一応「"樹神"ダリオン」を信仰しているナイトメア。
温厚を通り越して脳天気な性格で、「大体のことはなんとかなる」という考え方。
いつも煙草を吸いながら、ワインや蒸留酒の瓶を片手に街を闊歩しているほど、とてつもない酒と煙草好きである。

彼女は、子供の頃に家を飛び出した。
理由は、ナイトメアだからと差別され、虐待されていた、という種族の特徴的にありふれたものであった。
そこで一人のエルフに出会った、名を「アルギレット・アイコール」、自然や妖精をこよなく愛する高齢エルフの神官だ。
それからは、森の中の中にある小さな家で、二人と妖精で暮らしていた。
「"樹神"ダリオン」に対する信仰、神聖魔法についての知識、森の中での暮らし方、ナイトメアだから苦戦したが、妖精魔法の使い方まで、様々なことを教えられた。

そして何十年も経つと、老衰により、アルギレットは寝込んでしまった。
見た目の変化がかなり緩やかなエルフだが、元から見て取れるほど老人だったため、そう長くはなかった。
ある日、アルギレットはシリウスに対してこう告げた。
「誕生日おめでとう、これはワシからのプレゼントじゃよ」

渡されたのは、1つの煙管。
「よいか、酒も煙草も別に構わんが、それで他の人に迷惑をかけてはいかんぞ？"シリウス・アイコール"」
その言葉を聞いて、この人はやはり死ぬんだと、また自分は1人になってしまうんだと、シリウスは再度実感した。

数日後、アルギレットは静かに、静かに息を引き取った。
それから家の近くには1つのお墓ができ、その前で煙草を吸う1人のナイトメアの姿があった。

しっかりと煙管を握り締めたナイトメアは、街の冒険者ギルドの門を叩く。
「初めまして、"シリウス・アイコール"です。冒険者登録をしたいのですが」
それは1人で生きるためか、まだ見ぬ森以外の世界を見るためか、確かなことは、1人のナイトメアが冒険者になったことだろう。