヴィルヘルミナ(Vilhelmina)。付けられた姓名はなく、現在の姓名は開拓村オーレムに辿り着いてから考えた偽名。
ちなみにアルジェントの意味は白銀。妹のことを意識したネーミングではあるが、厄除けの意味も込めて名付けた。

　冒険者ギルド〈灯火の星証〉に在籍している女冒険者。彼女と交流のある者からはお金にがめついことで知られており、「お金の為なら何でもしそう」というのが世間からの評価となっている。だが、お金に執着するのは、いつか島を出て最愛の妹に不自由のない生活をさせてあげたいという夢と、元奴隷という異色の経歴に起因していることまではあまり知られていない。

　病的なまでに華奢な体型をしている。筋力はないわけではないのだが、慢性的な栄養状態の悪さが原因。また、元から美形ではあるのだが、他人から好かれるために化粧をしたり、頑張って着飾っている。
　黒髪は父親譲り。自分とは対照的に妹が母親似の銀髪であることを気にしているが、よく見れば目元が似ている。
　背中に奴隷の紋章が刻まれているため、背中を誰かに見せることを極端に嫌っている。

　教養こそないが、厳しい社会で生き抜いてきたが故の徹底的なリアリスト。社会の規範やモラルは弁えてはいるものの、目的のために必要であればそれらを全て切り捨てられる。ただ、彼女の行動はどれも私利私欲ではなく誰かの為であり、ある意味で主体性がない。お金に固執するのも妹の将来の為で、自分の為に頑張れないことが彼女の歪みとなってしまっている。
　普段はそういった自らの歪みを隠すために、陽気で悪戯っぽい愛らしげな少女の仮面を被っている。仮面で上手く世渡りできているため、逆に過去のトラウマから自分を好いてくれない横柄な人は苦手な傾向がある。トラウマが刺激されると見違えるほど臆病になってしまうこともあり、精神年齢は高いようで低い。不測の事態や攻められたりすると極端に弱いタイプ。
　彼女がこのような性格となってしまったのは、ひとえに「守ってくれる大人」が居なかったせいであり、奴隷社会が生んでしまった被害者であるのだろう。

　奴隷の娘として産まれてしまった薄幸の娘。あって当たり前のあらゆる欲求を暴力で押さえつけられて、母の地位を担保するための道具として扱われた。奴隷の現実を幼いながらも目の当たりにしていたために、それが当たり前だと思っていた彼女は従順にならざるをえなかった。ただ今日を生きるために、自分ではなく自分を愛してくれている母や他の兄妹のためであると言い聞かせて、凄惨な幼少期を過ごした。
　そして、12歳の時に異母兄が彼女に衝撃の事実を伝える。母に愛情など最初から無かったこと、自分と実妹が母の保身のために間もなく売られてしまうことを。未来などないことに諦念を抱く彼女であったが、母を殺害した異母兄は身を挺して都市から自分と実妹を脱出させた。一筋縄ではいかない過酷な旅路であったが、開拓村オーレムに流れ着いた彼女は初めて比較的まともな人族の社会を目の当たりにすることとなる。
　しかし、奴隷という身分はそんな場所でも枷となって彼女を苦しめた。特にイグニア島の外から来た者から差別の対象となり、後ろ指を指されながら苦しい生活を強いられた。生きていく手段を択んではいられず、他人には言えない事をやるしかなかった。たとえ無理解な大人から守銭奴だと蔑まれようとも。
　4年の歳月が経過し、冒険者となった彼女には夢ができた。いつかイグニア島から飛び出し、奴隷の枷から抜け出すこと。妹に幸せな将来を送らせてあげること。逆に言えば、それくらいしか生きていくモチベーションを見いだせなかった。愛想笑いを続けすぎて、心の底から笑うことができなくなってしまったから。

▼ララティーナ・アルジェント
　5歳年下の異父妹。盲目的な愛情を注いでおり、もはや生きる意味と化している。愛称は「ララ」。
　都市の脱出後は出来るだけ苦労をさせないように彼女は気を遣っているが、彼女が抱える歪みも含めて幼いながらも大体は見透かされている。
　とはいえ、非力な自分に現状を変える力が無いことも分かっており、生まれのせいで教養が身に付かなかった姉の代わりに必死に勉強をして、危ないことをしなくても将来生きていけるように学者を目指している。また、出来る範囲で陰ながら姉を支えている出来た妹。姉からは天才とか神童とか褒め称えられているが、あながち間違いではないのかもしれない。

▼オルベリク
　3歳年上の異母兄。ナイトメアだが、彼女が唯一懐いていた人物。
　当人も二人の妹のことを大切に想っており、彼女がラストラスパレスに売られそうになった際は、妹たちの母親を殺害して二人を〈城塞都市ニザヴェリル〉から逃がした。
　剣技と魔力を上位蛮族から評価されるほどの有望株であったが、その後の消息は分かっていない。

▼ソーニャ
　実母。奴隷として〈城塞都市ニザヴェリル〉の統治者に奉仕しており、二人の娘を儲けた。
　しかし、娘に対する愛情は一切なく、娘を奴隷として奉仕させることに何ら罪悪感を感じていなかった。むしろ、美しく生まれた娘たちを金銭に変えることで自由の身になろうとしており、最初から目的は故郷へ帰ることであった。
　間違いなく奴隷社会が生んだ被害者ではあるのだが、急ぎすぎたためにオルベリクによって殺害されてしまう。